三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

「名義預金」と「名義保険」 ~相続人以外への暦年贈与

 前々回のエントリでは、本年(令和6年)中に行われた贈与から適用対象となる、暦年贈与及び相続時精算贈与の改正について、簡単にご説明しました。

特に暦年贈与に関わる改正、生前贈与加算の対象となる期間が相続の開始前3年間から7年間に延長されるという項目は、相続税対策としてまず最初に考えるべき方法として一般的な、贈与税基礎控除である110万円の範囲内で少しずつ財産を移動していくという手法に対し、与える影響が無視できません。

 

この改正への対応として、法定相続人ではない孫などに同様の贈与を行っていくという手法が、しばしば言われているようなのですが、これはそんなに単純な話ではありません。

今回のエントリは、前回の補足として(予告通りに)その辺りのことについて確認をしたいと思います。

 

<1> 生前贈与加算の対象となる受贈者

前回書いたように、生前贈与加算については、相続税法第19条がその内容を規定しています。

以下に、同条第1項の条文を、一部引用します。

 

「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(中略)の価額(中略)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみな」す

相続税法第19条第1項より

ここで注目されるのが、冒頭。

そこには、「相続または遺贈により財産を取得した者」(以下、「相続人等」といいます)が、この制度の対象となっていることが書かれています。

「相続」は、法律により亡くなった人の財産を引き継ぐ権利を有している者(法定相続人)が、その権利に基づいて財産を承継すること、「遺贈」は、被相続人が残した遺言状等で確認される遺志により、指定された者が指定された財産を承継することを言います。

この条文は、このどちらかで被相続人の財産を取得した者については、生前贈与加算制度の対象とすることを謳っているわけですけれども、では、「相続または遺贈により財産を取得」していない者が、亡くなった被相続人から相続開始前7年間に贈与を受けていた場合はどうなるのでしょうか。

 

当然、その者については、相続税法第19条は効力を発揮しません。

これは、例えば高齢の男性が余命宣告をされた際に、自分がこれまでコレクションしてきた(市場価値のある)収集品を、同好の士である友人に譲っていたとして、ではその男性が亡くなった際にその収集品は相続財産として加算され、その友人も財産分与の話し合いに参加してもらわなければならないのか、と考えれば、理解していただけるのではないかと思います。

当然、そのようなことはありませんよね。

 

相続財産に対して法的な権利を持たない者に対する贈与まで、わざわざ「みなし相続財産」として相続財産に含め、贈与税ではなく相続税を課しなおすというようなことは、行われないのです。

 

<2> 相続人等以外への暦年贈与

相続人等以外の者に生前に贈与していた財産は生前贈与加算されないのですから、ならば、身内の中から、財産をあげてもいいと思える相続人以外の者、例えば孫などを対象にして、年間110万円の範囲内で贈与をしていれば、その財産の移動については税金がかからないということなのではないか?

これは確かにその通りで、被相続人が亡くなる前に、その被相続人の息子(あるいは娘)が亡くなってしまって、その孫が代襲相続人になってしまうことが無い限りは、相続税の課税を回避することができます。

 

ただし、それは、その「孫」に確かにその財産の所有権が移転されたということが明らかである場合の話です。

ここで、財産の所有ということについて、法律がどのように定義づけているのかを確認してみましょう。

 

<所有権の内容>

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

民法第206条

民法は、このように規定しています。

例えば、相続税の課税回避スキームとしてしばしば言われていることとして、以下のような手法があります。

  1.  相続人等ではない「孫」名義の預金を作り、毎年110万円をそこに預け入れる
  2.  「孫」を契約者とする年間支払保険料110万円以下の生命保険等を契約し、保険料を負担する。

一見、これは問題のないことのように思えるかもしれません。

しかし、このスキームによって相続税の課税を回避するのであれば、その「預金」や「保険契約」が、資金の流れ的にも、民法第206条等に照らし合わせても、疑いなく「孫」のものであると言えるものでなければなりません。

 

<3> 「名義預金」と「名義保険」

例えば書類上の名義人が「孫」である預金があったとしても、その通帳や銀行員を、「孫」が成人したら渡そうと思っている、等の理由から、被相続人が管理していたらどうでしょうか。

その預金について「自由にその所有物の使用、収益及び処分をする」ことができるのは、「孫」であると言えるでしょうか。

また、書類上の契約者が「孫」である生命保険契約について、保険料を「孫」本人が負担していないようなものを、その「孫」が管理維持している保険契約であると言うことができるでしょうか。

 

そのような場合は、形式がどうであれ、その預金や生命保険契約は、被相続人が依然として実質的に所有管理していると考えられはしないでしょうか。

 

こういう預金や保険契約のことを、「名義預金」「名義保険」と言います。

これ等は実質課税の原則からも、形式的な名義はどうであれ、被相続人が所有し続けている財産であると税法上は判断され、「みなし相続財産」として相続財産にカウントされることになります。

これについては、相続開始前7年間というような縛り・限度もありません。

何年前からのものであろうと、全て、相続財産とみなされます。

仮に、生前贈与加算等により相続財産に加算されることを避けようとして、「孫」名義の預金を作ったり生命保険を契約したりしていたのであれば、これでは、元も子もないということになります。

 

民法第206条の規定に則れば、もし、「孫」名義の預金がみなし相続財産になるのを防ぐのであれば、少なくともその通帳や銀行員は「孫」本人に渡し、引出も解約も「孫」が自由にできるようにしていなければならないでしょう。

また、生命保険契約については、その保険料の支払いが「孫」名義の口座等からされているのが最低条件で、さらに、その保険の契約に際して、「孫」自身の意思が明確に示されていると証されることが求められることもあるかもしれません。

 

「孫」が未成年の場合は、以下の民法824条の規定により、親権を持つ親が財産の管理と財産に関わる法律行為の代行を行うことができますが……

 

<財産の管理及び代表>

親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

民法第824条

状況次第ではあるでしょうし、複数の裁判事例とその判決を確認してみなければ断定はできませんが、ここまで確認してきた範囲でいえば、「孫」がまだ小さいのであれば、個人的には、生命保険契約について親が代行していればいいとするのは、少しリアリティーの薄い話に思えます。

 

以上、暦年贈与に関わる生前贈与加算の適用を避けるために、相続人等に該当しない「孫」等に対し、「預金」や「生命保険契約」の形で暦年贈与を行う場合に考えられる問題点を書かせていただきました。

現在そういったことを実行しようかと考えられている人は、今回ここに説明したことを踏まえたうえで、税理士等の専門家によくご相談のうえで、実行の可否を判断されることを、強くお勧めさせていただきます。

 

 

税務署からの納付書の送付について

国会の審議がほとんど進んでいないようにも見えたりしていましたが、それでも3月末には改正税法が決議され無事に国会を通過。

そこでは色々な改正項目が通っているのですが、それ以外にも、今年の5月以降についてこれまでと大きく異なる取扱いになり、納税者への影響も大きいものが1つあります。

 

昨年(令和5年6月)に国税庁が公表していた「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」に出ていた話になるのですが……

税務署としてキャッシュレス納付を推進していきたいという意図から、令和6年5月以降発送分から、電子申告をしている等の一定の要件を満たす事業者には、「納付書」を事前送付しなくなったのです。

 

例えば当事務所の関与先様は電子申告にて申告を行うことを前提にさせていただいており、当然、この要件を満たすことになります。

 

事前送付がないとしても税務署に出向いて窓口で納付書を受け取ってくればいいのですが、これをいい機会と捉え、ここで思い切って納付方法をキャッシュレスに切り替えるのを検討するのも悪くないのではないかと当事務所は考えます。

 

ちなみに、TKCの会計ソフト「FX2」「DAIC2」「e21まいスター」をご利用の場合には、TKCの提供している「電子納税かんたんキット」を利用することでかなり簡単にキャッシュレス化することができます。

また、そうでない場合は国税の「自動ダイレクト」等の利用も、これからは有力な選択肢になってきます。

 

ただ、前者は納付期限までの好きな日付を引落日に選ぶことができるのに対し、後者は自動的に納付期限の引落になるので、利便性という点では前者にやや劣ります。

また、後者は場合により利用制限に引っかかり、ダイレクト納付ができないこともありますので、その点での使い勝手の悪さもあります(とはいえ、これに該当することはなかなか無いでしょうが)。

 

一方、前者も後者も、納付日(納付指定日)の朝一番で引落処理が行われるのですが、そこで残高不足で口座引落ができなかった場合に、再度午後などに引落を試みてくれたりはしないという点では同じです。

つまり、その時点で引落不能として処理がされてしまうのです。

場合によってはその結果として延滞税などが発生してしまうことも考えらえれますので、前日までに必ず、引落対象の口座に十分な残高を確保しておかないといけないという点には、注意しなければなりません。

 

今回は概要の話をさせていただきましたが、実際に自分はどのような対応をするべきか等、詳しいことを知りたい、聞きたいという事業者様は、当事務所の関与先であれば各監査担当に、そうでなければお近くの税理士や税務署他にお問合せしていただければと思います。

 

www.nta.go.jp

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暦年贈与と相続時精算課税の改正点

表題の通り、今回は、贈与税の暦年贈与と相続時精算課税に関する令和5年改正について取り上げます。

どちらも、相続税と密接に関係してくる改正内容です。

改正としては今年ではなく昨年に行われたものなのですが、施行は今年令和6年以降に実施された贈与からであり、今年に入ってから質問を受けることも多かったので、ここで、その内容を簡単ながら説明させていただきたいと思います。

 

なお、今回のテーマである、暦年贈与の改正点である「生前贈与加算」についてはこの日のエントリーで、また、「相続時精算課税」についてはこの日のエントリーで、それぞれ制度の内容を書いているので、まずそちらを読んでいただけますと、内容が理解しやすいのではないかと思います。

 

<1> 生前贈与加算期間が7年間に延長された

相続または遺贈により財産を取得した者が、その被相続人(亡くなった方)から過去に贈与を受けている財産があった場合には、それ等のうち一定期間内のものにつき、被相続人から相続等により取得した財産とみなして(「みなし相続財産」と言います)相続税を課税する。

それが、相続税の「生前贈与加算」という制度で、相続税法第19条に規定されています。

 

この「一定期間」は、従前は被相続人の亡くなった日から3年以内(当該相続の開始前三年以内)だったのですが、これが7年以内(当該相続の開始前七年以内)に変更になりました。

ただし、これはあくまで「令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税」が対象となることに注意が必要です。

言い換えるなら、「令和5年12月31日までに贈与により取得していた財産」については、従前の「相続開始前三年以内」という規定が適用されます。

つまり、7年前まで遡って加算されるのは、今年以降に発生した贈与ということです。

 

国税庁作成のパンフレットに具体的な表があるので、引用してみましょう。

 

国税庁HPより引用)

相続財産への加算は、その財産が贈与された時点での評価額で行われ、相続発生までの間に時価の変動が発生していたとしても、それは反映されません。

また、今回延長された4年間に取得した財産については、その評価額の全額ではなく、当該機関に贈与を受けた財産の評価額の総額から100万円を控除した金額が加算されることになります。

ここについても、国税庁パンフレットの図を引用します。

 

国税庁HPより引用)

相続対策として、暦年贈与の110万円控除を活用して毎年贈与をされていた(あるいは贈与をすることを検討していた)方も多いことと思います。

対応策として何ができるというわけでも無いのですが、本年以降は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算される範囲が、7年間に延長されたということに、十分に留意することが必要です。

 

<2> 相続時精算課税に暦年贈与同様の基礎控除が設けられた

従前、相続時精算課税を利用する場合に、贈与税の計算上、贈与財産の時価から差し引ける控除額は、総額で2,500万円に達するまでとされていました。

また、その後に相続が発生した際には、この2,500万円の控除は考慮されず、贈与時の評価額の全額が加算されることとなります。

この時、相続時精算課税は生前贈与加算と異なり、相続の発生前〇年間というような制限がありません。

つまり、この制度の利用を届け出て以降の全ての贈与財産(届け出た後に撤回することはできません)は、漏れなく相続時に相続財産に加算されることになります。

また、暦年贈与のような、年間110万円という基礎控除枠もありませんでした。

 

今回改正となったのは、その、110万円の基礎控除枠の部分です。

つまり、「令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与
税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円が控除され」ることとなったのです(引用部分は国税庁パンフレットより)。

つまり、例えば、Aさんがお父様から暦年贈与により財産を取得し、お母様から相続時精算課税制度の利用により財産を取得しているような場合、Aさんはそのそれぞれの財産について、110万円の基礎控除が適用されることになります。

 

ここで説明したように、贈与税は「受贈者課税」なので、複数の者から贈与を受けている場合は、その合計額に対して110万円の基礎控除が適用される(つまり、その1年に差し引ける基礎控除額は何人から贈与を受けようとも総額110万円まで)のですが、相続時精算課税については、完全に暦年課税とは別枠のものとして考えられているわけですね。

 

今回改正で生まれたこの基礎控除部分については、相続時に相続財産に加算されることはありません

ここが、実は事情に大事な部分です。

つまり、相続対策で毎年基礎控除額である110万円以下の現預金を暦年贈与してきたというような方が、令和6年以降を相続時精算課税に切り替えれば、生前贈与加算の心配をすることなく、亡くなる直前まで贈与を行うことができることになります。

 

相続時精算課税はこれまで、いまひとつ使いづらさのある制度でしたが、この改正によって、活用の幅は広がったと考えられます。

 

ただ、一度制度適用を選んだら以降のその者から受ける贈与は強制的に相続時精算課税制度を利用しなければならず撤回ができないこと、適用を受けている財産で年間110万円を超える部分は何年前の贈与であろうとも相続財産に加算されること、相続時精算課税適用財産は小規模宅地の特例等の対象にはならないこと、といった相続時精算課税選択のリスクはこれまで通り存在しています。

 

それを踏まえてなお、「暦年贈与とは別枠で基礎控除が110万円受けられ、その部分については生前贈与加算の対象にならない」という点にメリットを感じる場合には、前向きに検討すべき制度になった、と言えるでしょう。

 

なお、今回の改正では、相続時精算課税制度の対象となっている受贈財産である土地・建物が、令和6年1月1日以降に災害によって一定の被害を受けた場合に、相続財産の加算額からその被災価額を差し引けるという規定も新設されました(相続発生時までその土地・建物を所有している場合に限る)。

地味ですが、これもかなり重要な改正だと思います。

 

これ等の改正についても、国税庁パンフレットから図を引用します。

 

国税庁HPより引用)

 

<3> 相続等により財産を取得しない者への暦年贈与(予告)

今回の改正とは関係の無い、従来からある重要論点として、暦年贈与の生前贈与加算を回避する為に、例えば、自身の相続人ではない孫などに基礎控除の範囲である110万円の範囲で贈与を行う、という相続対策があります。

これは、生前贈与加算が「相続又は遺贈により財産を取得した者」を対象とした規定であることに着目したものなのですが、これに関しては、いざ相続が発生した時に、大きな問題が発生することがしばしばあります。

 

今回のテーマとは別の論点になりますし、内容的にも独立してご説明すべきことなので、ここでは、そのような問題が存在するという事実だけを書いておきます。

追って近日に解説いたしますので、申し訳ありませんが、それまでお待ちいただけると幸いです。

 

 

かなり長くなりましたので今回はここまで。

最後に、かなり引用をさせていただいた国税庁パンフレットへのリンクを貼って、終わりとさせていただきます。

 

国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税税制改正のあらまし」

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf

 

 

インボイス制度 取扱いの微調整

昨年から導入された消費税のインボイス制度。

税額計算に与える影響だけでなく、事務処理に与える影響としても非常に大きなこの改正については、このブログでも昨年のほぼ1年をかけて説明をしてきました。

そこで書いてきたこと等については、現時点で既に実務の取り扱い上の緩和が許されているもの、変更になっているものが出ています。

それ等について、幾つか質問を受けることもありましたので、今回は、その点を箇条書き的に簡単に説明させていただければと思います。

 

<1> 自動販売機で購入した際の住所記載

インボイス制度の特例として、物品購入時に適格請求書等の発行を受けることが困難である「自動販売機や自動サービス機から購入する商品」については、その対価の額が30,000円未満であれば、一定の事項を記載した帳簿を以て、適格請求書等の代わりとして良いことになっていました。

例えば暑い日の現場廻りで、自販機でジュース等を購入して打合せを行うようなケースが想定されますが、普通に考えてこういう場合に自販機から適格請求書等の発行を受けるということは、甚だ難しいですよね。

そこで、自販機で行った3万未満の物品購入については適格請求書等を不要とする、この特例が出てきたわけです。

 

それは当たり前だろう、という話ですが、問題は、求められる帳簿への記載事項の中に、その自販機の設置場所の住所があったことでした。

冷静に考えて、これはかなりの無茶ですよね。

この規定に対応する為にか、大手が設置している自販機の中には、その側面部に住所を印刷したシール等を貼付するものも出てきていましたが、とはいえ、外回りの社員が仕事中に使った自販機について、その諸税を記録して、精算時等に経理課に提出するというのは、およそ現実的とは思えません。

 

なので、これまでも当事務所の関与先様等には、規定はともあれ実務上は、住所の記載まではしなくてもいいですよ、とご案内してきたかと思います。

これが、昨年末に公開された税制改正大綱で、規定上も住所記載を不要とするように改められることになりました。

 

www.nta.go.jp

 

上記、国税庁のリンク先にも記載されていますが、「一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。」ということで、いわゆる「自販機特例」や「回収特例」の適用を受けるような物品、チケット等については、帳簿の記載要件から住所等が省略されることになりました。

 

なお、これについては日付を遡って、インボイス制度の適用が始まった昨年10月1日以降のものが全て対象になるとのこと。

 

<2> ETC利用料の領収証

ここが、誤解されている人が多いところです。

クレジットカードでETCの利用料金を引き落としていた場合、従来はそのカード単位で金額を纏めて、例えば「〇月分」というような形で会計入力を行っていた事業者も多かったと思います。

インボイス制度下においては、適格請求書等1枚ごとに伝票を起こすのが基本なので、このような方法ができなくなる、ということがありました。

また、クレジットカードの利用明細は(一部のものを除き)ETCを利用した高速道路使用に関わる適格請求書等とはなってくれないので、別途、ETC利用照会サービスから「利用証明書」の発行を受けなければならないこととされています。

 

www.etc-meisai.jp

 

ここから発行される(ダウンロードする)適格請求書等は、義務化された電子帳簿保存法の対象となるものでもあり、かつ、会社によっては月に相当数のものになってしまうことが想定されます。

これを、1つ1つダウンロードしていくのも、事務負担が大きすぎるのではないか(期間指定による一括ダウンロードはあるのですが、それだと複数の伝票が1枚に纏めて出ることになり、電子帳簿保存法の求める検索可能性を担保できません)。

 

あくまでもインボイス制度への対応としては、という留保を置かせていただきますが……

 

国税庁はこの点について納税者から不満が出ていることを受け、実務上は下記のような取り扱いをして構わない、ということで、インボイス制度に関わるQ&Aを改訂しています。

 

「クレジットカード会社から受領するクレジットカード利用明細書(個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。)と、利用した高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます。)の任意の一取引(複数の高速道路会社等の利用がある場合、高速道路会社等ごとに任意の一取引)に係る利用証明書をダウンロードし、併せて保存することで、仕入税額控除を行って差し支えありません。」

 

要は、例えばVISAならVISA、AMEXならAMEXというカード会社から毎月送られてくる(ダウンロードする)締め日ごとの利用明細に記載されるETC利用料については、「その利用明細につき」「各高速道路会社ごとに1枚」を任意に選んでダウンロードし、カード利用明細と共に保存すれば、それで要件を満たしたものと見なしてくれるということです。

全ての利用明細をダウンロードする必要はない、ということだと認識していただいてもいいでしょう。

 

ただこれは、あくまでもインボイス制度上の話であって、電子帳簿保存法とは関係がありません。

電子帳簿として、ETCの各料金所通過ごとの利用証明書が必要であることに変更は出ていません。

また、これは従来のような「纏め入力」までもを許容しているわけではないことも、間違えてはいけません。

これ等の点には、十分な注意が必要です。

 

<3> ネットショップ利用時の適格請求書等

これは取り扱いに変更があったということでは無いのですが……

例えば Amazon楽天市場 等のネットショップでものを購入した場合、当該ポータルで設定しているアカウントの管理ページ等から、適格請求書等をダウンロードすることができます。

電子帳簿保存法インボイス制度下において、適格請求書等の保存場所は他社の運営しているサーバーでも構わないので、極論、Amazon楽天 からいつでもダウンロード可な状況にさえなっていれば、ダウンロード後のPDFファイル等を自社で保存しておく必要は無いのでは?という声が出ています。

 

これは確かに、規定上はその通りでは、あります。

しかし、外部サーバーに何があるか分からない、安全マージンはなるべく確保しておくべき、という観点から、敢えて自社にもPDFファイルはダウンロードしておくべきだ、というのが私のスタンスです。

 

強制ではありませんが、1人の税理士の見解として、認識しておいていただければ幸いです。

 

 

 

区分所有マンションの評価方法改定

相続財産の評価は「時価」によるものと、相続税法第22条は規定しています。

この「時価」は「客観的な交換価値」であるとされていますが、それが具体的にどのような金額になるのかについては、しばしば、納税者と課税当局の間に見解の相違が生じるところとなっています。

例えば、居住用の区分所有財産(分譲マンション)の相続税評価額については双方の評価差額も大きくなりがちで、裁判にまで至ることも多く、ここでも、以前に令和4年4月19日最高裁判決に関する解説を2回に渡って掲載しています。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

この判決を受けた課税当局側は分譲マンションに関する「財産評価基本通達」の見直しを検討していました。

その結果、今年の1月1日以降に相続、遺贈または贈与によって取得した分譲マンションから、新たな通達が適用されるに至っています。

今回は、その改定内容を簡単に説明いたします。

 

<1> 区分所有補正率

争いが多かった原因は、納税者による「財産評価基本通達」等を使った評価と、実際の市場価格とが大きく乖離するケースが少なくないことでした。

そのような場合、従来は課税当局側が不動産鑑定士などに依頼して算出した「時価」による評価をするべきとして、更正処分を行ったりしてきました。

が、上記、令和4年4月19日最高裁判決では、「財産評価基本通達」は法ではないものの、財産評価に関する「時価」の計算方法として実質的な規定と化していると認められるから、不動産鑑定額評価との差額が非常に大きいとしても、そのことだけを以て更正すべきであるとは言えないと指摘され、従来の更正のやり方には一定の制限がかけらられることとなりました。

これを受けて課税当局は令和5年9月28日に、「居住用の区分所有財産の評価について」という法令解釈通達を発表、以後、分譲マンションについてはこれによって評価することとしたのです。

 

www.nta.go.jp

 

リンクは貼りましたが、これを読んでもちんぷんかんぷんだという人が多いと思います。

敢えて単純化して話をすると、要するに、評価額の乖離が発生しやすい分譲マンションについては、土地も家屋も、「財産評価基本通達」によって算出された従来通りの評価額に、一定のパーセンテージ(「評価乖離率」を基にした「区分所有補正率」)を乗じることで、評価額を調整することとなったのです。

 

となれば、ここで問題になるのは、その「評価乖離率」の算出方法です。

算出に使われる要素は全部で4つ。

 

① その区分所有建物の築年数(新築から何年が経過しているのか)

② その区分所有建物の総階数(何階建てなのか)

③ その区分所有建物の専有部分の所在階(所有している部屋は何階なのか)

④ その区分所有建物の敷地持分狭小度(建物全体に対する持分はどれくらいなのか)

 

少々強引に言い換えを行ったのが()内ですが、イメージは、湧き易いと思います。

 

具体的な計算方法は後程説明しますが、これらの要素を使って出した「評価乖離率」の逆数(1÷「評価乖離率」)が次の3つの区分のどこに該当するかで、従来の評価額に乗じる「区分所有補正率」が決定します。

 

区分所有補正率(国税庁パンフレットより引用)

上記がその表なのですけれども、私のような専門家はともかく、一般の納税者はこのような細かいところまで覚えなくてもいいでしょう。

イメージとして、現行の相続税評価額と市場価格を比較した時に、前者が後者を大きく下回る場合には相続税評価額が市場価格の6割相当額まで引き上げられ、上回った場合は相続税評価額が市場価格まで引き下げられる、と思っておいていただければ、ひとまずは十分かと思います。

 

次に、「評価乖離率」の算出方法をご説明します。

 

<2> 評価乖離率

率直に言わせていただけば、この算式はかなり面倒なものとなっています。

国税庁が計算明細書を公開しており、そこに必要な数値を入れていけば算出ができるようにはなっていますが、本来簡便であることを是とするべき租税法の理念には反するものであるのは、否定できないかもしれません。

 

まず、算式を確認してみましょう。

 

評価乖離率= ① + ② + ③ + ④ + 3.220

  ① 1棟の区分所有建物の築年数 × △0.033
  ② 1棟の区分所有建物の総階数指数 × 0.239(小数点以下第4位切捨て)
     なお、 総階数指数 は次の式により算出されます(小数点以下第4位切捨て)
       【 地階を含まない総階数÷33 (1を超える場合は1)】
  ③ 1室の区分所有等に係る専有部分の所在階 × 0.018
     複数の階にまたがるメゾネット形式の場合は低い方の階とし、
     地階の場合は零階とする(この場合 ③ の数値は「0」になります)
  ④ 1室の区分所有等に係る敷地持分狭小度 × △0.195(小数点以下第4位切上げ)
     なお、敷地持分狭小度は、次の式により算出されます
                  (小数点以下第4位切上げ)
       【 敷地利用権の面積÷専有部分の面積(床面積)】

 

細かい注記事項はまだありますが、現時点で既に複雑な説明を、これ以上難しくしても仕方がないので、ここは割愛させていただきます。

 

各項目について簡単に説明をすると……

① は乗じる係数が負(マイナス)となっているので、築年が浅ければ浅いほど、評価乖離率は高くなります

② は乗じる係数が正(プラス)なので、そのマンションが高層であればあるだけ、評価乖離率が高くなります

③ も ② と同様に乗じる係数が正(プラス)であることから、所有する部屋の所在階が高ければ高いほど、評価乖離率も高くなります

④ は乗じる係数が負(マイナス)であり、容積率の高いマンションであればあるだけ敷地持分狭小度は小さくなるので、容積率が高い地域で限界まで大きな建物が建っているような場合は、マイナスされる数値もそれに応じて少なくなることから、評価乖離率は高くなります

 

<3> まとめ

以上、ここまで書いてきたことをまとめると、次のようになるでしょう。

 

新たな評価方法の適用において、「築年が浅くて」「高層建築であり」「その上層階を所有していて」「容積率の高い(駅前等の)地域に最大限大きな建物になるように建設されたもの」という要件を満たす分譲マンションは、評価乖離率が高くなり、最終的な評価額もそれに伴って高くなると考えられる。

 

なお、この改定の対象はあくまで居住用の区分所有財産に関するものであり、かつ、次のようなものは対象外とされています。

・2階建て以下の低層マンション
・二世帯住宅等で一定のもの
・区分建物の登記がされていないもの
・事業用のテナント物件
・1棟を所有している賃貸マンション(単独所有または共有)
 

条件によっては、相続税評価額が従来の評価額の数倍にもなるケースもあるので、上記の、評価額が高額になる要件に該当する物件を所有される方は、一度、実際にこの改定で評価額がどのように変わるのか、確認してみるのもいいのではないでしょうか。