JR中央線・総武線快速の三鷹駅にて2022年4月開業予定である税理士事務所、平林会計事務所の税理士、平林です。
今回は、前回のエントリーに引き続いて、建物の購入に係わる支払消費税の取り扱いに関する改正の話をさせていただきます。
課税売上割合が低くなってしまう為に仕入税額の全額控除が適用されず、建物購入の消費税が控除できない。
ならば、購入日の属する事業年度において、消費税の非課税売上が発生していなければ、課税売上が上がって建物購入費に係る消費税が仕入税額控除に仕えるのではないか。
そのような考えから、何らかの課税売上を計上した事業年度に建物を購入し、実際に賃貸するのは翌事業年度にするというスキームが、昔から存在しました。
こうすれば課税売上割合は100%になるので、建物の購入に係わる消費税は控除対象となり還付を受けることが可能になるという仕組みです。
これを封じるべく課税当局側は、「特定の課税資産を購入した翌年以降3年間の通算で計算した課税売上割合が大きく変動している場合には、購入時に控除した仕入税額のうち一定の金額をその事業年度の消費税納付額の計算にあたって加算する」(実際の取り扱いはもっと複雑ですが、とりあえずはこの認識でいいと思います)という調整を行うという改正を実施していました。
それに対し納税者側は、「年間の課税売上割合が著しく減少してしまうということがないように、毎年、上記の調整の要件を満たさないための課税売上を作る」という方法で対応しました。
そこで使われたのが、単価が高く市場が存在し、かつ価値が安定している金の地金の売買です。
金の売却によって一定額の課税売上高を作り出すことによって、課税売上割合が建物を購入した事業年度と比べた時に著しく減少していることが無いようにする。
これが、このスキームの目的です。
この行為に対し課税当局側は今回の改正で、「出口で取り締まれないのであれば入り口で」ということなのか、「住宅の貸付の用に供さないことが明らかではない建物以外の建物であって高額特定資産に該当するものについては、そもそも最初から仕入税額控除の対象にしない」ということを打ち出してきたのです。
税法的な言い回しなので少しややこしくなっていますが、「住宅の貸付の用に供さないことが明らかではない建物」というのは、「居住用として貸し付けることが明確になっていない建物」ことなので、「それ以外の建物」というのは「居住用として貸し付けることが明確になっている建物」を指します。
そのような建物で高額特定資産に該当するようなものを購入した場合には、その購入に係って支払った消費税は、仕入税額控除には使えない、というわけです。
これにより、上記の金地金売買を使ったスキームは完全に封じられたと言えます。
なお、これに該当する建物であっても、購入の日の属する事業年度を含む3年以内に居住以外の用に供すれば、それに対応する部分の消費税については、改めて仕入税額控除に加算できるようです。
この改正には、実際に消費税を支払っているのにその控除を認めないというのは問題だ、という意見もあるかとは思います。
けれども、そもそも消費税は、最終消費者が負担する税を事業者側が預かって納付する構造であり、それを考えれば、居住用の貸付からは消費税を預からないので、こういう扱いになっていくのもあながち取扱いとして間違っているとまでは言えないのかなとも、私は感じています。
あくまで個人的な見解としては、ですけれど。
なお、金地金と消費税ということでいえば、密輸により国内に持ち込んだ金の地金を国内の下取り業者に販売したうえで、それを再度海外に(今度は正式に)輸出することで、国内での売却時に受け取った消費税相当額を詐取する違法取引も以前から問題になっています。
これはこれで、説明を始めると長くなるので、いずれ別の時に機会があればということで今回は触れずにおくことにしますけれども、興味のある方は、ちょっとご自分で調べてみるというのも面白いかもしれません。