今年10月の消費税インボイス制度導入まで残り日数が数ヶ月となったこの段階で、制度の開始時に注意すべき事柄などを説明する記事、今回は、当事務所の関与先様にも関連することの多い事項についての、各論の第2回になります。
様々な人とインボイス制度について話をしていて、意外と理解が為されていないのだなと気が付いた項目の1つとして、例えインボイス番号を取得している事業者からの仕入に関わる請求書だとしても、それが法の規定する「適格請求書等」の要件を満たしていないものであった場合には、「仕入税額控除」の対象にはならない、ということがあります。
では、インボイス制度が請求書等の記載事項として求めているのは、どういった項目なのでしょうか。
今回は、ちょっと基礎に戻って、そこから確認したいと思います。
<1> 適格請求書の記載事項と適格簡易請求書等
これは、国税庁の発表しているQ&A等にもわかりやすく箇条書きされています。
ここでは、それをそのまま引用してみましょう。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
- 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
ポイントとなる点はいくつかありますが、今回は適格請求書等の書式について述べることが目的ではないので、そこは割愛させていただきます。
過去にこのブログでその点について書いた回もありますし、上記リンク先のQ&Aにも具体例を示した回答が掲載されています。
また、顧問契約を結んでいる税理士がいらっしゃる事業者様は、その先生に確認していただければと思います。
原則的には、この6つの項目の記載が無ければ、その仕入等は消費税の計算上、「仕入税額控除」の対象としては使えません。
インボイス制度の趣旨とされていることを考えれば、それはそうなるのだろうな、と呑み込める理屈では、あります。
しかし、一方で、例えば小売店舗での物品購入等の際に、逐一、上記の事項が完備された完璧なインボイスを求めていると会計に時間がかかり過ぎるのではないかという疑問も生じますよね。
そこに対する制度の対応が、適格簡易請求書等、いわゆる「簡易インボイス」の制度です。
これは、上記の記載項目の一部を、省略または簡便化したものになるのですが、一番大きいのは、6番目の要件である「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」、つまり領収書等の宛名を記載しなくていいことでしょう。
これで、レジ等で自動出力したレシート類(その他の事項は記載されている必要があります)をそのまま、インボイス制度に適合した請求書等として扱うことができるようになります。
対象となる事業者は、次の通りです。
① 小売業
② 飲食店業
③ 写真業
④ 旅行業
⑤ タクシー業
⑥ 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)
⑦ その他これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの
「不特定かつ多数の者が相手の場合に限る」という要件が付されているのは、⑥と⑦になり、①~⑤ にはそのような限定はされていないことに注意してください。
たとえば、コンビニや駅の売店などは、①に該当しますね。
<2> パーキング・メーターと簡易インボイス
駐車場業の内「不特定かつ多数の者に対するもの」というのは、例えば、きちんとした賃貸借契約を結んでいる月極駐車場等は、その契約の当事者が双方ともに特定されているので、これに該当しないことになります。
つまり、対象となるのは時間貸し駐車場(コインパーキング)や、商業施設や空港等に併設されている有料駐車場だと思っていただいていいと思います。
なお、タイムズ駐車場(タイムズ21㈱) や 三井のリパーク(三井不動産リアルティ㈱)等のコインパーキングは、実際に駐車場用の土地が存在し、それを時間貸ししている形になりますので、明確に「駐車場業」と言えるのですが、道端に存在しているパーキング・メーターは、実は厳密に言えば土地の時間貸しには該当しません。
これは、私もインボイス制度の適用関係を調べていて初めて知って驚いたのですが、パーキング・メーターに投入する料金は、正式には「駐車場代」では無いのです。
そのことは、例えば警視庁のこのQ&Aにも明記されています。
www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp
パーキング・メーターに投入する料金は駐車場代ではなく、「パーキング・メーター等の維持管理に必要な費用を、利用される方から『手数料』として納めていただくもの」。
そう言われていれば、確かにパーキング・メーターは公道上に設置されていて、私たち利用者は公道の一角に一定時間、車両を置いてはいるものの、それは別に公道を賃借しているわけでは無いわけです。
では、土地の賃貸借に該当しないのであれば、「駐車場業」ではないことになって、簡易インボイスの対象にはならず、つまり、インボイスに求められる6つの記載事項を全て網羅した正式な適格請求書等の交付を受けなければ、「仕入税額控除」の対象とすることはできないのでしょうか。
一方で、パーキング・メーターの代金は、4月30日の記事に書いた、小規模事業者に対する1万円未満の仕入に関するインボイスの緩和の対象にはなるでしょうから、「基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者、あるいは特定期間の課税売上高が5千万以下の事業者」であれば、どのような領収証の発行を受けたにせよ、そもそもパーキング・メーター代を「仕入税額控除」に含めるのに、何にも問題はありません。
では、この規定の適用を受けられない、一定規模以上の事業やの場合はどうなるのか。
なお、インボイス制度では、自動販売機等からの商品等の購入で3万円未満のものについても、インボイスの受取がなくても「仕入税額控除」の対象にすることが、制度上、認められていますが、パーキング・メーターは、代金の受領は精算機で行われますが、サービスの提供や物品の譲渡がその機械で行われるのではないので、この「自販機特例」の対象にはならないとされています。
つまり、こちらの特例も使うことはできません。
結論から言えば、ここについては、取引の実態はともあれ、インボイス制度上は「駐車場業」として取り扱っていいことになっています。
おそらく、上記の簡易インボイス対象となる事業者の例示のうち、「⑥ その他これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの」に該当するという判断になるのだと思われます。
以上、パーキング・メーターの話は少しマニアックな論点でしたが、今回は、簡易インボイス制度について、概要をご説明しました。