三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

輸入消費税とインボイス制度

今月より、消費税のインボイス制度が始まりました。

受け取った領収証が制度に即した「適格請求書等」になっているかどうかの確認、そして実際の会計データ入力作業など、各事業者の業務がどのように変わるのか、変わったのか、それを皆さんが実感するのはこれからかもしれません。

これは、軽減税率導入(複数税率の併存)と並ぶ消費税の一大改正であり、各方面が様々にその影響を受けています。

実際は、軽減税率導入とインボイス制度導入はセット、法整備上は2つで1つのようなものであり、2つの大改正というより、段階を踏んで連続して行われた1つの改正というべきかもしれませんけれど(これは、2つの制度が不可分だと言いたいわけではありません)。

なお、その辺りの事情は長くなるのでここでは割愛させていただきます。

 

今回は、顧問先様にインボイス制度について説明していた際に、取扱いがどうなるのか懸念もあるとしばしば例に出していた、輸入消費税関係のことについて、現時点で言えることを書いていきます。

ただ、あくまで今回は基礎的な部分のご理解をしていただきたいという目的から大枠の説明に留め、個別の事例や論点についてはいずれ別の機会に改めて書かせていただくことにしますので、その点はご了承ください。

 

<1> 自社が輸入をしている場合

これは、難しくないと思います。

乙仲さんを使って輸入手続きを行ってもらっているにしろ、自ら輸入手続きを行っているにしろ、税関にて通関処理をし、関税や消費税を納付しているのはその事業者自身なわけです。

 

実際には色々と計算があってそんなにシンプルにはなりませんが、ここでは説明のために簡単な数字を用いるとして、例えば、10,000円の品物を輸入する際に、税関で1,000円の消費税を納付したとします。

その品物を購入した相手は海外の会社であり、日本の消費税の納税義務者にはなっていませんから、当然、インボイス番号(登録番号)は取得していません。

ということは、この仕入に関わる請求書等は、「適格請求書等」の要件を満たさないことになるわけですが、では、ここで税関に対して支払った消費税額 1,000円 は、「仕入税額控除」の対象として使えないのでしょうか。

 

もちろん、そんなことはありません。

 

消費税法第30条は、「仕入税額控除」の対象となるものについて規定している条文ですが、その第1項第3号は、国内事業者からの物品・サービス購入とは別個に、輸入取引に関する取扱いを定めています。

条文を抜粋して引用してみましょう。

 

仕入れに係る消費税額の控除>

 事業者(略)が、国内において行う課税仕入れ(略)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の(中略)課税標準額に対する消費税額(略)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(略)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(略)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(略)につき課された又は課されるべき消費税額(略)の合計額を控除する。

 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
 国内において特定課税仕入れを行つた場合 当該特定課税仕入れを行つた日
 保税地域から引き取る課税貨物につき第四十七条第一項の規定による申告書(略)又は同条第二項の規定による申告書を提出した場合 当該申告に係る課税貨物(略)を引き取つた日
消費税法第30条第1項)

 

ここから何が分かるのかというと、インボイス制度の対象になるのは国内仕入、つまり上記条文の第1号の部分であり、輸入取引は第3号ですから、インボイス制度とは関係が無い、対象外の取引ということが確認できます。

つまり、「適格請求書等」が無くても「仕入れ税額控除」の対象として構わないのです。

ただし、何の証明もなし、というわけにはさすがに行きません。

しっかりと通関手続きを行い、税関で消費税を納付しているからこそ、「仕入税額控除」でその税額を差し引くことができるわけですから、それを証明することができる書類、具体的には、「輸入許可通知書」の保存が必要となります。

 
必ず、保存しておくよう、お願いいたします。
 

<2> 取引先が輸入した場合

問題は、物品等の購入をした相手、取引先(仮にA社とします)が自分でその物品等を日本国内に持ち込んでいるケースです。

この場合は通関費用は先方が負担しているでしょうから、購入した側であるこちらの手元には、「輸入許可通知書」は存在しません。

また、輸入手続き関連費用はA社が負担し、当方の購入価格にその分が上乗せされているとしても、それはあくまでA社へ支払う商品代金であって、こちらが税関に納付したわけではありませんから、消費税法第30条第1項の第3項には該当しません。

 

また、A社の日本子会社等が存在してそこから購入している場合、あるいは、A社の代理店をしている日本企業があってそこから購入している場合は、単純に、日本企業から国内仕入を行った形になりますから、その取引はインボイス制度の対象になります。

 

そうではなく、A社から直接購入している場合に、消費税の処理はどういうことになるか。

これは、その相手先が日本国内に支店や営業所などの常設の拠点(恒久的施設:Permanet Establishment あるいは略称として PE とも言います)を有しているかどうかで変わることになります。

 

1)PEを有している場合

この場合、A社は日本国内で拠点を構えて日常的に営業活動等の事業を行っていることから、通常の国内取引として取り扱われることになります。

子会社等や代理店といった国内法人の場合と異なるのは、海外法人であるA社が直接、国内に拠点を持っているという点ですが、インボイス制度上の扱いは同様です。

 

つまり、この場合にA社からの物品購入に関わる消費税を「仕入税額控除」の対象とするには、次の2点が求められます。

 

  1.  A社が「適格請求書等発行事業者」として国税庁への登録を済ませていること(インボイス番号:登録番号を有していること)
  2.  A社から受け取る請求書・領収証等が「適格請求書等」の要件を満たしていること

 

2)PEを有していない場合

おそらく、面倒なのはこちらです。

A社が国際展示会等に参加する、あるいはA社の担当社員が商品を持参して直接当社に商談に来る、というようなケースが考えられそうです。

この場合は、その商品を持ち込んできたA社の社員が入国時に通関処理を行って、税関に消費税を納付していることが想定されます。

 

問題は、A社が日本の「適格請求書等発行事業者」となっているかどうかです。

もしなっているのであれば、1)と話は同じなので、請求書等が「適格請求書等」の様式を満たしていれば、問題なく「仕入税額控除」の対象にできます。

日本に商品を輸出して販売をしようという事業者が、日本国内での課税売上1,000万円以下等の免税事業者であるケースはあまり無さそうにも思えますが、例えば市場開拓の為のリサーチ等で国際展示会に出品をしているようなケース等では、「適格請求書等発行事業者」ではない、免税事業者に該当することも普通にあるでしょう。

そのような事業者から国内で商品を購入した場合は、こちらがその品物を保税地域から引き取った(輸入した)わけではないので、消費税法第30条第1条第3項の対象にはなりません。

私の確認漏れ、調べが足りなかった等で、実際にはこういう場合でも何らかの特例があったら申し訳ありませんが、条文・規定を見ていった限りでは、この場合は、「仕入税額控除」の対象外となる(ただし、しばらくは経過措置の適用あり)というというのが、正解なようです。

 

その品物の輸入時、通関時に確かに税関に消費税が納税されているのであれば、それを「仕入税額控除」の対象にできないというのは、さすがに理不尽ではないかと思われるかもしれません。

ただ、これも、A社は展示会等では、輸入時に税関で申告した価格(原価)に利益を上乗せして販売をしているだろうとすれば、それは、免税事業者が販売している(メーカーなどから消費税を支払って仕入れた)商品を購入した場合に、消費税の「仕入税額控除」の対象にできないという、インボイス制度の基本ルールと構造的には同じことだと考えれば、何となく納得していただけるのではないでしょうか。