ここ数年で、一気にキャッシュレス決済が一般的になってきています。
会社の経費支出なども、現金で支払をしたものだけでなく、様々なキャッシュレス決済手段で支払いを行ったものが増えていることでしょう。
そのようなキャッシュレス決済を使った場合に、税法上(あるいは会計上)で保存を求められる証拠書類は何か。
2026年8月10日のエントリーでは、その点についてクレジットカードを主な例として説明を行いました。
hirabayashikaikei.hatenadiary.jp
その際に最後に触れた、SuicaやPasmo等の交通系ICカードを利用した決済の注意点について、今回は書いてみようと思います。
<1> 交通系ICカードの概要
ざっと簡単に調べてみたところ、日本で交通系ICカードが初登場したのは2001年、JR東日本でのSuicaの運用開始になります。
なまじ昔を知っていると、もうそんなに経ったのかと驚かされますが、誕生から四半世紀以上が経過する中で、後発の交通系ICカードとの相互利用なども始まって利用者の利便性が拡大し、現在に至っています。
この間の全国各地の動向とか、相互利用拡大の流れとか、この辺りの歴史を追っていってみたり、クレジットカードやQRコード決済でのタッチ乗車も始まっている今後の展望に関して各所で語られている様々な分析を調べてみたりというようなことも面白そうなのですが……。
今回の本題からは外れてしまうので、ざっくりと書くに留めさせていただきます。
当初は電車代の決済手段として誕生した交通系ICカード。
駅構内での買い物にも使えるようになったり、駅内の商店でも使えるようになったり、「エキナカ」「エキチカ」での利用者拡大を行った後、駅を離れて市中の様々な商店等でも交通系ICカードを使った決済ができるようになるなど、その利用範囲はどんどん拡大してきました。
一方で、2024年に熊本市のバスや電車を運行する5社が読取機器の更新費用が多額に上ること等を理由に全国交通系ICカードによる決済を廃止することとなったのはなかなか衝撃度の大きなニュースでした。
なお、熊本市のケースとは理由は異なるのですけれども、私の住む国分寺市のコミュニティーバスも運行委託会社の変更で交通系ICカードが使えなくなった時期があったのですが、おそらく利用者からの苦情があったのでしょう、しばらくしたら再び交通系ICカードでの決済が復活しています。
以上のことから分かるのは、交通系ICカードが日々の生活における決済手段の1つとしてすっかり浸透していることです。
電車代やバス代といった公共交通機関の支払以外でも、レジ等で交通系ICカードによる支払いを選択する人は珍しくなくなりました(最近はQRコードでの決済の方が増えている感もありますが)。
そんな状況を前提として、次に、交通系ICカードの会計処理を考えてみます。
<2> 交通系ICカードの会計処理
実務上、交通系ICカードに関しては幾つかの処理方法が考えられます。
交通系ICカードは一部を除き原則的にプリペイド方式ですので、事前に一定額のチャージを行う必要があります。
つまり、実際の利用よりも先に金銭の支出が生じるわけです。
それに対して、どのような会計処理を行うべきか。
いくつかのパターンが考えられます。
① 一番シンプルなのが、そのチャージの都度、チャージされた金額を「交通費」等の科目に計上して損金処理を行うこと。
キャッシュアウトが行われると同時に費用計上がされるので、管理上、一番楽なのはこれでしょう。
ただし、後述するように、これには費用計上時期や、使用する勘定科目など、いくつかの問題が存在します。
② 次に、チャージの時点では「前払金」等の勘定科目で処理を行い、次のチャージ時等に利用履歴を提出してもらい、その内容に応じて仕訳を計上する方法。
プリペイドという形式から言えば、これが一番会計の原則に即した処理なのかもしれません。
ただ、前払になっているチャージを「誰が」「いつ」行ったものなのか個別に管理し、利用履歴の提出を受けて消込をしていくという作業は非常に手間のかかるものですから、現実的ではない方法だと言えるでしょう。
③ 最後に、交通系ICカードのチャージ時には、まったくの経理処理を行わないという方法。
ICカードを使って交通機関に乗る、あるいは何らかの物品を購入する、といったような行為が生じたら、レシート類やそこでの支出額を記載した精算書をもとに、現金等で生産するというやり方です。
これは通常の現金経費の精算と同じことですから、取り立てて何がどうということにもならないかと思われますが、社員の側からすると一時的に会社の経費を立て替えていることになりますので、その点に不満が出てくる可能性はあります。
それぞれ一長一短あり、というところですね。
私が知っている範囲内でのことにはなりますが、出張等が頻繁に行われるような会社、外回りの営業活動が非常に多いような会社を除く一般的な中小企業では、①の処理を選択していることが一定数存在するという印象があります。
実際の支出時とのズレについては、チャージ額精算の頻度、全体の経費に占めるチャージ額の比率の低さなどから、「重要性の原則」に基づいて考えないことにして、簡易的な処理を行うということは、間違いとは言えません。
ここで一番問題になるのは、交通系ICカードにチャージされた金額が、実際にはどのように使われたものなのかが、この処理では反映されないというところになります。
その点を、先日某社の税務調査で指摘されました。
<3> 税務調査等での指摘事項
当然ながら詳細は書くことができないのですが、交通系ICカードについて、チャージ時に全額を「交通費」で処理をしていた会社に対し、税務署側が指摘したのは、本当にこれは交通費として使われているのか、という使用内容についてでした。
チャージ時に損金算入をしてしまうと、実際には決算期が変わった翌期にしようをされた経費も先んじて損金処理をされてしまうのではないかという、いわゆる「期ズレ」の件については特に問題視はされていません。
特に税務署側が気にしたのが、チャージした金額が本当に「交通費」として使われたのか、ということ。
損金算入額に制限がある「交際費」に該当するようなものがあったのか、ということもあるでしょうが、何よりも彼らが引っ掛かっていたのは、そこに個人的な支出が混ざっていないか、ということでした。
<1>で書いたように、今や交通系ICカードを決済に使える店はあちこちに数多く存在しています。
チャージ時の経費計上を行っている場合に、その中に事業では使わない私的な買い物が紛れていないかどうかをきちんと把握できているのか、そこが今後は問われてくるでしょう。
この税務署からの指摘は、以前からチャージ時の経費計上処理の弱みだと思っていたこともあり、いずれどこかで言われる事だろうと予想はしていた内容でしたから、そこまでこちらも驚きはありませんでした。
とはいえ、いよいよ国税側が交通系ICカードの会計処理まで気にしだしたというのも(まだ実例としては1件だけとはいえ)事実でありますし、今後も様々な顧問先での税務調査等のたびにここに指摘を受け続けるのも、どうかという話です。
チャージ時の「交通費」計上が正しい処理であると立証する為には、交通系ICカードの利用履歴が必要になります。
これは、駅にある券売機等か、あるいはモバイルで使用している場合にはアプリからも確認と印刷をすることができます。
定期的に履歴を印刷して、確かに電車やバスの支払にしか使っていないことを示せれば、問題はありません。
また、仮に、交通系ICカードで何らかの物品購入などを行った際には、必ず、その内容の分かるレシートあるいは領収証を受け取り、経理に提出するようにしてください。
それを受けて、経理がしっかりと勘定科目の振替仕訳を行っているのであれば、それはそれで大きな問題にはならないでしょう(もちろん、個人的な利用についてはその使用金額を本人からしっかりと徴収し返金という形をとらなければなりません)。
これが面倒くさくて嫌だということであれば、<2>に挙げた ② か ③ の処理方法を採用することが、残された選択肢です。
一般的な事業者の、経理全体、会計全体における影響度合いから考えると、かなり細かいところの話にはなるのですけれども……。
課税当局からの余計な突っ込みどころを残さない、適正な経理処理を行うにあたり、交通系ICカードの経理処理についても、どれが自分達にとって最も良い方法なのか、検討のうえで、方針を決めていただければ。
そう思って、今回のエントリーを書かせていただきました。