三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

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区分所有マンションの評価方法改定

相続財産の評価は「時価」によるものと、相続税法第22条は規定しています。

この「時価」は「客観的な交換価値」であるとされていますが、それが具体的にどのような金額になるのかについては、しばしば、納税者と課税当局の間に見解の相違が生じるところとなっています。

例えば、居住用の区分所有財産(分譲マンション)の相続税評価額については双方の評価差額も大きくなりがちで、裁判にまで至ることも多く、ここでも、以前に令和4年4月19日最高裁判決に関する解説を2回に渡って掲載しています。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

この判決を受けた課税当局側は分譲マンションに関する「財産評価基本通達」の見直しを検討していました。

その結果、今年の1月1日以降に相続、遺贈または贈与によって取得した分譲マンションから、新たな通達が適用されるに至っています。

今回は、その改定内容を簡単に説明いたします。

 

<1> 区分所有補正率

争いが多かった原因は、納税者による「財産評価基本通達」等を使った評価と、実際の市場価格とが大きく乖離するケースが少なくないことでした。

そのような場合、従来は課税当局側が不動産鑑定士などに依頼して算出した「時価」による評価をするべきとして、更正処分を行ったりしてきました。

が、上記、令和4年4月19日最高裁判決では、「財産評価基本通達」は法ではないものの、財産評価に関する「時価」の計算方法として実質的な規定と化していると認められるから、不動産鑑定額評価との差額が非常に大きいとしても、そのことだけを以て更正すべきであるとは言えないと指摘され、従来の更正のやり方には一定の制限がかけらられることとなりました。

これを受けて課税当局は令和5年9月28日に、「居住用の区分所有財産の評価について」という法令解釈通達を発表、以後、分譲マンションについてはこれによって評価することとしたのです。

 

www.nta.go.jp

 

リンクは貼りましたが、これを読んでもちんぷんかんぷんだという人が多いと思います。

敢えて単純化して話をすると、要するに、評価額の乖離が発生しやすい分譲マンションについては、土地も家屋も、「財産評価基本通達」によって算出された従来通りの評価額に、一定のパーセンテージ(「評価乖離率」を基にした「区分所有補正率」)を乗じることで、評価額を調整することとなったのです。

 

となれば、ここで問題になるのは、その「評価乖離率」の算出方法です。

算出に使われる要素は全部で4つ。

 

① その区分所有建物の築年数(新築から何年が経過しているのか)

② その区分所有建物の総階数(何階建てなのか)

③ その区分所有建物の専有部分の所在階(所有している部屋は何階なのか)

④ その区分所有建物の敷地持分狭小度(建物全体に対する持分はどれくらいなのか)

 

少々強引に言い換えを行ったのが()内ですが、イメージは、湧き易いと思います。

 

具体的な計算方法は後程説明しますが、これらの要素を使って出した「評価乖離率」の逆数(1÷「評価乖離率」)が次の3つの区分のどこに該当するかで、従来の評価額に乗じる「区分所有補正率」が決定します。

 

区分所有補正率(国税庁パンフレットより引用)

上記がその表なのですけれども、私のような専門家はともかく、一般の納税者はこのような細かいところまで覚えなくてもいいでしょう。

イメージとして、現行の相続税評価額と市場価格を比較した時に、前者が後者を大きく下回る場合には相続税評価額が市場価格の6割相当額まで引き上げられ、上回った場合は相続税評価額が市場価格まで引き下げられる、と思っておいていただければ、ひとまずは十分かと思います。

 

次に、「評価乖離率」の算出方法をご説明します。

 

<2> 評価乖離率

率直に言わせていただけば、この算式はかなり面倒なものとなっています。

国税庁が計算明細書を公開しており、そこに必要な数値を入れていけば算出ができるようにはなっていますが、本来簡便であることを是とするべき租税法の理念には反するものであるのは、否定できないかもしれません。

 

まず、算式を確認してみましょう。

 

評価乖離率= ① + ② + ③ + ④ + 3.220

  ① 1棟の区分所有建物の築年数 × △0.033
  ② 1棟の区分所有建物の総階数指数 × 0.239(小数点以下第4位切捨て)
     なお、 総階数指数 は次の式により算出されます(小数点以下第4位切捨て)
       【 地階を含まない総階数÷33 (1を超える場合は1)】
  ③ 1室の区分所有等に係る専有部分の所在階 × 0.018
     複数の階にまたがるメゾネット形式の場合は低い方の階とし、
     地階の場合は零階とする(この場合 ③ の数値は「0」になります)
  ④ 1室の区分所有等に係る敷地持分狭小度 × △0.195(小数点以下第4位切上げ)
     なお、敷地持分狭小度は、次の式により算出されます
                  (小数点以下第4位切上げ)
       【 敷地利用権の面積÷専有部分の面積(床面積)】

 

細かい注記事項はまだありますが、現時点で既に複雑な説明を、これ以上難しくしても仕方がないので、ここは割愛させていただきます。

 

各項目について簡単に説明をすると……

① は乗じる係数が負(マイナス)となっているので、築年が浅ければ浅いほど、評価乖離率は高くなります

② は乗じる係数が正(プラス)なので、そのマンションが高層であればあるだけ、評価乖離率が高くなります

③ も ② と同様に乗じる係数が正(プラス)であることから、所有する部屋の所在階が高ければ高いほど、評価乖離率も高くなります

④ は乗じる係数が負(マイナス)であり、容積率の高いマンションであればあるだけ敷地持分狭小度は小さくなるので、容積率が高い地域で限界まで大きな建物が建っているような場合は、マイナスされる数値もそれに応じて少なくなることから、評価乖離率は高くなります

 

<3> まとめ

以上、ここまで書いてきたことをまとめると、次のようになるでしょう。

 

新たな評価方法の適用において、「築年が浅くて」「高層建築であり」「その上層階を所有していて」「容積率の高い(駅前等の)地域に最大限大きな建物になるように建設されたもの」という要件を満たす分譲マンションは、評価乖離率が高くなり、最終的な評価額もそれに伴って高くなると考えられる。

 

なお、この改定の対象はあくまで居住用の区分所有財産に関するものであり、かつ、次のようなものは対象外とされています。

・2階建て以下の低層マンション
・二世帯住宅等で一定のもの
・区分建物の登記がされていないもの
・事業用のテナント物件
・1棟を所有している賃貸マンション(単独所有または共有)
 

条件によっては、相続税評価額が従来の評価額の数倍にもなるケースもあるので、上記の、評価額が高額になる要件に該当する物件を所有される方は、一度、実際にこの改定で評価額がどのように変わるのか、確認してみるのもいいのではないでしょうか。