三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度で注意すべきこと      ~交通系ICカード

インボイス制度が始まって3ヶ月半。

実際に会計データ入力などをやっていると実感させられることですが、予想通り、これは相当に手間がかかって面倒な制度です。

原則的な取り扱いと、様々な特例。

それを理解し、適格に判断・入力していく。これが、事前に頭で考えていたよりもさらに、大変な作業になっています。

 

さらに、個別の事例について「これはどのように処理すべきなのか」と迷うことも多くて、その確認作業も大きな事務負担となります。

このブログでは、そういった事例ごとの対応の中で、これは多くの人が直面しているのではないか、迷うのではないか、ということについて、何回か解説もしてきています。

今回は、「交通系ICカード」に関わる処理について、整理を行っていきます。

 

<1> チャージは課税仕入

まず確認なのですが、ここをお読みの経理会計関係のお仕事をされている皆様は、これまで、SuicaPasmo 等の交通系ICカードへのチャージについて、どのような処理をされてきたでしょうか。

 

チャージはあくまでもチャージに過ぎないのだから、社員が自分の交通系ICカードにチャージを行ったとしても、その時点では経理処理は一切行っていないという人もいらっしゃるでしょう。

社員が顧客訪問などで支払った交通費は、計算書などを提出して実額で精算するという方法ですね。

 

一方、チャージを行った際に自販機から発行された領収証を会社に提出し、チャージした金額を交通費として精算する方法を採っている事業者様も、結構多く存在するかと思います。

交通系ICカードが誕生した直後ならともかく、現在はあちこちの商店その他で支払時に電子マネーとして交通系ICカードを使用することができるようになっています。

ですから、精算される金額が全て交通費として使われるのか、チャージされた時点では判断することができないと言えます。

さらに言うならば、会社経費だけでない、個人的支出が混入する可能性も、排除することはできません。

そういったことから、チャージ時点での交通費計上は、処理として適切だとは言えないのではないかという指摘は、以前からありました

が、交通系ICカード導入当時からそういった処理が慣行的に続いてきているというような事情があったり、事業者によっては金額的な重要性もそこまで高くないということもあって、これまではそういった処理も黙認されてきた、というのが実際のところでしょう。

 

ところで、交通系ICカードに現金をチャージするという行為は、消費税の課税対象となるのでしょうか。

消費税法の定める課税4要件は、「国内において」「事業者が事業として」「対価を得て行う」「資産の譲渡または役務の提供」になります(消費税法第4条第1項、消費税法第2条第8項)。

交通系ICカードへのチャージは、鉄道やバスの利用や物品の購入が行われていませんので、このうち、4番目の「資産の譲渡または役務の提供」を満たしていません。

つまり、「チャージを行った」という行為は、厳密に言えばその時点では消費税の課税取引には該当しないのです。

 

しかし、上記のように、交通系ICカードへのチャージはおおむね、最大でも1回1万円が限度ですので、金額的な重要性はあまり高くなく、それが結局交通費として使われるのであれば大きな問題は無いだろうということで、従来は、チャージ時に課税仕入として費用計上することがまかり通ってきた。

そんな会計習慣も、インボイス制度の導入により大きな影響を受けることになりました。

次は、その点を確認してみましょう。

 

<2> チャージとインボイス制度

消費税は、国内で事業者が事業として対価を得て行う、資産の譲渡または役務の提供が実施された際に、課税されます。

そして、少し強引な言い方をさせていただくならば、実施されたその取引が「消費税の課税取引である」ということを示す証拠となるのが、昨年10月に制度が始まった適格請求書等、つまりいわゆる「インボイス」です。

交通系ICカードへのチャージが消費税の課税取引に関わる要件を満たさないことは、先に説明しているとおり。

なので、残高が少なくなった等の理由により、交通系ICカードにもし皆さんがチャージを行ったとしても、その領収証(自販機等で発券を受けることができます)は、適格請求書等にはなっていません

 

チャージは単なる現金の預け入れだから、インボイスが発行されるような取引ではない。

そして、インボイス制度下においては、適格請求書等の発行を受けていない取引は、仕入税額控除の対象として会計処理をしてはいけないことになっています。

 

つまり、インボイス制度開始前に慣行としてやっていたような、チャージ段階での課税取引処理をすることは、できないのです。

課税処理ができるのは、交通系ICカードにチャージした金銭を使って、何らかの物品を購入したり、サービスを享受したりした時です(かつ、課税仕入処理の対象となるのはその物品やサービスの対価相当額だけです)。

 

結論として、原則的な処理としては、交通系ICカードのチャージには、そのチャージした金額を経費として精算することはできません。

今後は、実際に物品の購入・サービスの享受を行った際に、その購入や享受に関わる領収証等を経理課等に提出して、精算を受けることになります。

もちろん、その場合でも、その購入等の相手方が「インボイス番号を持っている消費税課税事業者」で無い場合には、消費税の課税取引として処理することはできませんので、その点はご注意ください。

 

<3> 交通費特例、出張費特例との関係

まずご注意いただきたいのは、前項までと異なり、この項に書かれていることは国税庁の公式見解というわけではありません。

あくまで、法令やQ&Aを読み込んだうえで、「これはこういうやり方があるのではないか」と現時点で私が思ったことになりますので、今後、国税庁によって以下の処理方法が否認される可能性もあります。

その点は、あらかじめ、十分承知したうえでお読みいただければと思います。

 

インボイス制度下において課税仕入取引として処理をする為には、その取引の相手方(支払先)が T番号 を有している課税事業者であり、そこから適格請求書等の発行を受けている必要があります。

 

一方で、インボイス制度には、以前に説明したような、幾つかの特例が設けられています。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

社員の方が行う交通系ICカードについては、それが交通費の支払に関してのみ利用されているという前提条件付きで、このうちの、「公共交通機関による旅客の運送のうち少額のもの」(以下、「交通費特例」とします)か、「従業員に支給する通勤手当・出張旅費等」(以下、「出張費特例」とします)の適用を受けられるのではないか、と考えることができます。

そうであるならば、チャージ時の領収証提出を受けて、そのチャージ金額を課税取引の経費として処理をすることも可能になりそうです。

ただし、この解釈を通すには、上記の前提条件、より詳しく書くならば、「チャージした(された)金額が、交通費の支払にのみ用いられたことが証拠によって担保されていること」が非常に重要になってくるでしょう。

 

例えばコンビニでのちょっとした買い物とか、飲食店での食事代の支払に、交通系ICカードを使っている場合は、この理屈は通らなくなります。

公共交通機関ではありませんから、タクシー代の支払に使うのも、避けておいた方がいいかもしれません。

 

電車・バス等の料金にのみ使っていることの証明は、駅の券売機(モバイスSuica 等の場合はそのアカウントページ)で発行できる利用履歴を添付することで可能になるのではないかと思われます。

 

ただ、これはその時点でチャージをした金額の使い道を示すものではなく、チャージをしたとき以前の一定期間に使ってきた金額の内訳を示したものであるということには、注意しなければなりません。

交通費として自らが支払った金額分をチャージして補填したから、その分を経費として精算する、という形を取ることになるわけです。

だから、例えば新入社員の営業担当が、まだどの顧客も訪問していないのにチャージ代を清算しようとする場合には、この理屈は通りません。

 

このように、ここで書いた方法を使ったとしても、チャージ時の経費処理につういては、決して手放しでOKと言うことはできません。

 

可能であれば、交通系ICカードのチャージ代を経費して処理するのは止めにして、社員の方々には、実際の支払日と支払額や支払先等を記載した交通費精算書を作成してもらい、それを以て実費で精算をする、という手段を採るのが、ベストであろうと思います。

 

 

なお、この話は何も交通系ICカードに限ったものではありません

他に、例えば Google 等のリスティング広告において発生する、クリック広告費の前払とか、セブンイレブンでの nanacoカード へのチャージとか、いわゆるプリペイド取引については、一般的に該当する話です。

ここでは普遍性の高さに着目して、敢えて交通系ICカードに絞って採り上げましたが、それ以外のものについても、こういう時はどうなるのか、この取引だとどう考えられるのか、という疑問が生じましたら、お近くの税務署、税理士等にお問い合わせください。