三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

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土地の評価について(7)          ~関連するその他の事項~

前回までの記事では、相続税法相続税贈与税)において、「財産評価基本通達」に則って土地の評価を行う時の、その評価額の計算方法について、説明を行ってきました。
これだけ回数を使ってもなお、細かい論点・事項で触れなかったことはあるのですが、主だったものについては一通り書かせていただいたと思っています。

 

今回は、「『財産評価基本通達』に基づく土地の評価」というお題を少し離れて、関連する項目についてざっと解説をしていきます。

 

<1> 「家屋」の評価

 

「土地」を評価する際には、その上に建築されている「家屋」の評価を切り離して考えることはできません。
この評価はそんなに難しい話ではありませんので、ここで簡単に説明させていただきます。

 

1)「自用家屋」の評価

他者に貸付けたりすることなく、所有者自らが使用する土地のことを「自用地」と言いましたが、「家屋」についても同様に、貸付などをせずに自らが使用するものを「自用家屋」と呼びます。


「自用家屋」の評価については、「土地」の「倍率方式」を想起していただけばいいでしょう。
ただ、「家屋」については「土地」とは異なり、「地区区分」等で倍率が異なる取扱いにはなっておらず、全国各地、どのような建物であっても一律、「1倍」となっています。

つまり、「固定資産税評価額」が、そのまま「自用家屋」の評価額となるのです。

 

なお、相続税贈与税では、構築物や動産もそれぞれに財産としての評価を行わなければなりません。

しかし、電気設備やガス設備、衛生設備、給排水設備、温湿度調整設備、消火設備、昇降設備等の設備で、「家屋」と構造上一体となっているようなものについては、「家屋」の評価額にその分も含まれていると判定されます。

ですので、それ等の資産については、評価額は0円となります。

 

2)「貸家」の評価

第6回で書いたように、「借家権割合」は一律30%とされています。


したがって、「家屋」全体を貸し付けている場合には、「借家権」の評価額は「自用家屋」の30%相当額、「貸家」の評価額は「自用家屋」の70%相当額(計算式としては「自用家屋」×(1-0.3))ということになります。

 

一方で、集合住宅である「貸家」は常に満室となっているとは限りません


もちろん、オーナーからすれば常に空きが無い状態であることが望ましいのですが、実際にはしばしば空き室が発生してしまうのが実情でしょう。


そのような場合には、その「貸家」の総床面積のうちに、評価を行う課税時期に貸付の用に供されていなかった部分(空き室となっていた部分)を除いた床面積の合計が占める割合(「賃貸割合」と言います)を「借家割合」に乗じて「貸家」の評価を行います。

具体的な算式は、次のようになります。

 

 「自用家屋」評価額×(1-0.3×「賃貸割合」)

 

なお、空き室となっていた部屋について不動産屋などで募集をかけているなどの事実があり、空き室状態があくまで一時的なものであると認められる場合には、「賃貸割合」の計算時には、賃貸されているものとして取扱ってよいとされています。

また、「使用貸借」により貸付けている場合には、その「家屋」は「貸家」ではなく「自用家屋」として評価しますので、「借家権割合」や「賃借割合」による調整は行わないことにご注意ください。

 

3)建築中の「家屋」

「家屋」が完成していないのですから、各自治体もまだ「固定資産税評価額」を設定していません。


そのような「家屋」の価値を示すのは、その評価時までにどれだけの費用が投下されているかです。

ただし、支払額をそのまま合計するのではなく、その建築に関して投下した(支払ってきた)費用を評価時期の価値に換算した「費用現価」の合計額を用いるということには注意が必要です。
算出された「費用現価」の合計額の70%相当額が、建築中の「家屋」の評価額となります。

 

<2> 「構築物」及び「果樹・立木」の評価

 

土地の上に設置される財産には、「家屋」の他に「構築物」や「果樹・立木」といったものもあります。

 

1)「構築物」の評価

「構築物」と急に言われても、どういったものが対象になるのか、イメージが付きにくいかもしれません。
そこで、具体例を挙げると、看板や広告塔、ガソリンスタンド、橋、トンネル、運動場の観戦用スタンド、プール、庭園や花壇、塀、駐車場や道路などに施したアスファルトの舗装といったものが、「構築物」に該当します。

 

「財産評価基本通達97 」は「構築物」の評価方法を「その構築物の再建築価額から、建築の時から課税時期までの期間(その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とする。)の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額」としています。


つまり、評価日の時点で同じものを取得するのにかかる費用の合計額に、実際に取得した時点から評価日までの減価償却を差し引いた残高の、70%相当額をその「構築物」の評価額とするのです。

 

なお、その「構築物」が文化財建造物である場合には、上記評価額に、第6回の「文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている『宅地』」の項でご説明した比率(重要文化財の場合は0.7、登録有形文化財又は伝統的建造物の場合は0.3)を乗じた金額が、その「構築物」の評価額となります。

 

2)「果樹・立木(立竹)」の評価

これ等の財産について評価額を算出しなければいけなくなることも滅多に無いでしょうが、念の為、簡単に説明をしておきます。

 

イ)「果樹」の評価

「果樹」は、「幼齢樹」と「成熟樹」とで評価方法が異なります。
前者は、植樹の時から評価の時点までに要した苗木代や肥料代、薬剤費等の費用の「費用現価」を合計した金額の70%相当額を、その評価額とします。
後者は、植樹の時から成熟までに要した各種費用の「費用原価」から、成熟の時から評価の時点までの期間の償却費を差し引いた残高の70%相当額を、その評価額とします。

 

ロ)「立木(立竹)」の評価

絶対に大丈夫とまでは言い切れない部分はあるものの、一般に、普通の住宅の庭に植えている庭木まで、細かく評価をするということまではしなくても構わないと言われています。
評価が必要となるのは、その樹木に財産的価値がある、売却することで収入が得られるような場合です。
また、例えば豪勢な日本庭園に植えてある立木などは、一本ずつ評価をするのではなく、その他の庭園設備と合わせ、「構築物」として評価を行います。
「立木(立竹)」の評価方法は、次の2種類に分けられます。

 

① 「森林」にあるものについては以下の算式で評価額を算出します。

「主要樹種の標準価額」×「地味級」×「立木度」×「地利級」×森林の地積

 

② 「森林」以外にあるものについては、以下の算式で評価額を算出します。

「立木1本当たりの標準価額」×「比準割合」×立木の本数

 

これ等の算式の構成要素について解説するのは、専門的に過ぎますし長くなりますので、ここでは割愛させていただきます。
もしもここについて詳しく知りたいという方がいらっしゃれば、国税庁ホームページの「財産評価基本通達」等をご確認いただければと思います。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm

 

「立木(立竹)」の評価に当たって必要となってくる基礎資料については、「森林簿」や「保安林台帳」、「分収造林契約書」といったものを確認することで揃えることができます。


とはいえ、専門的知識が無い状態で「立木(立竹)」の評価を行うことは非常に困難なので、もしも相続・贈与財産に「立木(立竹)」に該当しそうなものがあるような場合には、税理士などの専門家にご相談されることを強くお勧めいたします。

 

<3> 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例

 

租税特別措置法第69条の4に規定される「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」は、一般には「小規模宅地の特例」とか「小規模」と省略されて呼ばれることも多い、相続税の課税価格の計算に関する特例です。


これは、「財産評価基本通達」に定められている財産評価の話では無く、一度算出された土地の評価額について、一定の要件を満たせば相続税の課税価格を計算する際に大幅な減額を行うことを認めるという規定になります。
つまり、「土地の財産評価」という今回のテーマとは少し趣旨が異なる話になるのですけれども、相続税法上の土地の評価ということを語る際に欠かすことはできない内容だとも言えます。

 

ただし、これがどういう規定なのかを詳細に説明しようとすると、かなり長い文章になってしまいます。
元々の本題ではないことでもありますし、今回は概要をざっと説明するに留めさせていただきます。
とはいえ、これは相続を考えた時に非常に重要な特例になりますので、いつ、と断言することは現段階ではできませんが、なるべく早く、小規模宅地等をテーマにした、数回にわたる詳細な説明を書く予定です。

 

1)「小規模宅地等」の種類と限度面積

この特例の対象となる「小規模宅地等」 とは、「宅地」のうち、以下に掲げる4つの種類のもののことを言います。

① 「特定居住用宅地等」
② 「特定事業用宅地等」
③ 「貸付事業用宅地等」
④ 「特定同族会社事業用宅地等」

 

① の「特定居住用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、被相続人の親族のうち一定の要件を満たす者が相続又は遺贈により取得したもののことを言います。
適用を受けることのできる面積の最大値(「限度面積」と言います)は330平方メートルです。

 

② の「特定事業用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除きます)の用に供されていた一定の宅地等で、被相続人の親族のうち一定の要件を満たす者が相続又は遺贈により取得したもののことを言います。
「限度面積」は400平方メートルです。

 

③ の「貸付事業用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限ります。)の用に供されていた一定の宅地等で、被相続人の親族のうち一定の要件を満たす者が相続又は遺贈により取得したもののことを言います。
「限度面積」は200平方メートルです。

 

④ の「特定同族会社事業用宅地等」は、相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除きます)の用に供されていた一定の宅地等で、被相続人の親族のうち一定の要件を満たす者が相続又は遺贈により取得したもののことを言います。
「限度面積」は400平方メートルです。

 

それぞれの名前と上記内容から何となく分かるかもしれませんが、つまりは、被相続人の遺族の生活の維持などを目的として、被相続人が居住していた「宅地」やその事業の用に供していた「宅地」等については、後を引き継ぐ人が取得している場合に相続税の評価額が減額されるのです。

 

なお、「限度面積」は、その地積以下の広さの「宅地」でなければ特例の適用ができないということを意味するものではなく、例えば地積が600平方メートルの「宅地」が「特定事業宅地等」の要件を満たしているような場合には、その「宅地」のうちの400平方メートルまでは特例の適用対象となる(逆に言えば、200平方メートル部分には適用されない)ということを意味します。


また、「特定事業宅地等」の要件を満たす「宅地」が、150平方メートルのものと200平方メートルの2つ存在する場合には、その合計は350平方メートルであり「限度面積」である400平方メートル以下なので、両方の「宅地」に特例を適用することができます。

 

特例の適用を受ける場合の、「宅地」の評価額の減額幅ですが、それぞれの種類に応じた「限度面積」の範囲内で、という制約はあるものの、「特定居住用宅地等」と「特定事業用宅地等」、「特定居住用宅地等」が80%、「貸付事業用宅地等」が50%となっています。

例えば財産評価額が5,000万円と算出された「宅地」が「特定居住用宅地等」に該当して、かつ「限度面積」の範囲内であった場合には、相続税計算上の評価額は以下のようになります。

 

5,000万円×(1−80%)=1,000万円

 

4,000万円の減額であり、この差は、非常に大きいですよね。

 

また、仮に同じ土地に賃貸アパートを建てて家賃収入を立てているような場合は、「貸付事業用宅地等」に該当しますので、こちらも「限度面積」の範囲内であれば、その評価額は次の金額です。

 

5,000万円×(1−50%)=2,500万円

 

こちらも、2,500万円も評価額が下がります。

 

「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」を上手く使えば、相続税額がかなり下がるということが、お分かりいただけたかと思います。

 

2)複数種類の「小規模宅地等」に特例を適用させる場合の「限度面積」

では、この特例の適用の対象となり得る土地が複数種類存在する場合(例えば「特定居住用宅地等」と「特定事業用宅地等」がある時)に、特例によるそれぞれの評価額の減額を併用することはできるのでしょうか。


その答えは、できるものもあるが、できないものもある、というものです。

 

例えば、② の「特定事業用宅地等」と ④ の「特定同族会社事業用宅地等」は、400+400=800平方メートル まで適用を受けられるのではなく、両方の地積の合計が400平方メートルに至るまでしか、適用は受けられません。

②又は④と、① の「特定居住用宅地等」の併用は可能であり、その場合には最大で 400+330=730平方メートル まで特例の適用を受けることができます。

 

しかし、適用対象に ③の「貸付事業用宅地等」が含まれる時は話が異なってきます。
その場合には、②+④ の面積×200/400 と、① の面積×200/330、それに③ の面積を足した合計値が、200平方メートルに達するまでしか、特例の適用を受けることはできません。


ややこしい計算式に見えるかもしれませんが、これは要するに、特例の対象となり得る宅地の全てについて、それ等を仮に「貸付事業用宅地等」であるとみなして、面積の合計が200平方メートルになるまでを特例の適用対象とする、ということです。

 

国税庁ホームページを参考に作成した、「限度面積」の表を下に貼ります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

 

 

相続財産に「宅地」があるような場合には、その中に適用が可能な「宅地」があるかどうか、その「宅地」は限度面積の範囲内なのかどうか、複数の「宅地」が適用対象であり限度面積を超えている場合にはどのような形で適用をすれば一番納税額が少なくなるのかなど、その他の規定との兼ね合いも考えつつ、しっかりとシミュレーションを行って確認することが重要となってきます。

 

複雑な計算を要することもあるので、可能であれば、税理士などの専門家にご相談いただきたい項目です。

 

以上をもちまして、半年以上に渡り書いてきた、「土地の評価について」の解説はひとまず終了です。

内容的に、どうしても法の規定や計算式を解説することが多くなり、専門家ではない一般の方には分かりにくく、難しいものだったかもしれません。
それでも、なるべく平易に、分かりやすく書くことを心がけたつもりです。

 

相続税贈与税における「土地の評価」というのは、専門家であっても時に難しい項目ではあるのですが、今回の記事によって、そのアウトラインだけでも皆様に伝わっていれば、嬉しく思います。

 

なお、路線価方式による土地の評価に関し、非常に興味深い最高裁判所判決が今年の4月に出ています。

次回は、番外編として、その事例についての説明を、なるべく簡単にさせていただこうと思っています。