いよいよインボイス制度の実施まで半年を切った現在。
この制度については未だに様々な議論が紛糾している中、それでも10月には待ったなしで法が施行されます。
制度の可否、ご自身の意見や主張は横に置いて、インボイス制度が実際に始まる日付が動かない以上は、その日が来た時点で、私たちはそれに対応をしていかなければなりません。
そこで、まずは目先の課題として、インボイス制度が実施された時に私達が実務・会計入力等においてどのようなことに注意しなければならないか、ということを確認しておく必要があると考えます。
今回は前回に続いて、ひとまず押さえておくべき事項を、箇条書き的に簡単に説明していきます。
<1> 公共交通機関による旅客の運送のうち少額のもの
Suica や Pasmo 等の交通系ICカードを利用して電車やバスに乗る。
駅の券売機を使って現金等で電車の切符を買う。
バスを利用して運転席横の運賃箱に現金を投入して料金を支払う。
これ等の経費支出があった際に、それぞれその都度に領収証をもらうというのは、現実的な話とは言えません。
Suica の利用履歴や切符購入時の領収証は券売機で取得することができたりしますけれども、路線バスで領収証というのは、さすがに無理があるでしょう
単純に考えて、いちいち運転手に適格請求書(インボイス)に該当するような領収証等の発行を要求していたら、バスの運行に看過できない遅延をもたらしてしまうでしょう。
そもそも、バスの運転手から領収証はもらうことができるのか。
これは、バスの運行会社によって異なるようなのですけれども、会社によっては運転手もしくは営業所で発行を受けることは、不可能ではないようです。
とはいえ、運転手の手元に領収証の用紙があったとしても、通常運行の途中で求めるのはNGで、せいぜいが始発の発車前か、終点に着いて乗客の降車が終わった段階でお願いするかのどちらかができるかどうか、というところでしょう。
つまり、実質的には無理ということですね。
そこでインボイス制度化においては、「金額が3万円未満である旅客の運送」や「適格請求書の記載事項(取引年月日以外)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引」については、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。
つまり、インボイスの発行が無くても課税仕入れとして扱っていいとされているわけです。
電車代等が3万円以上となる場合には、この特例の適用はありませんけれども、そういう場合は領収証の発行を普通に受けているだろうと思われますので、特に問題にはならないでしょう。
<2> 従業員等に支給する通勤手当・出張旅費等
従業員等が出勤する際にかかる通勤手当について、実際に定期券を買った領収証の提出を求めて、それを確認して都度の支払をしている事業者もいらっしゃるでしょうが、通勤経路と定期代の申告を受け、毎月その金額を給与に加算して支給しているという事業者の方が多いでしょう。
後者の場合にも、毎回定期券購入の領収証を求めることになるのでしょうか。
また、アルバイトの場合には、定期代ではなく、自宅と職場の往復にかかる通常の電車代を、出勤日数分支払っているケースがほとんどでしょうが、その場合も、毎日切符等の領収証を提出させるのでしょうか。
通勤ではなく、出張の場合はどうでしょう。
旅費・宿泊費について、実費精算でも申請書の提出だけで済ませているケース、社内規定で日当を決めて宿泊日数等に応じて支給しているケースがあるでしょうが、特に後者ではインボイスに該当する領収証等は用意のしようもありません。
ではこの場合は、仕入税額控除を一切行えないことになるのでしょうか。
さすがにこれ等について課税仕入と認めないのは無理があるので、その支給額・精算額が通常必要と認められる範囲内の金額である限り、従業員等に対する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)については、インボイスに該当する請求書・領収証等の発行が伴っていなくても、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないとされました。
<3> 自販機等からの商品等購入のうち少額のもの
駅での券売機からの切符購入と似たものとして、例えば、街中の自動販売機で飲み物を買うようなケースも考えられます。
例えば、ペットボトルのお茶を買うごとに自販機からインボイスの発行を受ける。
そこに技術的な問題は無く、現在設置されている自販機を、それに対応したものに入れ替えればそれで済む話かもしれませんけれども、それはあくまでも「技術的」にはという話。
そこにかかるコストを考えれば、実際にはあり得ない選択肢です。
では、今後、自販機等でものを買った場合には仕入れ税額控除の対象外として扱わなければならないのでしょうか。
さすがに、そんなことはありません。
実際には、自動販売機や自動サービス機から購入する3万円未満の商品等については、公共交通機関への支払同様、こちらも、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。
<4> 郵便切手を対価とする郵便・貨物サービス
郵便局で切手等を購入した際に、レシートに消費税が「非課税」と記載されていることに気が付いている人もいらっしゃると思います。
勘違いをしてしまいそうになりますが、これは、郵便サービスの利用に消費税がかかっていないということではありません。
詳細な説明はここでは省略しますが、切手はあくまで「郵便サービスを受けるための証票」に過ぎず、郵便に関わる役務の提供が行われ消費税が発生するのは、実際にその切手等を貼付した郵便物をポストに投函した時とされています。
つまり、切手に関して消費税が発生するのは、その切手を購入した時ではなく、切手を使用して郵便を出した時というわけです。
インボイス制度化においても、この取り扱いは変わらないのですが、では、日本全国に存在するポストを全て入れ替えて、郵便物を投函した際に、ポストがその郵送料を自動判定してインボイスに該当する領収証等を受取口からプリントアウトしてくれるというような機能を実装させたりするでしょうか。
予算がどれくらいかかるかわかりませんし、メンテナンスの必要性等も考えれば、そんなわけはありませんよね。
そこで、郵便ポストに差し出されたものに限るという要件付きで、「適格請求書等の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス」については、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないこととされました。
実務的には、購入時にまとめて課税仕入として処理してしまうことが多いでしょう。
<5> 古物等の仕入
これは、該当する事業を営んでいる事業者のみが対象になるのですが……
- 古物営業を営む者が行う、適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
- 質屋を営む者が行う、適格請求書等発行事業者でない者からの質物の取得
- 宅地建物取引業を営む者が行う、適格請求書等発行事業者ではない者からの建物の購入
に該当する取引について、その購入・取得した古物、質物、建物がその事業者の棚卸資産に該当する場合(販売・賃貸等の目的で購入・取得している場合)は、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。
これ等の事業者に対し、インボイス番号を取得していない一般の人たちから買った商品に関する仕入税額控除を認めないとしてしまうと、消費税の納税額が著しく多額になってしまい、経営状況を悪化させ、倒産を招きかねないという判断が、この取扱いの背景にあるようです。
以上、5つの取扱いについて簡単な説明を行いました。
次回は、実際の会計処理上で気を付けるべき事項について書ければと思っています。