三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

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暦年贈与と相続時精算課税の改正点

表題の通り、今回は、贈与税の暦年贈与と相続時精算課税に関する令和5年改正について取り上げます。

どちらも、相続税と密接に関係してくる改正内容です。

改正としては今年ではなく昨年に行われたものなのですが、施行は今年令和6年以降に実施された贈与からであり、今年に入ってから質問を受けることも多かったので、ここで、その内容を簡単ながら説明させていただきたいと思います。

 

なお、今回のテーマである、暦年贈与の改正点である「生前贈与加算」についてはこの日のエントリーで、また、「相続時精算課税」についてはこの日のエントリーで、それぞれ制度の内容を書いているので、まずそちらを読んでいただけますと、内容が理解しやすいのではないかと思います。

 

<1> 生前贈与加算期間が7年間に延長された

相続または遺贈により財産を取得した者が、その被相続人(亡くなった方)から過去に贈与を受けている財産があった場合には、それ等のうち一定期間内のものにつき、被相続人から相続等により取得した財産とみなして(「みなし相続財産」と言います)相続税を課税する。

それが、相続税の「生前贈与加算」という制度で、相続税法第19条に規定されています。

 

この「一定期間」は、従前は被相続人の亡くなった日から3年以内(当該相続の開始前三年以内)だったのですが、これが7年以内(当該相続の開始前七年以内)に変更になりました。

ただし、これはあくまで「令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税」が対象となることに注意が必要です。

言い換えるなら、「令和5年12月31日までに贈与により取得していた財産」については、従前の「相続開始前三年以内」という規定が適用されます。

つまり、7年前まで遡って加算されるのは、今年以降に発生した贈与ということです。

 

国税庁作成のパンフレットに具体的な表があるので、引用してみましょう。

 

国税庁HPより引用)

相続財産への加算は、その財産が贈与された時点での評価額で行われ、相続発生までの間に時価の変動が発生していたとしても、それは反映されません。

また、今回延長された4年間に取得した財産については、その評価額の全額ではなく、当該機関に贈与を受けた財産の評価額の総額から100万円を控除した金額が加算されることになります。

ここについても、国税庁パンフレットの図を引用します。

 

国税庁HPより引用)

相続対策として、暦年贈与の110万円控除を活用して毎年贈与をされていた(あるいは贈与をすることを検討していた)方も多いことと思います。

対応策として何ができるというわけでも無いのですが、本年以降は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算される範囲が、7年間に延長されたということに、十分に留意することが必要です。

 

<2> 相続時精算課税に暦年贈与同様の基礎控除が設けられた

従前、相続時精算課税を利用する場合に、贈与税の計算上、贈与財産の時価から差し引ける控除額は、総額で2,500万円に達するまでとされていました。

また、その後に相続が発生した際には、この2,500万円の控除は考慮されず、贈与時の評価額の全額が加算されることとなります。

この時、相続時精算課税は生前贈与加算と異なり、相続の発生前〇年間というような制限がありません。

つまり、この制度の利用を届け出て以降の全ての贈与財産(届け出た後に撤回することはできません)は、漏れなく相続時に相続財産に加算されることになります。

また、暦年贈与のような、年間110万円という基礎控除枠もありませんでした。

 

今回改正となったのは、その、110万円の基礎控除枠の部分です。

つまり、「令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与
税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円が控除され」ることとなったのです(引用部分は国税庁パンフレットより)。

つまり、例えば、Aさんがお父様から暦年贈与により財産を取得し、お母様から相続時精算課税制度の利用により財産を取得しているような場合、Aさんはそのそれぞれの財産について、110万円の基礎控除が適用されることになります。

 

ここで説明したように、贈与税は「受贈者課税」なので、複数の者から贈与を受けている場合は、その合計額に対して110万円の基礎控除が適用される(つまり、その1年に差し引ける基礎控除額は何人から贈与を受けようとも総額110万円まで)のですが、相続時精算課税については、完全に暦年課税とは別枠のものとして考えられているわけですね。

 

今回改正で生まれたこの基礎控除部分については、相続時に相続財産に加算されることはありません

ここが、実は事情に大事な部分です。

つまり、相続対策で毎年基礎控除額である110万円以下の現預金を暦年贈与してきたというような方が、令和6年以降を相続時精算課税に切り替えれば、生前贈与加算の心配をすることなく、亡くなる直前まで贈与を行うことができることになります。

 

相続時精算課税はこれまで、いまひとつ使いづらさのある制度でしたが、この改正によって、活用の幅は広がったと考えられます。

 

ただ、一度制度適用を選んだら以降のその者から受ける贈与は強制的に相続時精算課税制度を利用しなければならず撤回ができないこと、適用を受けている財産で年間110万円を超える部分は何年前の贈与であろうとも相続財産に加算されること、相続時精算課税適用財産は小規模宅地の特例等の対象にはならないこと、といった相続時精算課税選択のリスクはこれまで通り存在しています。

 

それを踏まえてなお、「暦年贈与とは別枠で基礎控除が110万円受けられ、その部分については生前贈与加算の対象にならない」という点にメリットを感じる場合には、前向きに検討すべき制度になった、と言えるでしょう。

 

なお、今回の改正では、相続時精算課税制度の対象となっている受贈財産である土地・建物が、令和6年1月1日以降に災害によって一定の被害を受けた場合に、相続財産の加算額からその被災価額を差し引けるという規定も新設されました(相続発生時までその土地・建物を所有している場合に限る)。

地味ですが、これもかなり重要な改正だと思います。

 

これ等の改正についても、国税庁パンフレットから図を引用します。

 

国税庁HPより引用)

 

<3> 相続等により財産を取得しない者への暦年贈与(予告)

今回の改正とは関係の無い、従来からある重要論点として、暦年贈与の生前贈与加算を回避する為に、例えば、自身の相続人ではない孫などに基礎控除の範囲である110万円の範囲で贈与を行う、という相続対策があります。

これは、生前贈与加算が「相続又は遺贈により財産を取得した者」を対象とした規定であることに着目したものなのですが、これに関しては、いざ相続が発生した時に、大きな問題が発生することがしばしばあります。

 

今回のテーマとは別の論点になりますし、内容的にも独立してご説明すべきことなので、ここでは、そのような問題が存在するという事実だけを書いておきます。

追って近日に解説いたしますので、申し訳ありませんが、それまでお待ちいただけると幸いです。

 

 

かなり長くなりましたので今回はここまで。

最後に、かなり引用をさせていただいた国税庁パンフレットへのリンクを貼って、終わりとさせていただきます。

 

国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税税制改正のあらまし」

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf