三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

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小規模宅地等の特例について(1)       ~小規模宅地等の特例とは~

相続が発生した際に、(そもそも納付税額が発生するのか否かも含め)自分達が納めなければならない税の金額がいくらになるのか、ということを考える場合に、非常に重要な位置を占める法規定があります。

 

それが、租税特別措置法第69条の4「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」、通称「小規模宅地等の特例」です。

 

この特例は、詳細に説明をしようと思うと、それだけで本が1冊書けてしまうくらいのボリュームがあります。
ここでもそれと同じような説明をしようとすると、専門的に過ぎる話も多くなってきてしまって、簡単な解説とは到底言えないようなものになってしまいます。


ですので、今回は、「小規模宅地等の特例」がどのようなものなのか、どのような場合に適用があって、それによって納税者がどのようなメリットを享受できるのかというようなことを、基礎的な話に重点を置いて、数回に分けて簡潔に書かせていただきたいと思います。

 

一般の方でも分かりやすいよう、極力簡単にご説明しますが、どうしても専門的な話も入ってきてしまうと思いますので、「一通り読んだけれども、ここが良く分からない」というようなことも中には出てくるかもしれません。
その点、あらかじめお詫び申し上げておきます。

 

<1> 「評価額」と「課税価格」の違い

 

相続税贈与税は、納税者が相続や贈与により無償で財産を取得したことに対し、その、対価の支払をせずに取得したことから得られる経済的な利益に担税力を認めて税金を貸すという、いわば所得税の一種と呼べるようなものとなっています。

 

ここで、取得した財産の金銭的価値が、現金や預金のように誰にとっても明確なものであれば、その計算について、特に難しいことは無いでしょう。
しかし、実際に相続や贈与によって所有権が異動する財産は、そのような分かりやすいものばかりではありません。
そこで、土地や建物、特許権その他諸々、その金銭的価値が明示されていないものについては、適切な「時価」で評価を行わなければならないということになります。


しかし、その「時価」をどのようにして求めるのかという基準が無ければ、同一の財産であっても、それを取得したそれぞれの納税者が個々に別々の金額を設定することで、課せられる相続税贈与税の税額が変わってしまうことになりかねません。


全く同じ財産の贈与を受けたのに、Aさんはそれを1,000万円の価値があるとして贈与税の申告を行い、Bさんは100万円の価値しか無いから贈与税基礎控除である110万円の範囲内なので税額は発生しないとして申告を行わなかった。
これをそのまま認めてしまっては、税や国家に対する信頼性も何も、あったものではありませんし、課税の平等も損なわれてしまいます。


そこで、国税庁は様々な財産について、その評価方法の指針となる「財産評価基本通達」を公開しています。
厳密にいえば例外はあるのですが、相続や贈与が発生した時には、基本的にこの「財産評価基本通達」に従って財産の「時価」が算出されます。


こうして算出された「時価」が即ち、相続や贈与によって取得した財産の「評価額」となって、相続税贈与税は計算されるのです。

 

言い方を変えれば、相続や贈与によって取得した様々な財産の「評価額」を算出することで、その相続や贈与によって所有権が異動する財産がどれくらいの金銭的価値のあるものなのか、財産を取得する者がどれだけの経済的利益を得ることになるのかが、確定するということです。

 

ところで、相続税法第十一条の二第1項は、「相続税の課税価格」として、次のように規定しています。

 

相続税の課税価格>
相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもつて、相続税の課税価格とする。
相続税法第十一条の二第1項)

 

この「課税価格」に税率を乗じることで、その納税者が納めなければならない相続税の税額が算出されます。

そして、上記の条文にあるように、相続税の「課税価格」は、原則的に財産の価額、すなわち「評価額」の合計額であると規定されています。


であれば、「評価額」と「課税価格」というのは、実質的に同じものなのではないか。
そんな風に思われるかもしれません。
しかし実際には、この両者の金額は必ずしも一致しません。


それは、相続税の規定として、様々な政策的な配慮から、一定の要件を満たした場合に「評価額」を補正することのできるような特例が存在するからです。
それ等の特例の適用を受けた場合は、「財産評価基本通達」に則って算出された「時価」即ち「評価額」に一定の減額を加味したあとの金額が、相続税の「課税価格」の構成要素となることになります。


今回のテーマとなっている租税特別措置法第69条の4「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」、通称「小規模宅地等の特例」も、そういった特例の1つです。


<2> 小規模宅地等の特例の適用対象者と目的

 

まず、「小規模宅地等の特例」は相続税の特例ですので、贈与された「宅地」については適用が無いことはご承知ください。

 

なお、冒頭に書いたように、「小規模宅地等の特例」を定めているのは本法である相続税法ではなく、政策的な意味から設けられる時限立法である租税特別措置法第69条の4となっています。
ただ、条文内に期限を特定する文言はありませんし、現在の経済状況や日本政府の政策等を考えると、内容の微修正は(これまでにもあったように)これからもあり得るでしょうが、この特例そのものが無くなるということは、非常に可能性の低いことであると思われます。

 

この特例の適用を受けられる宅地は、次の4種類になります。

このうち、(それぞれに上限はありますが)「評価額」の80%が、50%が減額されます。


つまり、①、②、④に該当すれば、その「宅地」の「課税価格」が「評価額」の2割に、③に該当すれば「課税価格」が「評価額」の半額になるのです。


8割オフ、実生活の中でもなかなか見かけない割引幅ですよね。
相続財産の課税価格の合計額の中に土地が占める割合は非常に大きくなることが多いので、この特例の適用があるか無いかは、最終的な税額にも相当に影響を及ぼします。

 

① 「特定居住用宅地等」
② 「特定事業用宅地等」
③ 「貸付事業用宅地等」
④ 「特定同族会社事業用宅地等」

 

それぞれの詳細は次回以降に追ってご説明しますが、ひとまず字面を眺めていただくだけでも、どのような「土地」が対象となっているのかが何となく分かるのではないでしょうか。
要するに、被相続人(亡くなった方)等が住んでいる住宅の敷地の用に供されていたり、経営する事業の用に供していたりする「宅地等」に、この特例は適用されるのです。

 

具体的に条文を見てみましょう。
そのまま全文を掲載すると長すぎるので、適宜抜粋した、租税特別措置法第69条の4第1項を引用します。

 

<小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例>
個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(略)の事業(略)の用又は居住の用(略)に供されていた宅地等(中略)がある場合には、(中略)当該小規模宅地等の価額に(中略)区分に応じ(中略)割合を乗じて計算した金額とする。
租税特別措置法第69条の4第1項)

 

法律文なので読みにくかったり、内容がつかみ取りにくかったりするかもしれませんが、上記に説明したことがそのまま書かれていることがお分かりいただけるかと思います。

 

さて、ところで、このような特例は、どのような「政策的な意味」の下に定められたのでしょうか。
正式なものは国会の質疑応答議事録等に記録されていますが、研究者として論文を書こうというのでも無い限り、そこまで詳細な情報は必要ないでしょう。
ですので、ここでは分かりやすく、シンプルなイメージで認識していただければと思います。

 

端的に言えば、遺族の生活の維持が、この規定の念頭にはあります。
相続税の税額負担が大きすぎるが故に、遺族が住み続ける家の建っている土地、生計を立てる為の収入源である事業に使用している土地を手放さなければならない(それ等の土地を売却して納税の為の現金を調達しなければならなくなる)事態になるのは、政府としては本意では無い。
だから、そのような「宅地」については税額を計算する基礎となる「課税価格」を減額する特例を設けて、納税者の税額負担を軽減する。


「小規模宅地等の特例」とは、そういう背景の制度です。

 

 

以上、第1回である今回は、「小規模宅地等の特例」について、その基礎となる部分をご説明しました。
次回は、小規模宅地等の区分について、個々の内容を説明します。