ネットだったか書籍だったか、そこのところの記憶が少々曖昧なのですが……
何かの文章において「小学校で留年」という記述があるのを、ちょっと前に目にしました。
「義務教育期間」と「留年」という組み合わせには、何とも座りの悪い違和感があります。
ですが、義務教育である小学校や中学校では留年は発生し得ない、と勝手に決めつけるのも良くないですよね。
なので、ならばここはきちんと制度を調べてみなければなるまいと、法規定の確認をしてみました。
義務教育、学校教育といえば、まずは「教育基本法」です。
ここでは第5条で、義務教育について第1項に次のように規定されていました。
<義務教育>
国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。(教育基本法第5条)
第1項が普通教育を子に受けさせる義務、第2項は義務教育の基本的な理念、第3項は国・地方公共団体には適切な義務教育を実施する責任があること、第4項は国・地方公共団体の学校は義務教育機関の授業料が無料であることが規定されています。
ですが、他の条文を読んでも、「教育基本法」では、それ以上の具体的なことは決められていません。
これはまさしく、「基本法」の「基本法」たるところなのかもしれません。
全部で18条という短い法律ですし、つまり、これはあくまでも「教育」というものに関する基本的な考え方、ベースとなる部分をざっくりと規定しているものだと言うことができそうです(専門家の方に言わせると「そうじゃない」となってしまうかもしれませんが)。
なお、教育関係だともう1つ、「学校教育法」というものもありますよね。
では、義務教育に関する条文はどうなっているのか。
早速確認してみたところ、第16条~第21条が「第2章 義務教育」として、義務教育に関する規定となっていました。
さすがにこの条文を全て引用すると長すぎますのでざっくりと紹介すると……
第16条と第17条は、子が満6歳~15歳の9年間、親は子を小学校・中学校に通わせなければならない義務があること。
第18条が子が病弱や発育不全などで就学困難な場合の義務猶予・免除。
第19条が経済的な理由からの就学困難に対する市町村の支援。
第20条は義務教育を受けることを妨害してはいけないこと。
第21条は義務教育で達成されるべき目標。
が、それぞれ規定されていました。
簡潔に言えば、「教育基本法」より具体的に、学校教育とはどういうものなのかを定めているという感じですね。
両法律ともに昭和22年に公布されていて、その後、細かい改正などが(「教育基本法」は平成18年に全面改正で現行法が新規制定されています)ありつつ現在に至っているようです。
両者の違いについてネットで専門家などが書いていることを確認したところ、「教育基本法」は「教育とはどういうものなのか・どうあるべきなのか」という基本理念を定め、「学校教育法」はそれに従って設置される「学校ではどのように教育を実施していくのか」というような制度の運用面を定めたもの、と言ってしまっても構わないようでした。
条文を読んで直感的に感じたとおりで、問題なさそうです。
ここまでが前提の確認です。
本法の条文で留年関係のことが定められていないとしたら、次に確認すべきは施行規則、施行令ですね。
「学校教育法」という法律の施行、実際の運用面を決める細則でである「学校教育法施行規則」。
その「第四章 小学校」の「第二節 教育課程」の第57条に、次のような規定がありました。
小学校において、各学年の課程の修了又は卒業を認めるに当たつては、児童の平素の成績を評価して、これを定めなければならない。
2 学校生活への適応が困難であるため相当の期間小学校を欠席した児童について前項の成績評価を行うに当たつては、文部科学大臣が別に定めるところにより、当該児童が欠席中に行つた学習の成果を考慮することができる。(学校教育法施行規則第57条)
また、「第五章中学校」の第79条では、これが中学校にも準用されることが規定されてています。
つまり法規定上、小学生なり中学生なりがきちんと進級できるかどうかは、その児童の普段からの成績によるということになっているわけです。
さらに、他の条文を確認しても、どこにも義務教育期間中は留年制度は存在しないというようなことは書かれていませんでした。
ということは、制度上は、出席日数不足や学習内容の理解不足などの「成績」を理由として進学をさせない、つまり留年をさせるということも可能であるということになりそうです。
とはいえ、例えば小学校で留年をしてしまった、というような話を実際に耳にすることはまずありません。
この辺りも調べてみたら、日本の義務教育には年齢主義という原則があって、学年と年齢は揃えようということを基本にしているから、特に公立学校では、まずまず留年になる生徒が発生することは無い、ということのようです。
どんな落第生でも6年間で小学校を、その後の3年間で中学校を卒業することが出来るのが通常だ、と。
ただし私立校の場合は、年齢主義に厳格に縛られることなく各学校が自由に進級基準を設定できるそうです。
だから私立では学内で行われる判定会議の結果で留年が決まるというケースもあるのだとか。
事案としては、学力不足とか素行不良が問われるところでしょうか。
さて、では生徒の側が学習不足や出席不足、例えばいじめを受けて登校拒否になっていたし同じ面子ともう1年同学年というのは耐えられない等の理由で、自ら留年を希望した場合はどうなるのでしょうか。
この点については、1993年に「神戸市立小学校強制進級事件」という有名な裁判があったそうです。
これは小学校5年生の女子児童とその家族が留年を希望したのに対して学校側が強制的な進級を決めた、その学校側の判断の取り消しを求めて訴えたものでした。
この訴えに対し神戸地裁は、むしろ進級させない方が生徒側にとって不利になるというような判断から、強制的な進級を決めた学校側の判断を支持し、生徒側の敗訴が確定しています。
判決文を読んで具体的な内容をチェックしてはいないので、この判決が妥当なものと思えるかどうか、疑問も残るところではあります。
が、最終的にはやはりきちんと調べてみないと何とも言えません。
これは、様々な評釈も含め、掘り下げて調べてみるのも面白そうな裁判事例に思えます(多少なりと野次馬根性的な興味が動機となっているのは否定しません)。
時間に余裕が出来たら色々と手元に揃えてみるのも、いいかもしれません。
なお、「留年」というのは通称であって、法令などでの正式用語では「原級留置」と呼ぶそうです。
「現行の級数に留め置く」措置というわけですね。
今後日常生活の中で「原級留置」という単語を用いる会話をすることがあるとは思いにくいですが、雑学を1つ得られて、何気にそんな点も勉強になりました。