いよいよインボイス制度の実施まで半年を切りました。
この制度については様々な議論が紛糾しているのが現状です。
中には「そもそも消費税とはどういう税金か」ということについての基本的な話もあったりして、今更ながらのタイミングになって、様々な意見・主張が飛び交っているようです。
これはちょっと認識にバイアスがかかっているのではないかと懸念されるような主張も見受けられたりしていて、それは危ういなとも思うので、そういうことも含め、「消費税」という税目については、改めてこのブログでも、どこかで書かなければならないかなと私としても考えているのですが……
ともあれ、まずは目先の課題として、インボイス制度が実施された時に私達が実務・会計入力等においてどのようなことに注意しなければならないか、ということを確認しておかなければならないと考えます。
そこで、今回は、そのいくつかを箇条書き的に採り上げ、簡単な解説を加えてみることにしました。
以前にアップした記事と被る部分も多いのですが、重要な改正についての解説ですので、そこはご容赦ください。
他にも現時点でお知らせしておくべきことがいくつかありますので、なるべく早く「その2」を、そこで書ききれなかった場合には「その3」を、公開していく予定となっております。
今年10月以降の会計処理を行っていくうえで非常に大事なことを書かせていただきますので、どうぞ、お付き合いいただけましたら、幸いです。
<1> 仕入れに係るインボイス番号確認の緩和
インボイス制度が導入される令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間の取引について、という期間の定めはありますが、基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者、あるいは特定期間の課税売上高が5千万以下の事業者は、支払額が1万円未満の仕入については、インボイス番号を確認することなく一定の帳簿を記帳し保存することで仕入税額控除が認められます。
つまり、これまでにやってきた処理と同様、簡単な領収証や、出金伝票等を入力原票として会計処理を行っても問題がなく、その相手先がインボイス番号を取得しているか否かにかかわらず、通常の仕入れ税額控除の対象として構いません。
<2> いわゆる「2割特例」
そのままであれば免税事業者に該当していた事業者が、敢えてインボイス番号を取得することで(免税事業者でいることもできた課税期間を)課税事業者となった場合に、令和8年9月30日の属する課税期間までの期間、適用できる特例です。
この特例の適用を受ける場合は、売上等により預かった消費税から差し引ける「仕入税額控除」の額を、預かった消費税の8割とすることができます。
実際の計算では差異が出ることもありますが、分かりやすく敢えて簡単に(簡潔化した形で)言えば、税抜売上高の2%が、その事業年度で税務署に納めるべき消費税等の額となるわけです(売上に関わる税率が全て10%の場合)。
原則的な税額計算(本則課税、簡易課税)との有利適用が認められていますので、両方のパターンで税額を計算し、納付税額が少ない方で申告を行うことになります。
相続で事業を承継した場合、課税事業者選択届出書を提出していた場合、一定額以上の特定の資産を購入していて本則課税適用の3年縛りを受けている場合など、2割特例が選べないケースもありますので、実際の申告書作成時などには、不安があれば、税務署や税理士等、専門家にお問い合わせいただくことをお勧めいたします。
<3> 少額な返還インボイスの交付義務免除
インボイスを発行した事業者が国内で行った課税資産の譲渡等に対して、返品や値引き、割戻しなどの売上げに係る対価の返還等を行った場合の話です。
もともとの規定では、こういう時には譲渡を行った事業者が、相手先に対して返還インボイスを交付する義務があったのですけれども、さすがにそれは煩雑なので、金額が税込1万円未満であれば、返還インボイスの交付義務を免除するというものです。
具体的にイメージしやすいのは、売掛金の入金時に差し引かれた振込手数料(販売元が負担することになるもの)でしょう。
原理原則で言えば、例えば売上先が 330円の振込手数料を差し引いた入金をしてきた場合に、その 330円について売上返還・値引きであるとしてインボイスを発行する必要があったのですが、それは実務的にわずらわしすぎるということで免除する、という規定ができたのです。
なお、この際の販売元の経理処理における、当該振込料の処理で気を付けなければならないことがあります。
それは、これを例えば「支払手数料」や「通信費」等の自社負担の振込手数料を計上している勘定科目に「課税仕入」として計上してしまうと、販売先から、当該振込料に関わるインボイスを発行してもらわなければならなくなる、ということです。
ですので、勘定科目として「売上値引き」等を使えとは言いませんが、消費税の区分としては、この差し引かれた振込料相当額 330円については、「課税仕入」ではなく、「売上返還」として入力をすることが求められます。
細かい話で恐縮ですが、ここは間違えやすい項目だと思いますので、経理担当の皆様は十分お気を付けの上、慎重な入力をお願いいたします。
<4> 家賃等、契約に基づき支払っている定額の経費
例えば契約書に基づいて毎月定額で支払っている事務所の家賃、駐車場の家賃について、毎回請求書を受け取っているという事業者様は、どれくらいいらっしゃるでしょうか。
実際には金融機関の定額送金サービスを利用していたり、そもそも口座引落で毎月勝手に引き落されていて、都度の請求書などもらっていない、ということも多いのではないかと思います。
こういうケースでも、原理原則の話をすれば、毎月の家賃等について支払先からその都度インボイスの発行を受けなければいけないことになります。
しかし、これはあまり現実味のない話ですよね。
そこで、こういった取引については、以下の方法であっても、仕入税額控除の要件を満たすこととされています。
- インボイス(適格請求書等)に求められる記載事項のうち、「取引日」以外のことを記載している契約書(賃貸借契約書、顧問契約書 etc.)を交わしていれば、取引日の確認資料として、① 引落しをされた口座の通帳・入出金明細等、② 振込をした際の振込票(振込金受取書)を保存することで、都度のインボイスの発行に代えることができます。
- 事業年度に合わせ、1年分の賃借料、顧問料等のインボイスの交付を受けることで、都度のインボイスの発行に代えることができます。
新規の取引に関しては、新たにかわす契約書を「1.」の要件を満たすものにすればいいでしょうし、既存のものについては、契約書を再作成・再締結できそうであればそれでもいいですが、実際には「2.」の形で、年間の合計インボイスの交付を依頼するというのが現実的な対応である気がします。
<R05.08. 追記>
既存の契約書では不足している記載項目について、それ等を記載した「ご案内」等の覚書を別途作成し、双方が保管することで(印刷物ではなく、メールなどの電子的方法による通知でも可です)、要件を満たす契約書として取り扱うことができる旨が国税庁により公表されています。
インボイス制度への対応としては、契約書を再度かわしなおすのが困難な場合は、この方法を選ぶのが、一番現実的かもしれません。
<5> 会社カードを利用した決済
売上原価、経費等に相当する全ての取引について、取引の都度のインボイス交付が必要というのが大原則ですが、では、会社名義のクレジットカードを利用した場合はどうでしょうか。
旧来より、クレジットカード決済の場合も、会計処理上も税法上も、1つ1つの取引についてそれぞれ領収証・レシート類の添付が必要でした。
しかし、実際にはそういった書類が無いまま、クレジットカードの利用明細書から直接会計データを入力するということも、行われていたかと思います。
インボイス制度下においては、クレジットカードを利用した取引についても、全て、その料金の支払先が作成したインボイスが存在することが、仕入税額控除の対象となる前提です。
ですので、クレジットカード決済をした場合でも必ず、領収証等(「クレジットカード売上票」では、その取引の内容が確認できないので駄目です)の発行を受けて、それをクレジットカード利用明細に添付するなどして、いつでも確認ができるようにしなければなりません。
また、インボイス制度が始まれば、1つの1つのインボイスごとに消費税額を計算し端数処理がされるので、入力もそれに合わせてインボイスごとに入力をする必要が出てきます。
これまで、クレジットカード利用明細の、例えば駐車場代などについて、1か月分の合計額を出して「タイムズ駐車場 〇月分〇〇件 △△△△円」というような、まとめての入力をしていたとしても、10月以降は個別の明細ごとに1つ1つ仕訳を起こすのが原則です。
以上、今年10月のインボイス制度導入に向けて、主に会計処理の点で注意しなければならないと考えられることを、まず5点、書いてみました。
伝票・レシート類の管理ルールを変更しなければならない事業者様もいらっしゃることが想定されます。
制度開始まであと5ヶ月、今からしっかりと準備をしていきましょう。