三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

減価償却費の計上(個人と法人の相違)

今年も確定申告の時期がやってまいりました。
最近はどうしてもインボイス制度の話をメインにさせていただいていましたが、もちろん、そればかりが税金というわけではありません。


今回は、皆さんが確定申告で会計処理を行う際にも参考になるであろう項目として、減価償却について、その法的な根拠や、期中に売却等を行った際の処理について、ご説明させていただきます。

 

日本における主たる税目となっている所得税法人税は、どちらも利益課税の税金です。
つまり、個人事業もしくは法人の業務によって生じた「売上」に対してではなく、売上から原価や経費等を差し引いた後の「利益」を課税対象として、税金の計算を行うものとなっています。

 

この2つの税目は、課税する国税庁の側が計算をしてその課税期間に課される税金の通知をしてくる賦課課税ではなく、納税者自らが税額の計算を行って国税庁に申告書を提出する申告課税の方式を採っています。
この場合、当然ですが、それぞれの納税者が好き勝手なルールで計算を行うのではなく、公に決められた1つのルールに従った計算が行われていなければ、課税の公平が確保できないことになります。

 

また、それぞれの企業に対して資金を投下しようと考えている投資家や、貸付を行う銀行など、利益関係者も、各企業が独自基準に従ったまちまちな帳簿を付けているようでは、判断に困ることになります。
その為、企業が行う会計処理には一定のルールが設けられています。

 

今回はそのルールの中身を説明するのが目的では無いので、その辺りはさらっと流させていただきますが、会計帳簿に虚偽や漏れが無く一貫したものであることは企業会計原則の「正規の簿記の原則」「網羅性」「立証性」「秩序性」を遵守することで担保されます。
また、利益計算の妥当性や比較可能性は、企業会計原則内の損益計算書原則における「発生主義の原則」「総額主義の原則」「費用収益対応の原則」等が担保してくれるでしょう。

 

今回のテーマである「減価償却費の計上」は、このうち、「費用収益対応の原則」に係る事項になります。

 

<1>     費用の期間按分

減価償却」というのがどのようなものであるかは、このブログでも以前に3回に分けて採り上げています。

とはいえ、改めてそのエントリーを探して読んでいただくのも申し訳が無いので、ここで再度簡単に解説をさせていただきます。

 

先に書いたように、所得税法人税はどちらも利益課税の税目となっています。

当然ですが、正確で公正な課税が行われる為には、正確な利益の算出が必要となってきます。

利益は、売上の金額から、その売上をあげるまでに要した原価(仕入)と経費の金額を差し引いて算出されますが、事業とまるで関係が無い支出を経費等として計算に反映させるのは脱税行為ですので論外として、この際に、正確な利益を計算するのであれば、長期間に渡って使用するような資産に関する支出は、その資産を利用可能な年数で費用化していくべきだということになります。

 

物品販売という収益に対する商品仕入という直接的な対応のある費用に対し、例えば営業用車両など、売上と直接的な紐付けは無いものの、その車両の使用可能期間に渡って営業社員がその車両を利用することで顧客からの注文を取り付けてくるというような直接的な対応は無いけれど間接的・期間的に対応する費用のことを、間接費・期間費用と呼びます。
こういった、複数事業年度に渡って売上に貢献する機械や車両といった物品を固定資産として購入額で資産計上し、その後、その資産を使用する期間に応じて一定のルールに従って費用化していく、つまり、購入に要した費用を一定の期間に案分する処理のことを、減価償却といいます。

 

では、その「一定の期間」はどのように定めるのでしょうか。

 

会計ルール上は、その事業者がその資産をどれくらいの年数使う予定なのか、その資産は何年間使うことが可能なのか、という観点から、合理的に耐用年数を算定することになっています。
一方、税法上は、冒頭にも書いたように事業者間で「課税の公平」が確保されなければならないことから、資産を幾つかの種類に分類したうえで、こういうものであれば耐用年数は何年になる、という「法定耐用年数」を国が定めて、それに従って算出される金額が減価償却費として損金に算入されることになっています。つまり、事業者が(税金計算上、守らなければならない)1つのルールを国が定めている、とお考え下さって結構です。

 

<2>     計上限度額

一事業年度における減価償却費の算出・計上額については、個々の企業が独自のルールで自由に損金計算を行わないよう、課税当局が一律の規定を設けています。
ここでは、その条文を確認していきましょう。

 

まずは、法人税法です。長い条文ですので、一部をピックアップしてご紹介いたします。

 

減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法>
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として(中略)当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(略)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、(中略)政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(略)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(略)に達するまでの金額とする
法人税法第31条第1項)

 

つまり、法人税法としては適切な償却方法で法定耐用年数を用いて算出される金額を「限度額」として、それ以上の減価償却費は、たとえ企業会計上の経費計上を行ったとしても、損金としては認めないとしているのです。
「その年に計上できる金額の上限が決められている」と認識していただいてもいいでしょう。

 

一方、所得税はどうなっているのでしょうか。

 

減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法>
居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として(中略)必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、(中略)政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(略)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
消費税法第49条第1項)

 

法人税と似たような規定振りですが、末尾の表現が違うことにお気づきいただけたでしょうか。

 

所得税においては、その事業年度の末日である12月31日に有している減価償却資産については、定耐用年数を用いて計算された減価償却費を計上するということが規定されているのです。
法人税のように上限額が決まっていてそこまでの範囲内であればどれだけの金額で計上しようとも自由というのではなく、きっちり、かっちり、計上すべき金額が決められている。

 

この違いについて、法人税は「任意償却」で所得税は「強制償却」であると言うこともあります。

 

ところで、法人税にも消費税にも、減価償却費を計上するのは期末に有する固定資産に対してである、という記載がありますが、では、期中に売却・処分等をした固定資産について、その売却・処分日までの減価償却費を計上するという、一般的に会計入力において行われている処理は、法的に誤りなのでしょうか。

 

<3>     期中減少資産に対する減価償却

簿記の勉強等で、事業年度中に売却や除却等を行った減価償却資産については、月割で減価償却費を計上するということを習ったかと思います。
しかし、前述のように、条文を読む限りは、税法では期末に有する減価償却資産にのみ減価償却費の計上が認められていて、期中売却等資産に対する月割計算は認められていないように見えます。

 

仮に、期首の帳簿価額が200万円の資産を半年が経過したところで、250万円で売却したとしましょう。
この資産を期末まで所有していた場合に計上される減価償却費が120万円だとしたならば、仕訳はどのようなものになるでしょうか(消費税については考えないものとします)。

 

(1)    減価償却費の月割計上をする場合
売却時の帳簿価額は、200万円 △ 60万円(120万円×6/12)=140万円 となりますから、損益計算上は、① 減価償却費 60万円 と ② 固定資産売却益 110万円(250万円 △ 140万円) が計上されることになります。

 

(2)    減価償却費の月割計上をしない場合
こちらは単純ですよね。250万円 △ 200万円 = 50万円 という計算により、固定資産売却益 50万円 が計上されます。

 

(1)のケースでも(2)のケースでも、最終的な利益は +50万円 で変わりはありません。

 

法人税は、その法人が獲得した全ての益金から全ての損金を差し引いて課税所得を計算する、いわゆる「グロス課税」の法体系となっています。

ですので、どちらの方法で処理が行われていようとも最終的な課税額が変わらないのであれば、わざわざ法の改正その他の対応をとる必要は無いだろう、ということで、この、会計と税法との差について、特に調整は設けられていません。

 

一方、所得税は個人が獲得する所得を10種類に区分し、それぞれを別個に利益を計算するので、事情が異なってきます。
そこで、所得税基本通達49‐54において、次のような定めが設けられました。

 

<年の中途で譲渡した減価償却資産の償却費の計算>
年の中途において、一の減価償却資産について譲渡があった場合におけるその年の当該減価償却資産の償却費の額については、当該譲渡の時における償却費の額を譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に含めないで、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入しても差し支えないものとする。
所得税基本通達49‐54)

 

この定めがあることで、何が変わるのか。


例えば、事業用資産として使用していた不動産を売却したと考えてみてください。
この場合、売却に関わる収益は事業所得ではなく、譲渡所得は別途分離課税で所得税が別個に計算されます。
つまり、(1)を選んで事業費用に60万円、譲渡所得に110万円を計上するケースと、(2)を選んで事業費用に増減なし、譲渡所得に50万円を計上するケースとでは、納税額の総額に差が生じることが想定されるのです。

 

これに該当する取引を行われた方は、どちらの処理を選択した方が有利か、確定申告の時期にしっかりと検証されることをお勧めいたします。