三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度 取扱いの微調整

昨年から導入された消費税のインボイス制度。

税額計算に与える影響だけでなく、事務処理に与える影響としても非常に大きなこの改正については、このブログでも昨年のほぼ1年をかけて説明をしてきました。

そこで書いてきたこと等については、現時点で既に実務の取り扱い上の緩和が許されているもの、変更になっているものが出ています。

それ等について、幾つか質問を受けることもありましたので、今回は、その点を箇条書き的に簡単に説明させていただければと思います。

 

<1> 自動販売機で購入した際の住所記載

インボイス制度の特例として、物品購入時に適格請求書等の発行を受けることが困難である「自動販売機や自動サービス機から購入する商品」については、その対価の額が30,000円未満であれば、一定の事項を記載した帳簿を以て、適格請求書等の代わりとして良いことになっていました。

例えば暑い日の現場廻りで、自販機でジュース等を購入して打合せを行うようなケースが想定されますが、普通に考えてこういう場合に自販機から適格請求書等の発行を受けるということは、甚だ難しいですよね。

そこで、自販機で行った3万未満の物品購入については適格請求書等を不要とする、この特例が出てきたわけです。

 

それは当たり前だろう、という話ですが、問題は、求められる帳簿への記載事項の中に、その自販機の設置場所の住所があったことでした。

冷静に考えて、これはかなりの無茶ですよね。

この規定に対応する為にか、大手が設置している自販機の中には、その側面部に住所を印刷したシール等を貼付するものも出てきていましたが、とはいえ、外回りの社員が仕事中に使った自販機について、その諸税を記録して、精算時等に経理課に提出するというのは、およそ現実的とは思えません。

 

なので、これまでも当事務所の関与先様等には、規定はともあれ実務上は、住所の記載まではしなくてもいいですよ、とご案内してきたかと思います。

これが、昨年末に公開された税制改正大綱で、規定上も住所記載を不要とするように改められることになりました。

 

www.nta.go.jp

 

上記、国税庁のリンク先にも記載されていますが、「一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。」ということで、いわゆる「自販機特例」や「回収特例」の適用を受けるような物品、チケット等については、帳簿の記載要件から住所等が省略されることになりました。

 

なお、これについては日付を遡って、インボイス制度の適用が始まった昨年10月1日以降のものが全て対象になるとのこと。

 

<2> ETC利用料の領収証

ここが、誤解されている人が多いところです。

クレジットカードでETCの利用料金を引き落としていた場合、従来はそのカード単位で金額を纏めて、例えば「〇月分」というような形で会計入力を行っていた事業者も多かったと思います。

インボイス制度下においては、適格請求書等1枚ごとに伝票を起こすのが基本なので、このような方法ができなくなる、ということがありました。

また、クレジットカードの利用明細は(一部のものを除き)ETCを利用した高速道路使用に関わる適格請求書等とはなってくれないので、別途、ETC利用照会サービスから「利用証明書」の発行を受けなければならないこととされています。

 

www.etc-meisai.jp

 

ここから発行される(ダウンロードする)適格請求書等は、義務化された電子帳簿保存法の対象となるものでもあり、かつ、会社によっては月に相当数のものになってしまうことが想定されます。

これを、1つ1つダウンロードしていくのも、事務負担が大きすぎるのではないか(期間指定による一括ダウンロードはあるのですが、それだと複数の伝票が1枚に纏めて出ることになり、電子帳簿保存法の求める検索可能性を担保できません)。

 

あくまでもインボイス制度への対応としては、という留保を置かせていただきますが……

 

国税庁はこの点について納税者から不満が出ていることを受け、実務上は下記のような取り扱いをして構わない、ということで、インボイス制度に関わるQ&Aを改訂しています。

 

「クレジットカード会社から受領するクレジットカード利用明細書(個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。)と、利用した高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます。)の任意の一取引(複数の高速道路会社等の利用がある場合、高速道路会社等ごとに任意の一取引)に係る利用証明書をダウンロードし、併せて保存することで、仕入税額控除を行って差し支えありません。」

 

要は、例えばVISAならVISA、AMEXならAMEXというカード会社から毎月送られてくる(ダウンロードする)締め日ごとの利用明細に記載されるETC利用料については、「その利用明細につき」「各高速道路会社ごとに1枚」を任意に選んでダウンロードし、カード利用明細と共に保存すれば、それで要件を満たしたものと見なしてくれるということです。

全ての利用明細をダウンロードする必要はない、ということだと認識していただいてもいいでしょう。

 

ただこれは、あくまでもインボイス制度上の話であって、電子帳簿保存法とは関係がありません。

電子帳簿として、ETCの各料金所通過ごとの利用証明書が必要であることに変更は出ていません。

また、これは従来のような「纏め入力」までもを許容しているわけではないことも、間違えてはいけません。

これ等の点には、十分な注意が必要です。

 

<3> ネットショップ利用時の適格請求書等

これは取り扱いに変更があったということでは無いのですが……

例えば Amazon楽天市場 等のネットショップでものを購入した場合、当該ポータルで設定しているアカウントの管理ページ等から、適格請求書等をダウンロードすることができます。

電子帳簿保存法インボイス制度下において、適格請求書等の保存場所は他社の運営しているサーバーでも構わないので、極論、Amazon楽天 からいつでもダウンロード可な状況にさえなっていれば、ダウンロード後のPDFファイル等を自社で保存しておく必要は無いのでは?という声が出ています。

 

これは確かに、規定上はその通りでは、あります。

しかし、外部サーバーに何があるか分からない、安全マージンはなるべく確保しておくべき、という観点から、敢えて自社にもPDFファイルはダウンロードしておくべきだ、というのが私のスタンスです。

 

強制ではありませんが、1人の税理士の見解として、認識しておいていただければ幸いです。

 

 

 

区分所有マンションの評価方法改定

相続財産の評価は「時価」によるものと、相続税法第22条は規定しています。

この「時価」は「客観的な交換価値」であるとされていますが、それが具体的にどのような金額になるのかについては、しばしば、納税者と課税当局の間に見解の相違が生じるところとなっています。

例えば、居住用の区分所有財産(分譲マンション)の相続税評価額については双方の評価差額も大きくなりがちで、裁判にまで至ることも多く、ここでも、以前に令和4年4月19日最高裁判決に関する解説を2回に渡って掲載しています。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

この判決を受けた課税当局側は分譲マンションに関する「財産評価基本通達」の見直しを検討していました。

その結果、今年の1月1日以降に相続、遺贈または贈与によって取得した分譲マンションから、新たな通達が適用されるに至っています。

今回は、その改定内容を簡単に説明いたします。

 

<1> 区分所有補正率

争いが多かった原因は、納税者による「財産評価基本通達」等を使った評価と、実際の市場価格とが大きく乖離するケースが少なくないことでした。

そのような場合、従来は課税当局側が不動産鑑定士などに依頼して算出した「時価」による評価をするべきとして、更正処分を行ったりしてきました。

が、上記、令和4年4月19日最高裁判決では、「財産評価基本通達」は法ではないものの、財産評価に関する「時価」の計算方法として実質的な規定と化していると認められるから、不動産鑑定額評価との差額が非常に大きいとしても、そのことだけを以て更正すべきであるとは言えないと指摘され、従来の更正のやり方には一定の制限がかけらられることとなりました。

これを受けて課税当局は令和5年9月28日に、「居住用の区分所有財産の評価について」という法令解釈通達を発表、以後、分譲マンションについてはこれによって評価することとしたのです。

 

www.nta.go.jp

 

リンクは貼りましたが、これを読んでもちんぷんかんぷんだという人が多いと思います。

敢えて単純化して話をすると、要するに、評価額の乖離が発生しやすい分譲マンションについては、土地も家屋も、「財産評価基本通達」によって算出された従来通りの評価額に、一定のパーセンテージ(「評価乖離率」を基にした「区分所有補正率」)を乗じることで、評価額を調整することとなったのです。

 

となれば、ここで問題になるのは、その「評価乖離率」の算出方法です。

算出に使われる要素は全部で4つ。

 

① その区分所有建物の築年数(新築から何年が経過しているのか)

② その区分所有建物の総階数(何階建てなのか)

③ その区分所有建物の専有部分の所在階(所有している部屋は何階なのか)

④ その区分所有建物の敷地持分狭小度(建物全体に対する持分はどれくらいなのか)

 

少々強引に言い換えを行ったのが()内ですが、イメージは、湧き易いと思います。

 

具体的な計算方法は後程説明しますが、これらの要素を使って出した「評価乖離率」の逆数(1÷「評価乖離率」)が次の3つの区分のどこに該当するかで、従来の評価額に乗じる「区分所有補正率」が決定します。

 

区分所有補正率(国税庁パンフレットより引用)

上記がその表なのですけれども、私のような専門家はともかく、一般の納税者はこのような細かいところまで覚えなくてもいいでしょう。

イメージとして、現行の相続税評価額と市場価格を比較した時に、前者が後者を大きく下回る場合には相続税評価額が市場価格の6割相当額まで引き上げられ、上回った場合は相続税評価額が市場価格まで引き下げられる、と思っておいていただければ、ひとまずは十分かと思います。

 

次に、「評価乖離率」の算出方法をご説明します。

 

<2> 評価乖離率

率直に言わせていただけば、この算式はかなり面倒なものとなっています。

国税庁が計算明細書を公開しており、そこに必要な数値を入れていけば算出ができるようにはなっていますが、本来簡便であることを是とするべき租税法の理念には反するものであるのは、否定できないかもしれません。

 

まず、算式を確認してみましょう。

 

評価乖離率= ① + ② + ③ + ④ + 3.220

  ① 1棟の区分所有建物の築年数 × △0.033
  ② 1棟の区分所有建物の総階数指数 × 0.239(小数点以下第4位切捨て)
     なお、 総階数指数 は次の式により算出されます(小数点以下第4位切捨て)
       【 地階を含まない総階数÷33 (1を超える場合は1)】
  ③ 1室の区分所有等に係る専有部分の所在階 × 0.018
     複数の階にまたがるメゾネット形式の場合は低い方の階とし、
     地階の場合は零階とする(この場合 ③ の数値は「0」になります)
  ④ 1室の区分所有等に係る敷地持分狭小度 × △0.195(小数点以下第4位切上げ)
     なお、敷地持分狭小度は、次の式により算出されます
                  (小数点以下第4位切上げ)
       【 敷地利用権の面積÷専有部分の面積(床面積)】

 

細かい注記事項はまだありますが、現時点で既に複雑な説明を、これ以上難しくしても仕方がないので、ここは割愛させていただきます。

 

各項目について簡単に説明をすると……

① は乗じる係数が負(マイナス)となっているので、築年が浅ければ浅いほど、評価乖離率は高くなります

② は乗じる係数が正(プラス)なので、そのマンションが高層であればあるだけ、評価乖離率が高くなります

③ も ② と同様に乗じる係数が正(プラス)であることから、所有する部屋の所在階が高ければ高いほど、評価乖離率も高くなります

④ は乗じる係数が負(マイナス)であり、容積率の高いマンションであればあるだけ敷地持分狭小度は小さくなるので、容積率が高い地域で限界まで大きな建物が建っているような場合は、マイナスされる数値もそれに応じて少なくなることから、評価乖離率は高くなります

 

<3> まとめ

以上、ここまで書いてきたことをまとめると、次のようになるでしょう。

 

新たな評価方法の適用において、「築年が浅くて」「高層建築であり」「その上層階を所有していて」「容積率の高い(駅前等の)地域に最大限大きな建物になるように建設されたもの」という要件を満たす分譲マンションは、評価乖離率が高くなり、最終的な評価額もそれに伴って高くなると考えられる。

 

なお、この改定の対象はあくまで居住用の区分所有財産に関するものであり、かつ、次のようなものは対象外とされています。

・2階建て以下の低層マンション
・二世帯住宅等で一定のもの
・区分建物の登記がされていないもの
・事業用のテナント物件
・1棟を所有している賃貸マンション(単独所有または共有)
 

条件によっては、相続税評価額が従来の評価額の数倍にもなるケースもあるので、上記の、評価額が高額になる要件に該当する物件を所有される方は、一度、実際にこの改定で評価額がどのように変わるのか、確認してみるのもいいのではないでしょうか。

 

 

減価償却費の計上(個人と法人の相違)

今年も確定申告の時期がやってまいりました。
最近はどうしてもインボイス制度の話をメインにさせていただいていましたが、もちろん、そればかりが税金というわけではありません。


今回は、皆さんが確定申告で会計処理を行う際にも参考になるであろう項目として、減価償却について、その法的な根拠や、期中に売却等を行った際の処理について、ご説明させていただきます。

 

日本における主たる税目となっている所得税法人税は、どちらも利益課税の税金です。
つまり、個人事業もしくは法人の業務によって生じた「売上」に対してではなく、売上から原価や経費等を差し引いた後の「利益」を課税対象として、税金の計算を行うものとなっています。

 

この2つの税目は、課税する国税庁の側が計算をしてその課税期間に課される税金の通知をしてくる賦課課税ではなく、納税者自らが税額の計算を行って国税庁に申告書を提出する申告課税の方式を採っています。
この場合、当然ですが、それぞれの納税者が好き勝手なルールで計算を行うのではなく、公に決められた1つのルールに従った計算が行われていなければ、課税の公平が確保できないことになります。

 

また、それぞれの企業に対して資金を投下しようと考えている投資家や、貸付を行う銀行など、利益関係者も、各企業が独自基準に従ったまちまちな帳簿を付けているようでは、判断に困ることになります。
その為、企業が行う会計処理には一定のルールが設けられています。

 

今回はそのルールの中身を説明するのが目的では無いので、その辺りはさらっと流させていただきますが、会計帳簿に虚偽や漏れが無く一貫したものであることは企業会計原則の「正規の簿記の原則」「網羅性」「立証性」「秩序性」を遵守することで担保されます。
また、利益計算の妥当性や比較可能性は、企業会計原則内の損益計算書原則における「発生主義の原則」「総額主義の原則」「費用収益対応の原則」等が担保してくれるでしょう。

 

今回のテーマである「減価償却費の計上」は、このうち、「費用収益対応の原則」に係る事項になります。

 

<1>     費用の期間按分

減価償却」というのがどのようなものであるかは、このブログでも以前に3回に分けて採り上げています。

とはいえ、改めてそのエントリーを探して読んでいただくのも申し訳が無いので、ここで再度簡単に解説をさせていただきます。

 

先に書いたように、所得税法人税はどちらも利益課税の税目となっています。

当然ですが、正確で公正な課税が行われる為には、正確な利益の算出が必要となってきます。

利益は、売上の金額から、その売上をあげるまでに要した原価(仕入)と経費の金額を差し引いて算出されますが、事業とまるで関係が無い支出を経費等として計算に反映させるのは脱税行為ですので論外として、この際に、正確な利益を計算するのであれば、長期間に渡って使用するような資産に関する支出は、その資産を利用可能な年数で費用化していくべきだということになります。

 

物品販売という収益に対する商品仕入という直接的な対応のある費用に対し、例えば営業用車両など、売上と直接的な紐付けは無いものの、その車両の使用可能期間に渡って営業社員がその車両を利用することで顧客からの注文を取り付けてくるというような直接的な対応は無いけれど間接的・期間的に対応する費用のことを、間接費・期間費用と呼びます。
こういった、複数事業年度に渡って売上に貢献する機械や車両といった物品を固定資産として購入額で資産計上し、その後、その資産を使用する期間に応じて一定のルールに従って費用化していく、つまり、購入に要した費用を一定の期間に案分する処理のことを、減価償却といいます。

 

では、その「一定の期間」はどのように定めるのでしょうか。

 

会計ルール上は、その事業者がその資産をどれくらいの年数使う予定なのか、その資産は何年間使うことが可能なのか、という観点から、合理的に耐用年数を算定することになっています。
一方、税法上は、冒頭にも書いたように事業者間で「課税の公平」が確保されなければならないことから、資産を幾つかの種類に分類したうえで、こういうものであれば耐用年数は何年になる、という「法定耐用年数」を国が定めて、それに従って算出される金額が減価償却費として損金に算入されることになっています。つまり、事業者が(税金計算上、守らなければならない)1つのルールを国が定めている、とお考え下さって結構です。

 

<2>     計上限度額

一事業年度における減価償却費の算出・計上額については、個々の企業が独自のルールで自由に損金計算を行わないよう、課税当局が一律の規定を設けています。
ここでは、その条文を確認していきましょう。

 

まずは、法人税法です。長い条文ですので、一部をピックアップしてご紹介いたします。

 

減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法>
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として(中略)当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(略)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、(中略)政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(略)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(略)に達するまでの金額とする
法人税法第31条第1項)

 

つまり、法人税法としては適切な償却方法で法定耐用年数を用いて算出される金額を「限度額」として、それ以上の減価償却費は、たとえ企業会計上の経費計上を行ったとしても、損金としては認めないとしているのです。
「その年に計上できる金額の上限が決められている」と認識していただいてもいいでしょう。

 

一方、所得税はどうなっているのでしょうか。

 

減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法>
居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として(中略)必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、(中略)政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(略)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
消費税法第49条第1項)

 

法人税と似たような規定振りですが、末尾の表現が違うことにお気づきいただけたでしょうか。

 

所得税においては、その事業年度の末日である12月31日に有している減価償却資産については、定耐用年数を用いて計算された減価償却費を計上するということが規定されているのです。
法人税のように上限額が決まっていてそこまでの範囲内であればどれだけの金額で計上しようとも自由というのではなく、きっちり、かっちり、計上すべき金額が決められている。

 

この違いについて、法人税は「任意償却」で所得税は「強制償却」であると言うこともあります。

 

ところで、法人税にも消費税にも、減価償却費を計上するのは期末に有する固定資産に対してである、という記載がありますが、では、期中に売却・処分等をした固定資産について、その売却・処分日までの減価償却費を計上するという、一般的に会計入力において行われている処理は、法的に誤りなのでしょうか。

 

<3>     期中減少資産に対する減価償却

簿記の勉強等で、事業年度中に売却や除却等を行った減価償却資産については、月割で減価償却費を計上するということを習ったかと思います。
しかし、前述のように、条文を読む限りは、税法では期末に有する減価償却資産にのみ減価償却費の計上が認められていて、期中売却等資産に対する月割計算は認められていないように見えます。

 

仮に、期首の帳簿価額が200万円の資産を半年が経過したところで、250万円で売却したとしましょう。
この資産を期末まで所有していた場合に計上される減価償却費が120万円だとしたならば、仕訳はどのようなものになるでしょうか(消費税については考えないものとします)。

 

(1)    減価償却費の月割計上をする場合
売却時の帳簿価額は、200万円 △ 60万円(120万円×6/12)=140万円 となりますから、損益計算上は、① 減価償却費 60万円 と ② 固定資産売却益 110万円(250万円 △ 140万円) が計上されることになります。

 

(2)    減価償却費の月割計上をしない場合
こちらは単純ですよね。250万円 △ 200万円 = 50万円 という計算により、固定資産売却益 50万円 が計上されます。

 

(1)のケースでも(2)のケースでも、最終的な利益は +50万円 で変わりはありません。

 

法人税は、その法人が獲得した全ての益金から全ての損金を差し引いて課税所得を計算する、いわゆる「グロス課税」の法体系となっています。

ですので、どちらの方法で処理が行われていようとも最終的な課税額が変わらないのであれば、わざわざ法の改正その他の対応をとる必要は無いだろう、ということで、この、会計と税法との差について、特に調整は設けられていません。

 

一方、所得税は個人が獲得する所得を10種類に区分し、それぞれを別個に利益を計算するので、事情が異なってきます。
そこで、所得税基本通達49‐54において、次のような定めが設けられました。

 

<年の中途で譲渡した減価償却資産の償却費の計算>
年の中途において、一の減価償却資産について譲渡があった場合におけるその年の当該減価償却資産の償却費の額については、当該譲渡の時における償却費の額を譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に含めないで、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入しても差し支えないものとする。
所得税基本通達49‐54)

 

この定めがあることで、何が変わるのか。


例えば、事業用資産として使用していた不動産を売却したと考えてみてください。
この場合、売却に関わる収益は事業所得ではなく、譲渡所得は別途分離課税で所得税が別個に計算されます。
つまり、(1)を選んで事業費用に60万円、譲渡所得に110万円を計上するケースと、(2)を選んで事業費用に増減なし、譲渡所得に50万円を計上するケースとでは、納税額の総額に差が生じることが想定されるのです。

 

これに該当する取引を行われた方は、どちらの処理を選択した方が有利か、確定申告の時期にしっかりと検証されることをお勧めいたします。

 

 

インボイス制度で注意すべきこと      ~交通系ICカード

インボイス制度が始まって3ヶ月半。

実際に会計データ入力などをやっていると実感させられることですが、予想通り、これは相当に手間がかかって面倒な制度です。

原則的な取り扱いと、様々な特例。

それを理解し、適格に判断・入力していく。これが、事前に頭で考えていたよりもさらに、大変な作業になっています。

 

さらに、個別の事例について「これはどのように処理すべきなのか」と迷うことも多くて、その確認作業も大きな事務負担となります。

このブログでは、そういった事例ごとの対応の中で、これは多くの人が直面しているのではないか、迷うのではないか、ということについて、何回か解説もしてきています。

今回は、「交通系ICカード」に関わる処理について、整理を行っていきます。

 

<1> チャージは課税仕入

まず確認なのですが、ここをお読みの経理会計関係のお仕事をされている皆様は、これまで、SuicaPasmo 等の交通系ICカードへのチャージについて、どのような処理をされてきたでしょうか。

 

チャージはあくまでもチャージに過ぎないのだから、社員が自分の交通系ICカードにチャージを行ったとしても、その時点では経理処理は一切行っていないという人もいらっしゃるでしょう。

社員が顧客訪問などで支払った交通費は、計算書などを提出して実額で精算するという方法ですね。

 

一方、チャージを行った際に自販機から発行された領収証を会社に提出し、チャージした金額を交通費として精算する方法を採っている事業者様も、結構多く存在するかと思います。

交通系ICカードが誕生した直後ならともかく、現在はあちこちの商店その他で支払時に電子マネーとして交通系ICカードを使用することができるようになっています。

ですから、精算される金額が全て交通費として使われるのか、チャージされた時点では判断することができないと言えます。

さらに言うならば、会社経費だけでない、個人的支出が混入する可能性も、排除することはできません。

そういったことから、チャージ時点での交通費計上は、処理として適切だとは言えないのではないかという指摘は、以前からありました

が、交通系ICカード導入当時からそういった処理が慣行的に続いてきているというような事情があったり、事業者によっては金額的な重要性もそこまで高くないということもあって、これまではそういった処理も黙認されてきた、というのが実際のところでしょう。

 

ところで、交通系ICカードに現金をチャージするという行為は、消費税の課税対象となるのでしょうか。

消費税法の定める課税4要件は、「国内において」「事業者が事業として」「対価を得て行う」「資産の譲渡または役務の提供」になります(消費税法第4条第1項、消費税法第2条第8項)。

交通系ICカードへのチャージは、鉄道やバスの利用や物品の購入が行われていませんので、このうち、4番目の「資産の譲渡または役務の提供」を満たしていません。

つまり、「チャージを行った」という行為は、厳密に言えばその時点では消費税の課税取引には該当しないのです。

 

しかし、上記のように、交通系ICカードへのチャージはおおむね、最大でも1回1万円が限度ですので、金額的な重要性はあまり高くなく、それが結局交通費として使われるのであれば大きな問題は無いだろうということで、従来は、チャージ時に課税仕入として費用計上することがまかり通ってきた。

そんな会計習慣も、インボイス制度の導入により大きな影響を受けることになりました。

次は、その点を確認してみましょう。

 

<2> チャージとインボイス制度

消費税は、国内で事業者が事業として対価を得て行う、資産の譲渡または役務の提供が実施された際に、課税されます。

そして、少し強引な言い方をさせていただくならば、実施されたその取引が「消費税の課税取引である」ということを示す証拠となるのが、昨年10月に制度が始まった適格請求書等、つまりいわゆる「インボイス」です。

交通系ICカードへのチャージが消費税の課税取引に関わる要件を満たさないことは、先に説明しているとおり。

なので、残高が少なくなった等の理由により、交通系ICカードにもし皆さんがチャージを行ったとしても、その領収証(自販機等で発券を受けることができます)は、適格請求書等にはなっていません

 

チャージは単なる現金の預け入れだから、インボイスが発行されるような取引ではない。

そして、インボイス制度下においては、適格請求書等の発行を受けていない取引は、仕入税額控除の対象として会計処理をしてはいけないことになっています。

 

つまり、インボイス制度開始前に慣行としてやっていたような、チャージ段階での課税取引処理をすることは、できないのです。

課税処理ができるのは、交通系ICカードにチャージした金銭を使って、何らかの物品を購入したり、サービスを享受したりした時です(かつ、課税仕入処理の対象となるのはその物品やサービスの対価相当額だけです)。

 

結論として、原則的な処理としては、交通系ICカードのチャージには、そのチャージした金額を経費として精算することはできません。

今後は、実際に物品の購入・サービスの享受を行った際に、その購入や享受に関わる領収証等を経理課等に提出して、精算を受けることになります。

もちろん、その場合でも、その購入等の相手方が「インボイス番号を持っている消費税課税事業者」で無い場合には、消費税の課税取引として処理することはできませんので、その点はご注意ください。

 

<3> 交通費特例、出張費特例との関係

まずご注意いただきたいのは、前項までと異なり、この項に書かれていることは国税庁の公式見解というわけではありません。

あくまで、法令やQ&Aを読み込んだうえで、「これはこういうやり方があるのではないか」と現時点で私が思ったことになりますので、今後、国税庁によって以下の処理方法が否認される可能性もあります。

その点は、あらかじめ、十分承知したうえでお読みいただければと思います。

 

インボイス制度下において課税仕入取引として処理をする為には、その取引の相手方(支払先)が T番号 を有している課税事業者であり、そこから適格請求書等の発行を受けている必要があります。

 

一方で、インボイス制度には、以前に説明したような、幾つかの特例が設けられています。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

社員の方が行う交通系ICカードについては、それが交通費の支払に関してのみ利用されているという前提条件付きで、このうちの、「公共交通機関による旅客の運送のうち少額のもの」(以下、「交通費特例」とします)か、「従業員に支給する通勤手当・出張旅費等」(以下、「出張費特例」とします)の適用を受けられるのではないか、と考えることができます。

そうであるならば、チャージ時の領収証提出を受けて、そのチャージ金額を課税取引の経費として処理をすることも可能になりそうです。

ただし、この解釈を通すには、上記の前提条件、より詳しく書くならば、「チャージした(された)金額が、交通費の支払にのみ用いられたことが証拠によって担保されていること」が非常に重要になってくるでしょう。

 

例えばコンビニでのちょっとした買い物とか、飲食店での食事代の支払に、交通系ICカードを使っている場合は、この理屈は通らなくなります。

公共交通機関ではありませんから、タクシー代の支払に使うのも、避けておいた方がいいかもしれません。

 

電車・バス等の料金にのみ使っていることの証明は、駅の券売機(モバイスSuica 等の場合はそのアカウントページ)で発行できる利用履歴を添付することで可能になるのではないかと思われます。

 

ただ、これはその時点でチャージをした金額の使い道を示すものではなく、チャージをしたとき以前の一定期間に使ってきた金額の内訳を示したものであるということには、注意しなければなりません。

交通費として自らが支払った金額分をチャージして補填したから、その分を経費として精算する、という形を取ることになるわけです。

だから、例えば新入社員の営業担当が、まだどの顧客も訪問していないのにチャージ代を清算しようとする場合には、この理屈は通りません。

 

このように、ここで書いた方法を使ったとしても、チャージ時の経費処理につういては、決して手放しでOKと言うことはできません。

 

可能であれば、交通系ICカードのチャージ代を経費して処理するのは止めにして、社員の方々には、実際の支払日と支払額や支払先等を記載した交通費精算書を作成してもらい、それを以て実費で精算をする、という手段を採るのが、ベストであろうと思います。

 

 

なお、この話は何も交通系ICカードに限ったものではありません

他に、例えば Google 等のリスティング広告において発生する、クリック広告費の前払とか、セブンイレブンでの nanacoカード へのチャージとか、いわゆるプリペイド取引については、一般的に該当する話です。

ここでは普遍性の高さに着目して、敢えて交通系ICカードに絞って採り上げましたが、それ以外のものについても、こういう時はどうなるのか、この取引だとどう考えられるのか、という疑問が生じましたら、お近くの税務署、税理士等にお問い合わせください。

 

 

消費税納税義務等の基礎知識

インボイス制度開始から2ヶ月半が経過しました。

仕事の受注、営業関係の都合で、課税売上規模的には免税事業者であるものの、敢えてインボイス番号(登録番号)を取得して課税事業者になった、という方もいらっしゃいます。

インボイス制度開始が迫った頃から次第に、そういった皆さんから消費税の基本的について質問を受けることが増えてきました。

そこで、過去にも何回か書いたことではあるのですが、2024年になる前、年内中にもう一度、改めて、そういった消費税納税義務者になりたて又はもうじき納税義務者になる予定の皆様に質問されることの多い項目を、簡単に説明いたします。

 

<1> 消費税の免税点制度

冒頭から自明の理のように書いていますが、消費税には免税点、免税事業者というものが制度上、設定されています。

 

そもそも消費税とは、日本国内で行われる物品やサービスの消費に対して税を課すものです。

しかし、一般の消費者……例えばコンビニ等で5冊セットのノートを購入した個人に、それをそれぞれ何日に使用開始した(消費した)のか記録し、他の消費した物品等と一緒に消費物品等の合計額を計算して、そこに税率をかけ、申告し、納付までを行うことを求めるのは、さすがに無茶というものですよね。

そこで消費税法は、最終的に消費を行う一般消費者の1つ手前、その物品等を販売した事業者が、販売の時点で消費者から税金を預かって代わりに国に治めるという、間接税の形を採用しています。

この点について、財務省は消費税が「預り金」ではないとしている、という指摘があり確かにこれについては裁判例もあるのですが、そこには一応、そう主張するに至った事情があります。が、そこについて説明を始めると話がかなり長くなりますので、それはいずれ、どこかでさせていただくことにして、今回は割愛します。

 

さて、そうして平成元年4月1日から、事業者側に消費税の計算と申告、納税の義務が課せられることになったわけですが、事業者にしても、税金が増えるだけでなく、会計的にも、それまでは一切やっていなかった作業が追加されるわけです。

その事務負担は無視できないということで、これを軽減すべく、消費税法には、規模の小さい事業者に対しては、そもそも税額を本来のものよりも圧倒的に簡便な計算で算出していいという「簡易課税」制度が存在します。

そして、さらに規模の小さな事業者には、そもそも消費税の納税義務が免除された「免税事業者」になるという、「免税点」制度も、同時に設けられました。

 

では、消費税が免除される小規模事業者に該当するのか否かは、どのように判定されるのでしょうか。

 

これは、その事業者が「消費税の課税対象になる売上=課税売上高」をどれくらい有しているのかで決定されます。この基準になる課税売上高を「免税点」といい、現行法では、1,000万円以下であれば消費財の納税義務は免除されることになっています。

実際に判定に使われるのは、「基準期間の課税売上高」です。

 

<2> 基準期間とは

ここで、3月決算法人で、現在第10期目が開始したばかりの、A社という事業者があるとします。

この第10期に消費税の納税義務があるかどうかは、前述のように、課税売上高が 1,000万円を超えるかどうかで判定されます。

しかし、その事業年度の最終的な課税売上高がいくらになるのかは、事業年度が終わってみなければ分からないですよね。

そこで、なるべく直近の事業年度の課税売上高で代用しよう、という考え方が、ここで出てくることになります。

 

では、前期、第9期はどうでしょうか。

第10期が消費税の課税事業者か免税事業者かで、会計入力は大きく異なります(仮受・仮払消費税等を認識するかどうか、インボイス制度の登録番号を有する仕入先か否か、等)。

それは、事業年度開始の4月1日の時点から始まることですが、しかし、一般的に、その段階ではまだ消費税の計算は確定しているとは言えません。

例えば、納品先の検収を待っているとか、電力販売業を営んでいてメーター等を確認しないと売上が確定しないとか、そのようなケースであれば、課税売上高が確定するのは早くても4月の末から5月の頭になってからになることでしょう。

そこまでではないとしても、さすがに翌期の初日段階では課税売上高は確定しないという事業者がほとんでしょうから、つまり、期首時点の消費税に係る処理を明確にしよう(課税事業者に該当するか否かを判断しよう)としても、直前期の事業年度を「基準期間」とするは、限りなく不可能ということになります。

 

そこで次善の策として採用されているのが、第10期の開始時点で、その事業年度の課税売上高が完全に確定している一番直近の課税期間である前々期、つまりA社の第8期の数字です。

要は2つ前の事業年度の課税売上高を判定基準とするのであり、これを消費税法では「基準期間の課税売上高」と言います。

以前に掲載したものの再掲ではありますが、これを図にしたものを下に貼りますので、ご覧ください。

 

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/miyauchikaikei/20210725/20210725160935.jpg

 

<3> 納付税額の計算時期

基準期間の話をした際に、誤解される方が多いのが、例えば基準期間の課税売上高が1億円であった場合、今期はその1億円の売上があった前々期に対応する消費税額を納めなければいけないのだろうか、ということです。

実際は、基準期間(第8期)の課税売上高は、あくまで当期(第10期)が課税事業者なのか免税事業者なのかという判定の為にのみ用いる数字であって、当期(第10期)に消費税をいくら納めなければならないのかという、納税額の計算には一切関わってきません

第10期に納める消費税は、あくまで第10期の課税売上と課税仕入から算出されるのです。

 

極論、A社の第8期の課税売上高が1億円であっても、第10期の課税売上高が 0円 であれば、その事業年度には消費税の納税額は発生しません(むしろ、簡易課税を選択している場合を除けば、逆に、消費税の「仕入税額控除」分だけ、還付税額が発生するでしょう)。

ここを勘違いされている人が意外と多いので、ご注意ください。

 

 

以上、新たに消費税の課税事業者となられた事業者様に向けた、消費税関係の基礎知識の簡単な解説でした。

より詳しい話、あるいは「自社の場合はどうなるのか」というような個別案件の話については、顧問税理士がいらっしゃればその方に、なければ、税務署もしくは税理士等、専門家にご相談・ご質問をしていただくことをお勧めいたします。