三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度下の会計ソフト入力

今から1ヶ月もすれば、いよいよ消費税等のインボイス制度が開始されます。

これまでこのブログでは、インボイスに関わる取扱いの特例や、具体的項目などを書かせていただいてきましたが、今回はそれについては一旦停止して、会計ソフトに仕訳入力を行う際のことをご説明いたします。

 

といっても、全ての会計ソフトについて書いていくのは無理なので、ここでは、当事務所が推奨しているもの、株式会社TKCの財務ソフト(FXシリーズ、DAICシリーズなど)と、ソリマチ株式会社のソフト(会計王)を、主に前者に重きを置いて、説明していきます。

他社のソフトについても基本的な部分は変わらないのではという想像はできますが、実際にそれ等を操作するなどして確認したわけではないので、10月以降に入力を行う皆様におかれましては、そのソフトの販売元やご契約されている会計事務所に、実際の操作についてはご確認いただきたいと思います。

 

<1> 課税区分の追加

どのような会計ソフトであっても、仕訳入力をする際には、その取引が消費税の課税対象になるのか否かという原則的判断をはじめ、その取引が消費税的にどのような課税区分に属するのかを判断して入力する欄があるかと思います。

そうしなければ、その事業年度の消費税額の正確な計算を行うことができません。

その選択肢の中、または別欄に、この10月以降は新たな区分が増えることになります(実際には現段階で既に入力・選択が可能となっていることでしょう)。

それが、登録番号(インボイス番号)を持たない者からの仕入に対応する区分です。

 

1)㈱TKCの財務ソフトの場合

下の画像は㈱TKCの財務ソフト「FX2」の、仕訳入力時の消費税課税区分選択画面なのですが、このソフトをこれまで使ってきた方は、今年6月のバージョンアップで「52」と「53」という2つの選択肢が増えたことに気付かれたかもしれません。

ここに、登録番号を持たない、インボイス(適格請求書等)の発行を受けていない仕入関係の仕訳が入ることになります。

「52」は消費税の課税対象となる仕入のうちインボイスの交付を伴わないものを行った時、「53」はそれに対して返品・値引きなどがあって対価の返還を受けた時に、それぞれ選択することになります。

 

なお、「52:免税事業者等からの課税仕入れ(課税売上げ)」という項目名ですが、「免税事業者」からの「課税仕入れ」という一見矛盾しているフレーズが目を惹きますので、ここが気になって仕方がないという方もいらっしゃるかもしれません。

これは、相手が免税事業者であっても、消費税の課税対象となる4つの要件(①国内で ②事業者が事業として ③対価を得て行う ④資産の譲渡及び役務の提供)を満たす課税取引を行うことは当然にありますので(取引そのものは消費税の課税対象ですが、その事業者が特例の適用を受けて免税事業者になっているのでその取引からは消費税が発生しない、というのが、消費税法上の位置づけになります)、それを受けてこういう記述になっているのでしょう。

また、「等」が付いているのは、必ずしも相手は免税事業者であるとは限らないということを示しているのですが、これは、消費税の課税事業者であってもインボイスの登録番号を取得していないという事業者も理論上はあり得ること等を反映しているのだと思われます。

 

 

登録番号の無い者からの仕入は消費税の仕入税額控除の対象としない、というのがインボイス制度の内容ですから、ならばそういった仕入は課税対象外の「0:不課税取引(税外取引)」を選べばいいのではないか?という声もあるでしょう。

確かに、制度の概要からいえば、それで問題は無さそうです。

しかし実際には適格請求書等以外の仕入仕入税額控除からの除外には、令和8年10月までは免税事業者等からの仕入であっても80%相当額の、令和11年10月までは50%相当額の仕入税額控除を認めるという、経過措置があります

(この経過措置に関する日本税理士連合HPの表はこちらから)

 

したがって、この経過措置分の仕入を集計する為にも、消費税の課税対象となる4要件を満たさないことから初めから課税対象外となっている取引と、4要件は満たしているものの取引相手が登録番号を持っていないので課税仕入であるとは扱えない取引とでは、明確に処理を分けておく必要が生じるのです。

 

2)ソリマチ㈱の会計王(22以降)の場合

ソリマチ㈱のソフトで、インボイスに対応しているバージョンの「会計王22」だと、ここの選択画面は次のようになります。

 

画像はクリックで拡大されますが、それでも見にくいかもしれないので、選択のプルダウンメニューのところを抜粋してみましょう。

 

80%控除になるのか50%控除になるのか、仕訳の起票日などから自動判定はしてくれなくて、自分で判断して選択しなければならないという点が、㈱TKCのソフトに劣りますが、ともあれ、ここに経過処置の対象or対象外を入力することで、その課税期間の消費税が適切に計算されることになります。

 

<2> 特例の場合の入力

以前、以下の2回のエントリーで説明したように、インボイス制度化においては、適格請求書等の受取が無くとも課税仕入として仕入税額控除の対象とすることが、特例的に認められている取引があります。

 

 

ここで、仕入に関わるインボイスの交付を不要とする特例について、改めて簡単に列記してみましょう。

  1.  3万円未満の公共交通機関(鉄道、バス、船舶)の運賃
  2.  3万円未満の自動販売機での購入
  3.  郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
  4.  従業員等に支給する、通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当
  5.  簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)を満たす入場券等が、その使用の際に回収される取引
  6.  古物営業、質屋、宅地建物取引を営む事業者が適格請求書発行事業者ではない者から、古物、質物または建物を、当該事業者の棚卸資産として取得する取引
  7.  適格請求書発行事業者でない者から、再生資源または再生部品を棚卸資産として購入する取引

更に、これに加えて、もう1つ。

 

  •  基準期間の課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5千万画に家の事業者が行う、税込1万円未満の課税仕入れ(令和11年9月30日までに発生する取引に限る)

 

上記に該当する取引については、インボイスの受取がない、登録番号を持たない者からの仕入であっても、インボイスを受け取ったものとして扱っていいことになっています。

つまり、通常の「課税仕入れ」とみなして構わないとされているのです。

 

では、この場合、<1>で紹介した、財務会計ソフトにおける課税区分の選択は、どのようなものになるでしょうか。

 

結論から書きます。

このような場合は、TKCのソフトであれば課税区分「5」を、ソリマチ㈱のソフトであれば経過措置選択を「適用なし」で入力してください

 

これは、取引先(仕入先、購入先)が、インボイスの登録番号を持っているか否かを問いません

というのも、仕入税額控除の対象外となる(ただし、6年間は経過措置として一定割合の仕入税額控除参入は可能)のは、登録番号その他が記載されたインボイス(適格請求書等)を発行していない相手との取引であって、その判断の為には発行を受けた請求書、領収証、納品書などが(法の規定を満たす)インボイスに該当するか否かを確認する必要があるからです。

最初からインボイスの交付を受けなくてもいいというのは、すなわち、この確認作業もしなくていいということを意味します。

ですから、そういった取引については、会計ソフト等への入力時の課税区分は、消費税法の原則に立ち戻って、消費税課税の4要件を満たすかどうかのみで、課税取引か否かを判定することになります。

そこに、登録番号の有無は関わってきません。

 

 

以上が、インボイス制度下で財務・会計ソフトへ入力を行う際に、課税区分欄で注意すべきことになります。

今回は㈱TKCとソリマチ㈱の製品についてのみ書いていますが、基本的に、他社のソフトについてもこれと同様の対応をすることになるはずです。

 

インボイス制度が開始以降、実際に仕訳を入力する際に、おそらく、当面一番間違いが発生するのはここになるのではないか、と考えられます。

結構手間な話ではありますが、経理担当、入力担当の皆様は、今回ご説明した点に十分ご注意いただいて、日々の入力をしていただければと思っております。