三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度下の会計ソフト入力 その2

消費税のインボイス制度が始まるまで、あと半月ほどです。

 

前回、8月27日に公開したエントリーでは、当事務所が推奨している2つの会計ソフト、TKCの財務ソフト(FXシリーズ、DAICシリーズなど)と、ソリマチ㈱のソフト(会計王)について、主に前者に重きを置いて、会計データ(仕訳)を入力する際の基本的事項を説明させていただきました。

今回は、その補足というか、おそらく実際に入力を開始した皆様が気にされるであろうことのうち、特に、これは戸惑うかもしれないと思われることを書かせていただきます(今回は、㈱TKCの財務ソフト、FX2 のみを例に使ってご説明いたします)。

 

いざ10月になってから、これはこれで大丈夫なのか、と不安に駆られたりしないよう、今回のこのエントリーをお読みいただいて、「インボイス制度下での入力はそういうことになるんだな」と、事前にご理解いただければと思います。

 

<1> 請求書と入力値との消費税額のズレ

前回にお知らせしたように、インボイス制度が始まると、登録番号(インボイス番号)を持たない者からの仕入は、例えその請求書に消費税額が記載されていようとも、消費税の課税対象外の取引として取り扱います。

例えば、10,000円の物品に対し1,000円の消費税を加算して11,000円という請求書を受け取り、支払った(あるいは支払いに対し領収証を受け取った)というような取引があったとして、その相手方がインボイスの登録番号を有さなかった時は、これを「税込:11,000円」ではなく、「税抜:11,000円」として認識しなければならないのです。

 

つまり、その事業者が納付しなければならない消費税の計算上、その仕入については、税額の控除対象(「仕入税額控除」の対象)として使うことができません。

 

とはいえ、いきなりインボイス番号を有さない相手からの仕入の全てを消費税の「仕入税額控除」の対象として認めないというのでは、諸々の問題が生じることが懸念されるので、経過措置として、3年間は従来は「仕入税額控除」の対象とされていた額の80%を、その後さらに3年間は50%を、「仕入税額控除」の対象として認めることとされています。

この経過措置の入力時の仕訳が、今回の採り上げる論点です。

 

仮に、令和5年10月27日に、当事務所(平林会計事務所)から請求を受けた 11,000円 の顧問料を現金で支払ったとします。

当事務所は登録番号を取得していますので、この場合、FX2の入力画面(1伝票型)は、次のようになります。

 

 

消費税の課税仕入(課税区分「5」)として入力し、以下の仕訳のように、1,000円の仮払消費税等を計上するという、皆さんが見慣れた形ですね。

 

   雑費       10,000  /   現金  11,000

   仮払消費税等  1,000

 

では、当事務所が登録番号を取得しておらず、経過措置の対象となる場合はどうなるのでしょうか。

この場合の課税区分は、前回紹介した、「52:免税事業者等からの課税仕入れ(課税売上げ)」になります。

 

 

同じように仕訳を掲載します。

 

   雑費       10,200  /   現金  11,000

   仮払消費税等     800

 

税込 11,000円(消費税率 10%)の取引なのに、計上される仮払消費税の金額は 800円となっています。

何だか気持ち悪いな、と感じられるかもしれません。

この場合の 800円は、請求書に記載されていた 1,000円 の消費税(本体価格の10%相当額)の80%、つまり、1,000 ✖ 0.8 =800 という式で算出されています。

本来は仮払消費税等は一切計上されないところを、経過措置として認められる割合だけ、計上しているという形ですね。

 

請求書記載の「税額」とは異なりますし、本体価格も、請求書とはズレてしまっており、10%という税率に合っていないと見えるでしょうが、これが、インボイス制度下における正しい仕訳計上であり、会計入力となるのです。

感覚的には座りが悪くて納得し難いでしょうが、「そういうものだ」と呑み込んでいただくしかありません。

 

<2> 売掛金等の入金額から差し引かれたものの処理

4月30日に公開したエントリー、インボイス制度で注意すべきこと その1」へのリンクを貼っておきますので、よろしければここの「<3> 少額な返還インボイスの交付義務免除」をご覧いただきたいのですが……

売掛金等を取引先が振込んでくる時に、振込手数料を差し引いて(こちらの負担として)入金されることがありますよね。

 

 

これを、こちらが支払った経費であるとして課税仕入で処理をする場合には、その取引先から振込料部分の仕入インボイスの発行を受ける必要があります(こちらが小規模事業者の特例対象に該当するのであれば、インボイスの発行を受けずとも通常の課税仕入として処理ができますが……)。

しかし、当方が負担することになった振込料等の全てに仕入インボイスを取り付けるのはかなり面倒ですよね。

そこで、上記、「少額な返還インボイスの交付義務免除」特例を活用する、すなわち、負担することになった振込料部分は、売上等の値引額であるとして、課税区分を「11:課税売上げに対する対価の返還」にして処理すれば、改めて仕入インボイスあるいは売上インボイスを発行する必要は無くなります。

 

使用する勘定科目は、「売上値引」等を使わなくても、課税仕入として処理していた時と同じように、「通信費」や「支払手数料」を用いて構いません。

入力画面は、このような感じになります(当事務所に対して、例えば書架等の備品の売上が発生したところ、代金が振込料相当額である 110円 が差引かれた金額で入金されたと仮定します)。

 

 

仕訳は、こんな感じですね。

 

   通信費       100  /   売掛金  110

   仮受消費税等      10

 

ここで1つ、注意していただかなければならないことがあります。

それは、当事務所に対して売ったのが、軽減税率の適用対象であるもの、例えば事務所打合せ用のペットボトル飲料1ケース等だった場合です。

 

これは理屈で考えていただきたいのですが、軽減税率で売上げたものに対し値引きを行うとしたら、その値引きに関わる消費税率はどうなるでしょうか。

当然、軽減税率が適用されますよね。

つまり、当事務所が支払時に差し引いたのは銀行等に支払った振込料(110円)相当額で、これは通常の税率 10% が適用されていますが、その差引額を売上値引とする場合には、これを軽減税率 8% で処理することになるのです。

 

入力画面で確認してみましょう。

 

 

仕訳は、こうなります。

 

   通信費       102  /   売掛金  110

   仮受消費税等        8

 

明らかに消費税率 10% の取引っぽい 110円という取引額なのに、適用される消費税率は軽減税率の 8% なので違和感を覚えると思いますが、これも、そういうものなのだと割り切ってください。

なお、<1> の事例と違ってこの 「8円」という消費税額は、10円 の 80% 相当額として計算されたものではなく、普通に、税込 110円 を税率 8% で本体価格と借受消費税等とに分解して算出されています。

つまり、次の計算式です。

   110 ✖ 8/108 ≒ 8 円

この点、誤解されないよう、お願いいたします。

 

以上、今回は、インボイス制度が始まる10月以降の実際の会計入力時に、戸惑ってしまう可能性が高い2つの事項についてご説明しました。