個人の所有する財産を子供や孫などに移していこうと考える場合に、相続税や贈与税がどうなるのかが気になっている人は多いことでしょう。
前回の第4回から、「土地」について相続税・贈与税の財産評価を行う際に、一番大変で重要な「宅地」について、「路線価方式」の各種補正項目の説明をしてきました。
第5回となる今回は、「奥行価格補正」、「側方路線影響加算」そして「二方路線影響加算」に続く、「不整形地補正」の説明から、始めさせていただきます。
なお、ここで用いる「財産評価基本通達」に記載されている各種補正率の、実際の数字については、国税庁ホームページに公開されていますので、興味のある方はご覧になってみてください。
<1>「路線価方式」の各種補正率(その2:不整形地補正)
「路線価方式」とは、「路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額(千円単位で表示しています。)」と国税庁が定義する「路線価」を用いて、その「宅地」の評価額を算出する方法です。
(https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm)
もっとも、同じ「路線価」の付けられている道路に面している「宅地」であっても、その形状や傾斜等の有無によって、土地としての使いやすさ、利便性、価値は異なってきます。
ですので、単純に「路線価」にその「宅地」の地積を乗じて評価額を出すのは課税の公平を著しく欠くことになってしまいます。
そこで「財産評価基本通達」は、そのような要素を1平方メートル当たりの単価に反映させる補正を行うことを定めています。
1)不整形地補正の基礎
正方形又は長方形で綺麗な形の「宅地」(「整形地」と言います)に比べ、土地の境界が折れ曲がりあちこちで出っ張ったり引っ込んだりしている不整形な「宅地」の方が、所有者にとって使い勝手が悪く、価値が低くなるであろうということは、納得していただけることと思います。
財産評価基本通達は、このような土地を評価する場合には特別な方法を用いて「奥行価格補正」から「四方路線影響価格」までの補正を反映させた1平方メートル当たりの価格を計算し、そこに補正を加える方法を採っています。
そうすることで、その「不整形地」の評価額を「整形地」よりも低くするのですが、その計算の際には、「不整形地」を次の4つのパターンのいずれかに当てはめて、1平方メートル当たりの単価を算出します。
それでは、それぞれの計算方法について、簡単に説明をしていきましょう。
イ)パターン1
「不整形地」を複数の「整形地」に区分し、それを基にして計算を行う方法です。
この図に即して具体的に書くと、(1)まず、区分したそれぞれの「整形地」の自用地としての評価額を算定し、(2)その合算値を「不整形地」全体の地積で割ることで、1平方メートル当たりの単価を出し、(3)最後に「不整形地補正率」を乗じます。
ロ)パターン2
「不整形地」の地積を間口距離で割ることで、計算上の平均的な奥行距離を算出して、それを使う方法です。
この図において、「正面路線」に面するように、「不整形地」が長方形の各辺に接する形で中に納まるように角が全て直角の四辺形(長方形、又は矩形)の線引きをしていますが、このように「不整形地」がすっぽりと中に入るように設定する最小限の長方形のことを、「想定整形地」と言います。
仮に、「不整形地」の地積を間口距離で割った金額が、「想定整形地」の奥行距離よりも大きくなる場合には、その「想定整形地」の奥行距離が計算上の奥行距離となります。
このパターン2では、こうやって求められた奥行距離に対応する「奥行距離補正」を「路線価」に乗じて1平方メートル当たりの単価を算出し、そこに最後に「不整形地補正率」を乗じます。
ハ)パターン3
「不整形地」の形に近似する「整形地」を設定して(「近似整形地」と言います)、その1平方メートル当たりの単価に「不整形地補正率」を乗じます。
当然ですが、「不整形地」の形と「想定整形地」の形とがあまりに違い過ぎる時には、この方法は使えません。
財産評価基本通達20 にも注書きで、「近似整形地は、近似整形地からはみ出す不整形地の部分の地積と近似整形地に含まれる不整形地以外の部分の地積がおおむね等しく、かつ、その合計地積ができるだけ小さくなるように求める」と書かれています。
ほぼ長方形をしているような土地に使う、と考えていただいていいかと思います。
ニ)パターン4
まず「不整形地」の近似整形地を求めたうえで隣接する整形地と合わせた土地の評価を行って、そこから隣接する整形地の価額を差し引いた金額を基にする方法です。
いわゆる「旗竿地」に使う方法になります。
少々くどくなるかもしれませんが、図に即して説明してみましょう。
(1)まず、「不整形地」のアウトラインになるべく沿うようにして、
長方形を組み合わせた「近似整形地」① を設定します。
(2)上記の「近似整形地」と組み合わせて大きな長方形となるような、
隣接する「整形地」② を設定します。
(3)① と ② とを組み合わせることで仮想の大きな「整形地」が
できあがりますので、その「整形地」を自用地として評価します。
(4)② の「整形地」を単独で自用地として評価します。
(5)(3)の評価額から(4)の評価額を差し引いた残額を
「不整形地」の地積で割って、1平方メートル当たりの価額を出します。
(6)(5)の価額に「不整形地補正率」を乗じます。
次に、「不整形地補正率」の求め方を説明します。
2)不整形地補正率
土地の形が不整形であることから、その評価額を「整形地」よりも引き下げる、その割合が「不整形地補正率」です。
ここで考えてみていただきたいのですが、土地が不整形であることからもたらされる価値の減少は、例えば「ビル街地区」と「普通住宅地区」とで同じ程度になるでしょうか。
また、小さな土地が複雑に入り組んだ「不整形地」になっているのと、それと相似の形ながら地積が非常に大きい「不整形地」とで、土地の使い勝手の悪さは同一になるでしょうか。
そんなわけは、ありませんよね。
そこで「財産評価基本通達」は、「地区区分」ごとの区分だけではなく、それぞれの「地区区分」ごとに、その「不整形地」の地積がどれくらいなのかによっても、「不整形地補正率」を変えるということを行っています。
イ)通常の計算方法
まずは、通常の計算について、具体的な手続きをご説明します。
4つのパターンのいずれかを用いて「不整形地」の1平方メートル当たりの価額を算出したら、まずは、その「不整形地」の地積を国税庁が公表している「地積区分表」に当てはめて、「A」「B」「C」のうち、いずれの「地積区分」に該当するのかを確認します。
続けて、その「不整形地」の「かげ地割合」を計算します。
「かげ地」とは、「不整形地」に対して設定された「想定整形地」の中の、「不整形地」ではない部分のことを指す言葉であり、「かげ地割合」とは、「想定整形地」の中に「かげ地」がどれくらい含まれるのかを示すパーセンテージです。
これが大きければ大きいほど、その「宅地」の評価額は低くなります。
「かげ地割合」の計算式は、次のとおり。
「地積区分」と「かげ地割合」が分ったら、「不整形地補正率表」を確認し、その「不整形地」に適用される「不整形地補正率」を確定します。
4つのパターンのいずれかを用いて算出した「不整形地」の1平方メートル当たりの価額に、上記「不整形地補正率」を乗じます。
ロ)旗竿地などに適用のある特例
パターン4で紹介した「旗竿地」は、この後に説明する「間口狭小補正」や「奥行長大補正」の対象となることが多い「不整形地」です。
そして、それ以外のパターンの「不整形地」でも、この両者の補正の対象となるものが無いとは限りません。
「財産評価基本通達」は、この2つの補正が適用される「不整形地」については、通常の計算ではなく、「不整形地補正率」として、次の2つのいずれかを用いた計算をしても構わないとしています(ただし、その最小値は0.60となっています)。
- 「不整形地補正率」×「間口狭小補正率」
- 「奥行長大補正率」×「間口狭小補正率」
一般論として、こちらを使う方が財産評価額は低くなりますので、不整形地の評価を行う際には、この特例の適用ができるか否かは必ず確認するようにしてください。
<2> 「路線価方式」の各種補正率(その3:その他の補正)
「宅地」の評価で基礎になるのは前回ご説明した「奥行距離補正」や「四方路線影響加算」であり、一番手間がかかるのは、前項の「不整形地補正」です。
この項では、それ以外の補正項目について、ご説明していきます。
1)地積規模の大きい「宅地」の補正
首都圏、近畿圏、中部圏の三大都市圏にある500平方メートル以上の「宅地」及びそれ以外の地域にある1,000平方メートル以上の「宅地」で、「普通商業・併用住宅地区」、「普通住宅地区」に所在するもの(「財産評価基本通達20-2」に定める一定のものを除きます)については、その「宅地」を開発分譲などする場合に生じるであろう次のような減価(価値の減少)を、その評価額に反映させるべく、一定の算式で算出する「規模格差補正率」を乗じて評価額を引き下げます。
① 開発・分譲に伴って道路・公園用地として提供しなければならない
部分が出てくるなどの負担が生じる。
② 上下水道の敷設・整備工事などの負担が生じる。
③ 開発後の販売期間の長期化や売れ残りの発生、資金の借入などの
リスク発生による負担が生じる
2)無道路地の補正
道路に接していない「宅地」を「無道路地」と言います。
「無道路地」の評価は、「不整形地」のパターン4である「旗竿地」の評価を準用するような方法で行いますが、「無道路地」には「旗竿」の「竿」に当たる部分が存在しませんので、建築基準法等で建築物を建築するのに必要な通路(幅員2メートル)があるものと仮定して、「間口狭小補正率」や「奥行長大補正率」を導き出します。
また、「不整形地補正」まで行った「無道路地」の価額からは、この通路を設ける為のコストとして、評価額の4割相当額を上限として、「正面路線」の路線価に通路部分の地積を乗じた金額(「奥行距離補正」は行いません)を差し引きます。
3)間口狭小補正と奥行長大補正
道路に接している部分の長さ、つまり間口が狭い「宅地」は、所有者にとって使い勝手が悪いので、「地区区分」ごとに、「間口狭小補正率表」に記載されている補正率を、ここまでの手順で算出された1平方メートル当たりの「宅地」の価額に乗じて、土地の評価額を引き下げます。
また、間口距離に比して奥行が長い、すなわち「正面路線」から見て奥に長いような「宅地」も、そうでは無い「宅地」に比べて都市の使い勝手が落ちますので、「奥行距離」を「間口距離」で除した(「奥行距離」÷「間口距離」)数値を、「奥行長大補正率表」に当てはめ、該当する補正率を、ここまでの手順で算出された1平方メートル当たりの「宅地」の価額に乗じて、土地の評価額を引き下げます。
4)がけ地補正 と 特別警戒区域補正
その一部が「がけ地」になっているような「宅地」は、平らな「宅地」に比べると使い勝手が悪く、「がけ地補正率」を用いて、その評価額が引き下げられることになります。
「がけ地」について国税庁はホームページで公開している質疑応答集の中で、「平たん部分とがけ地部分等が一体となっている宅地であり、例えば、ヒナ段式に造成された住宅団地に見られるような、擁壁部分(人工擁壁と自然擁壁とを問いません。)を有する宅地」のことを言うと定義しています。
(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/26.htm)
「がけ地補正率」は、その「がけ地」の斜面が東西南北のどちらの方向を向いているものなのかと、総地積のうちに「がけ地」の地積が占める割合との2つの要素を、「がけ地補正率表」に当てはめて求めます。
また、「土地」の一部が土砂災害の恐れがあるなどの理由により「土砂災害特別警戒区域」に指定されている場合は、「がけ地」同様、その「宅地」の総地積のうちに「土砂災害特別警戒区域」の地積が占める割合を算出し、それを「特別警戒区域補正率表」に当てはめて求めた「特別警戒区域補正率」を、ここまでの手順で算出された1平方メートル当たりの「宅地」の価額に乗じて、土地の評価額を引き下げます。
以上、前回の第4回と今回の第5回で、形状や傾斜等の有無によって「路線価方式」の「宅地」の1平方メートル当たりの価額に適用される各種補正につき、簡単な説明を行いました。
次回第6回は、これまでご説明してきた項目以外の、「宅地」の特殊な評価方法についてご説明します。