三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

消費税納税義務等の基礎知識

インボイス制度開始から2ヶ月半が経過しました。

仕事の受注、営業関係の都合で、課税売上規模的には免税事業者であるものの、敢えてインボイス番号(登録番号)を取得して課税事業者になった、という方もいらっしゃいます。

インボイス制度開始が迫った頃から次第に、そういった皆さんから消費税の基本的について質問を受けることが増えてきました。

そこで、過去にも何回か書いたことではあるのですが、2024年になる前、年内中にもう一度、改めて、そういった消費税納税義務者になりたて又はもうじき納税義務者になる予定の皆様に質問されることの多い項目を、簡単に説明いたします。

 

<1> 消費税の免税点制度

冒頭から自明の理のように書いていますが、消費税には免税点、免税事業者というものが制度上、設定されています。

 

そもそも消費税とは、日本国内で行われる物品やサービスの消費に対して税を課すものです。

しかし、一般の消費者……例えばコンビニ等で5冊セットのノートを購入した個人に、それをそれぞれ何日に使用開始した(消費した)のか記録し、他の消費した物品等と一緒に消費物品等の合計額を計算して、そこに税率をかけ、申告し、納付までを行うことを求めるのは、さすがに無茶というものですよね。

そこで消費税法は、最終的に消費を行う一般消費者の1つ手前、その物品等を販売した事業者が、販売の時点で消費者から税金を預かって代わりに国に治めるという、間接税の形を採用しています。

この点について、財務省は消費税が「預り金」ではないとしている、という指摘があり確かにこれについては裁判例もあるのですが、そこには一応、そう主張するに至った事情があります。が、そこについて説明を始めると話がかなり長くなりますので、それはいずれ、どこかでさせていただくことにして、今回は割愛します。

 

さて、そうして平成元年4月1日から、事業者側に消費税の計算と申告、納税の義務が課せられることになったわけですが、事業者にしても、税金が増えるだけでなく、会計的にも、それまでは一切やっていなかった作業が追加されるわけです。

その事務負担は無視できないということで、これを軽減すべく、消費税法には、規模の小さい事業者に対しては、そもそも税額を本来のものよりも圧倒的に簡便な計算で算出していいという「簡易課税」制度が存在します。

そして、さらに規模の小さな事業者には、そもそも消費税の納税義務が免除された「免税事業者」になるという、「免税点」制度も、同時に設けられました。

 

では、消費税が免除される小規模事業者に該当するのか否かは、どのように判定されるのでしょうか。

 

これは、その事業者が「消費税の課税対象になる売上=課税売上高」をどれくらい有しているのかで決定されます。この基準になる課税売上高を「免税点」といい、現行法では、1,000万円以下であれば消費財の納税義務は免除されることになっています。

実際に判定に使われるのは、「基準期間の課税売上高」です。

 

<2> 基準期間とは

ここで、3月決算法人で、現在第10期目が開始したばかりの、A社という事業者があるとします。

この第10期に消費税の納税義務があるかどうかは、前述のように、課税売上高が 1,000万円を超えるかどうかで判定されます。

しかし、その事業年度の最終的な課税売上高がいくらになるのかは、事業年度が終わってみなければ分からないですよね。

そこで、なるべく直近の事業年度の課税売上高で代用しよう、という考え方が、ここで出てくることになります。

 

では、前期、第9期はどうでしょうか。

第10期が消費税の課税事業者か免税事業者かで、会計入力は大きく異なります(仮受・仮払消費税等を認識するかどうか、インボイス制度の登録番号を有する仕入先か否か、等)。

それは、事業年度開始の4月1日の時点から始まることですが、しかし、一般的に、その段階ではまだ消費税の計算は確定しているとは言えません。

例えば、納品先の検収を待っているとか、電力販売業を営んでいてメーター等を確認しないと売上が確定しないとか、そのようなケースであれば、課税売上高が確定するのは早くても4月の末から5月の頭になってからになることでしょう。

そこまでではないとしても、さすがに翌期の初日段階では課税売上高は確定しないという事業者がほとんでしょうから、つまり、期首時点の消費税に係る処理を明確にしよう(課税事業者に該当するか否かを判断しよう)としても、直前期の事業年度を「基準期間」とするは、限りなく不可能ということになります。

 

そこで次善の策として採用されているのが、第10期の開始時点で、その事業年度の課税売上高が完全に確定している一番直近の課税期間である前々期、つまりA社の第8期の数字です。

要は2つ前の事業年度の課税売上高を判定基準とするのであり、これを消費税法では「基準期間の課税売上高」と言います。

以前に掲載したものの再掲ではありますが、これを図にしたものを下に貼りますので、ご覧ください。

 

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<3> 納付税額の計算時期

基準期間の話をした際に、誤解される方が多いのが、例えば基準期間の課税売上高が1億円であった場合、今期はその1億円の売上があった前々期に対応する消費税額を納めなければいけないのだろうか、ということです。

実際は、基準期間(第8期)の課税売上高は、あくまで当期(第10期)が課税事業者なのか免税事業者なのかという判定の為にのみ用いる数字であって、当期(第10期)に消費税をいくら納めなければならないのかという、納税額の計算には一切関わってきません

第10期に納める消費税は、あくまで第10期の課税売上と課税仕入から算出されるのです。

 

極論、A社の第8期の課税売上高が1億円であっても、第10期の課税売上高が 0円 であれば、その事業年度には消費税の納税額は発生しません(むしろ、簡易課税を選択している場合を除けば、逆に、消費税の「仕入税額控除」分だけ、還付税額が発生するでしょう)。

ここを勘違いされている人が意外と多いので、ご注意ください。

 

 

以上、新たに消費税の課税事業者となられた事業者様に向けた、消費税関係の基礎知識の簡単な解説でした。

より詳しい話、あるいは「自社の場合はどうなるのか」というような個別案件の話については、顧問税理士がいらっしゃればその方に、なければ、税務署もしくは税理士等、専門家にご相談・ご質問をしていただくことをお勧めいたします。