これまで5回に分けて、相続・贈与の対象となった「土地」を評価する場合の「財産評価基本通達」の定めを確認してきました。
特に「路線価方式」で評価する「宅地」については、土地の形状や傾斜によって様々な補正を行うこととなっておりますので、第4回と第5回の2回を使い、その内容を簡単にご説明しました。
今回の第6回は、これまで紹介してきたもの以外の、「宅地」の特別な評価方法を解説いたします。
<1> 私道の用に供されている「宅地」
私有地である「私道」は個人の財産として相続税や贈与税の課税対象となりますので、その財産価値を計算しなければなりません。
ただし、公共性の高い、不特定多数の通行の用に供されている「私道」については、その用途から、所有者が自由に利用・処分を行うことができませんので、公道と同様の扱いとなり、その「私道」については評価を行わないこととされています。
この、「不特定多数の通行のように供されている私道」の例として国税庁は、次の3つを挙げています。
(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/06.htm)
① 公道から公道へ通り抜けできる「私道」
② 行き止まりの「私道」であるが、その「私道」を通行して不特定多数の者が地域等の集会所、地域センター及び公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合などにおけるその「私道」
③ 私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられており、不特定多数の者が利用している場合などのその「私道」
① は、いわゆる「通り抜け私道」です。
② は、公共的施設へのアクセスになっている「私道」で、③ は、公共交通機関であるバスの停留所などに使われていて公益性の高い「私道」になります。
これ等に該当しない「私道」については、その「私道」を通常の自用地として評価した金額の30%相当額を、原則的な評価額とします。
一方、「私道」には、希に「路線価図」にて「路線価」が付されていることがあります。
また、評価の対象となる「私道」に「特定路線価」が設定されているケース、あるいは相続・贈与税の計算に際して「特定路線価」の設定を依頼したというようなケースもあります。
なお、「特定路線価」とは、「路線価地域」内で「路線価」の設定されていない道路に面した「宅地」の評価を行う為に、その「宅地」の所在地を管轄する税務署に依頼して、その道路に特別に設定してもらう「路線価」のことを言います。
これはどんな道路でも可能なわけではなく、依頼者や対象となる道路に要件はあるのですが、その要件を満たしていれば、「特定路線価設定申出書」に必要な事項を記入して添付書類と共に提出することで、その道路に「路線価」を設定してもらうことができるという規定になっています。
これ等、「路線価」もしくは「特定路線価」の設定されている「私道」については、上記の原則的な評価方法に代えて、その「路線価」又は「特定路線価」の30%相当額に、その「私道」の地積を乗じた金額を評価額とすることもできます。
「特定路線価」の設定を依頼したら必ず後者の方法で評価しなければいけないというものではありませんが、「特定路線価」の設定申請を行うということは、それを財産評価に使うという意思表示をしたものと判断される可能性も否定はできないようです。
そのことから、「特定路線価」の設定を申し出るか否かは慎重に判断すべきであるとする意見もあります。
可能であれば、税理士などの専門家に相談する方がいい話であると言えるでしょう。
<2> 土地区画整理事業施行中の「宅地」その他
この項では、ここまで紹介してきたもの以外の、「宅地」の自用地評価に関する細かい規定をご説明します。
最初にお断りしておきますが、中にはあまり頻繁に登場しない「宅地」もあって、そういうものまで微に入り細を穿った説明をしていてもあまり意味が無いので、重要性の低さから、さらっと規定内容を説明するだけで終わっているものもあります。
もしここはもっと詳しく知りたいとか、不明な点、よく分からない点があるのでしたら申し訳ありませんが、その点はご了承ください。
1)土地区画整理事業施行中の「宅地」
土地区画整理法に基づく土地区画整理事業の施行地内にある「宅地」について、「仮換地」の指定を受けている場合には、その「宅地」の評価額として「仮換地」の評価額を用いることとされています(その「仮換地」が造成中であって、その完了まで1年超が見込まれる場合は、評価額に100分の95を乗じた金額となります)。
なお「仮換地」とは、土地区画整理が行われる為に立ち退きを余儀なくされる時に、施行者から代わりに提供される土地のことを言います。
ただし、「仮換地」の指定を受けていても、その使用又は収益を開始することができる日が別に定められることとなっていて、まだ使用又は収益を開始することができておらず、かつ、「仮換地」の造成工事が行われていない場合には、従前の「土地」の評価をその「宅地」の評価額とします。
2)造成中の「宅地」
造成中の「宅地」については、次の方法で評価を行います。
① まず、造成を始める前の「地目」によって、その土地の通常の評価を行います。
② そのうえで、評価時期までの間に、その造成に関して投下した(支払ってきた)費用を評価時期の価値に換算した金額(「費用現価」と言います)の80%相当額を、造成前の「地目」に基づいた評価額に加算して、その「宅地」の評価額とします。
3)農業用施設用地として利用されている「宅地」
農業振興地域の整備に関する法律に規定する農用地区域や市街化調整区域内にある「宅地」で、農業用施設の用地として利用されているものについては、次の方法で評価を行います。
① まず、その「宅地」が「純農地」か「中間農地」であると考えて1平方メートル当たりの価額を算出します。
② ①で仮定した「農地」を現況である農業用施設の用地としてではなく「宅地」として利用しようとした場合に通常必要と認められる造成費として(国税局長が定める)整地、土盛り又は土止めに要する費用を、①の価額に加算します。
③ ②の金額に、その「宅地」の地積を乗じたものを、その「宅地」の評価額とします。
ただし、その「宅地」の現況から、その周辺にある(農業施設用地以外の)「宅地」と類似する価額で取引されると認められる場合には、その周辺の「宅地」に比準した価額で評価します。
4)セットバックを必要とする「宅地」
その「宅地」に接している道路が建築基準法第42条に規定される幅員(一般に4メートル)を満たさないなどの場合には、将来その「宅地」に建っている建物を建て替える時に、その一部を道路用地として提供しなければならなくなります(これを「セットバック」と言います)。
この、将来的に提供しなければならないことが確定している部分まで、その他の「宅地」と同様の評価を行ってしまっては、その評価額が「宅地」の価値を適切に反映しているとは言えません。
このような、「セットバック」を要する「宅地」については、通常の自用地として評価した金額から、次の算式で計算した金額を差し引いて、その金額を評価額とします。
5)都市計画道路予定地の区域内にある「宅地」
都市計画道路の予定地となっている区域内にある「宅地」については、まず、その「宅地」が都市計画道路予定地の区域内には無いものと考えて自用地としての価額を算出します。
そのうえで、その算出された価額に、その「宅地」の、「地区区分」、「容積率」、「地積割合(その「宅地」の総地積のうちに、都市計画道路予定区域内にある部分の地積の占める割合)」の3つの要素を、国税庁の公表している補正率表に当てはめて求められる補正率を乗じることで、評価額を求めます。
(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/04.htm#a-24_7)
6)文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている「宅地」
重要文化財などの敷地として利用されている「宅地」については、その所有者が思うとおりに処分等をできるわけではありません。
つまり、自由な利用が制限されているのであり、通常の自用地に比べ、その分だけ評価額を引き下げる必要があります。
したがって、その「宅地」を自用地として評価した価額から、その自用地としての価額に一定の比率(重要文化財の場合は0.7、登録有形文化財又は伝統的建造物の場合は0.3)を乗じた金額を、その「宅地」の評価額とします。
なお、「倍率地域」にある「宅地」で、その文化財建造物について固定資産税が非課税とされている為に固定資産税評価額が存在しない場合は、その「宅地」と状況が類似している付近の「宅地」の固定資産税評価額を基に調整を行った金額を、その「宅地」の固定資産税評価額として計算を行います。
<3> 「借地権」、「貸宅地」、「貸家建付地」の評価
借地借家法は、土地家屋の所有者がその土地家屋を賃貸している場合に、その借主の権利を強く保護する規定内容となっています。
「借地権」という言葉や、「借家権」という言葉を聞いたことがあるという人も多いでしょう。
これ等の権利はその法的な強さから貸主(所有者)の財産権の行使を制限するものであり、相続税法上もその財産価値が認められています。
その為、土地を評価するに当たっては、所有者には自用地としての評価から借主の権利分の減額を、使用者にはその「借地権」の評価を行う必要があります。
1)「借地権」の評価
国税庁は、その土地の所在地ごとに、自用地としての土地の評価額の内、借主の「借地権」に相当する部分がどれくらいになるのかを示す、「借地権割合」を公表しています。
「倍率評価」を行う「倍率地域」では、「評価倍率表」に次のように「借地権割合」という欄があり、そこにパーセンテージが表記されています。
国税庁HP(https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm)より引用
ただ、ご覧になっていただければ分かるように、同欄に数字ではなく「-」が記載されている地域もあります。
これでは「借地権割合」が分からないと思われるでしょうが、ここで、「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」の「宅地」欄に「路線」と記載されているように、そのような地域は「倍率地域」ではなく「路線価地域」に該当しますので、「借地権割合」については「路線価図」の方に記載されているのです。
例えば上の「評価倍率表」における「暁町3丁目」に存する「固定資産税評価額」1,000万円の「宅地」があったとすると、その「借地権」評価額は、次の計算で、660万円であると求められます。
① 10,000,000×1.1=11,000,000円(自用地評価)
② ①×60%=6,600,000円
続いて、「路線価地域」の場合を見てみましょう。
第2回に掲載した「路線価図」の見方を、再掲します。
国税庁HP(https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm)より引用
各道路に付されている3桁の数字+アルファベットのうち、数字部分が「路線価」(単位:千円)であり、アルファベットが「借地権割合」です。
実際の評価に使うのは、「正面路線」に付されたアルファベットですが、この 「A」~「G」 が示すのがそれぞれ何%なのかは、「路線価図」の右上にある表で確認できます。
「路線価方式」を使って計算した自用地としての評価額に、アルファベットに対応する「借地権割合」を乗じることで、その土地の「借地権」の評価額が算出されます。
2)「貸宅地」の評価
「借地権」の計算をご理解いただけたならば、こちらは簡単です。
その土地の所有者が制限される土地に対する権利の評価額が、すなわち「借地権」の評価額ですので、「貸宅地」の評価は、自用地としてのその「宅地」の評価額から、「借地権」の評価額を差し引いた金額になります。
例えば「借地権割合」が70%の場合には、次のような算式で計算します。
自用地としての「宅地」の評価額×(1-0.7)
3)「貸家建付地」の評価
自らの土地に建物を建てて所有していますが、自分では利用しておらず、他人に貸し付けて賃料収入を得ているような場合の、その土地のことを「貸家建付地」と言います。
建物を賃借している人には、先に書いたように「借家権」が生じるのですが、この権利は建物部分だけではなく、その建物の敷地となっている土地にも及ぶものです。
自分が所有している賃借物件を、入居者のことを無視して勝手に処分等することはできない(立退き交渉等が必要になります)ということを考えれば、この理屈は納得していただけるだろうと思います。
では、実際に土地の評価額が減額されるのは、どれくらいの割合なのでしょう。
ここで、建物があることで土地の利用が制限される度合いが「借地権割合」であると仮定してみます。
建物の所有権は土地と同じで自身にありますが、それを他者に賃貸することで、使用者の有する「借家権」の分だけ、建物に対して有する権利は制限されることになるわけです。
このことから、「借家建付地」において、所有者が制限を受けるのは、その土地に関する「借地権」のうち、建物に対して設定される「借家権」に相当する部分だということが言えます。
つまり、「借地権割合」×「借家権割合」であり、「借家建付地」の評価方法を算式にすると、次のようになります。
自用地としての評価額×(1-「借地権割合」×「借家権割合」)
なお、「借家権割合」は「倍率地域」であるか「路線価地域」であるかを問わず、全ての「地区区分」において一律30%(0.3)であるとされています。
4)「使用貸借」による貸付の場合
自己の有する土地建物を他者に貸付ける場合において、賃料を設定せず、無償で使わせる形を採ることがあります。
このような、無償による貸し借りのことを「使用貸借」と言います。
「使用貸借」の場合は、対価を支払っていないことから、民法上の権利はともかくとして、相続税・贈与税上は財産価値が無いものとして「借地権」や「借家権」は評価の対象となりません。
つまり、「使用貸借」により土地又は建物を第三者に貸している土地は、所有者の自用地として評価を行うことになります。
以上、6回に渡って相続税・贈与税における土地の財産評価について、主な項目をご説明してきました。
次回第7回は、土地の評価に付帯する補足的な項目をご説明させていただきます。