三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

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「名義預金」と「名義保険」 ~相続人以外への暦年贈与

 前々回のエントリでは、本年(令和6年)中に行われた贈与から適用対象となる、暦年贈与及び相続時精算贈与の改正について、簡単にご説明しました。

特に暦年贈与に関わる改正、生前贈与加算の対象となる期間が相続の開始前3年間から7年間に延長されるという項目は、相続税対策としてまず最初に考えるべき方法として一般的な、贈与税基礎控除である110万円の範囲内で少しずつ財産を移動していくという手法に対し、与える影響が無視できません。

 

この改正への対応として、法定相続人ではない孫などに同様の贈与を行っていくという手法が、しばしば言われているようなのですが、これはそんなに単純な話ではありません。

今回のエントリは、前回の補足として(予告通りに)その辺りのことについて確認をしたいと思います。

 

<1> 生前贈与加算の対象となる受贈者

前回書いたように、生前贈与加算については、相続税法第19条がその内容を規定しています。

以下に、同条第1項の条文を、一部引用します。

 

「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(中略)の価額(中略)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみな」す

相続税法第19条第1項より

ここで注目されるのが、冒頭。

そこには、「相続または遺贈により財産を取得した者」(以下、「相続人等」といいます)が、この制度の対象となっていることが書かれています。

「相続」は、法律により亡くなった人の財産を引き継ぐ権利を有している者(法定相続人)が、その権利に基づいて財産を承継すること、「遺贈」は、被相続人が残した遺言状等で確認される遺志により、指定された者が指定された財産を承継することを言います。

この条文は、このどちらかで被相続人の財産を取得した者については、生前贈与加算制度の対象とすることを謳っているわけですけれども、では、「相続または遺贈により財産を取得」していない者が、亡くなった被相続人から相続開始前7年間に贈与を受けていた場合はどうなるのでしょうか。

 

当然、その者については、相続税法第19条は効力を発揮しません。

これは、例えば高齢の男性が余命宣告をされた際に、自分がこれまでコレクションしてきた(市場価値のある)収集品を、同好の士である友人に譲っていたとして、ではその男性が亡くなった際にその収集品は相続財産として加算され、その友人も財産分与の話し合いに参加してもらわなければならないのか、と考えれば、理解していただけるのではないかと思います。

当然、そのようなことはありませんよね。

 

相続財産に対して法的な権利を持たない者に対する贈与まで、わざわざ「みなし相続財産」として相続財産に含め、贈与税ではなく相続税を課しなおすというようなことは、行われないのです。

 

<2> 相続人等以外への暦年贈与

相続人等以外の者に生前に贈与していた財産は生前贈与加算されないのですから、ならば、身内の中から、財産をあげてもいいと思える相続人以外の者、例えば孫などを対象にして、年間110万円の範囲内で贈与をしていれば、その財産の移動については税金がかからないということなのではないか?

これは確かにその通りで、被相続人が亡くなる前に、その被相続人の息子(あるいは娘)が亡くなってしまって、その孫が代襲相続人になってしまうことが無い限りは、相続税の課税を回避することができます。

 

ただし、それは、その「孫」に確かにその財産の所有権が移転されたということが明らかである場合の話です。

ここで、財産の所有ということについて、法律がどのように定義づけているのかを確認してみましょう。

 

<所有権の内容>

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

民法第206条

民法は、このように規定しています。

例えば、相続税の課税回避スキームとしてしばしば言われていることとして、以下のような手法があります。

  1.  相続人等ではない「孫」名義の預金を作り、毎年110万円をそこに預け入れる
  2.  「孫」を契約者とする年間支払保険料110万円以下の生命保険等を契約し、保険料を負担する。

一見、これは問題のないことのように思えるかもしれません。

しかし、このスキームによって相続税の課税を回避するのであれば、その「預金」や「保険契約」が、資金の流れ的にも、民法第206条等に照らし合わせても、疑いなく「孫」のものであると言えるものでなければなりません。

 

<3> 「名義預金」と「名義保険」

例えば書類上の名義人が「孫」である預金があったとしても、その通帳や銀行員を、「孫」が成人したら渡そうと思っている、等の理由から、被相続人が管理していたらどうでしょうか。

その預金について「自由にその所有物の使用、収益及び処分をする」ことができるのは、「孫」であると言えるでしょうか。

また、書類上の契約者が「孫」である生命保険契約について、保険料を「孫」本人が負担していないようなものを、その「孫」が管理維持している保険契約であると言うことができるでしょうか。

 

そのような場合は、形式がどうであれ、その預金や生命保険契約は、被相続人が依然として実質的に所有管理していると考えられはしないでしょうか。

 

こういう預金や保険契約のことを、「名義預金」「名義保険」と言います。

これ等は実質課税の原則からも、形式的な名義はどうであれ、被相続人が所有し続けている財産であると税法上は判断され、「みなし相続財産」として相続財産にカウントされることになります。

これについては、相続開始前7年間というような縛り・限度もありません。

何年前からのものであろうと、全て、相続財産とみなされます。

仮に、生前贈与加算等により相続財産に加算されることを避けようとして、「孫」名義の預金を作ったり生命保険を契約したりしていたのであれば、これでは、元も子もないということになります。

 

民法第206条の規定に則れば、もし、「孫」名義の預金がみなし相続財産になるのを防ぐのであれば、少なくともその通帳や銀行員は「孫」本人に渡し、引出も解約も「孫」が自由にできるようにしていなければならないでしょう。

また、生命保険契約については、その保険料の支払いが「孫」名義の口座等からされているのが最低条件で、さらに、その保険の契約に際して、「孫」自身の意思が明確に示されていると証されることが求められることもあるかもしれません。

 

「孫」が未成年の場合は、以下の民法824条の規定により、親権を持つ親が財産の管理と財産に関わる法律行為の代行を行うことができますが……

 

<財産の管理及び代表>

親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

民法第824条

状況次第ではあるでしょうし、複数の裁判事例とその判決を確認してみなければ断定はできませんが、ここまで確認してきた範囲でいえば、「孫」がまだ小さいのであれば、個人的には、生命保険契約について親が代行していればいいとするのは、少しリアリティーの薄い話に思えます。

 

以上、暦年贈与に関わる生前贈与加算の適用を避けるために、相続人等に該当しない「孫」等に対し、「預金」や「生命保険契約」の形で暦年贈与を行う場合に考えられる問題点を書かせていただきました。

現在そういったことを実行しようかと考えられている人は、今回ここに説明したことを踏まえたうえで、税理士等の専門家によくご相談のうえで、実行の可否を判断されることを、強くお勧めさせていただきます。