三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度で注意すべきこと      ~簡易インボイスについて

今年10月の消費税インボイス制度導入まで残り日数が数ヶ月となったこの段階で、制度の開始時に注意すべき事柄などを説明する記事、今回は、当事務所の関与先様にも関連することの多い事項についての、各論の第2回になります。

 

様々な人とインボイス制度について話をしていて、意外と理解が為されていないのだなと気が付いた項目の1つとして、例えインボイス番号を取得している事業者からの仕入に関わる請求書だとしても、それが法の規定する「適格請求書等」の要件を満たしていないものであった場合には、「仕入税額控除」の対象にはならない、ということがあります。

 

では、インボイス制度が請求書等の記載事項として求めているのは、どういった項目なのでしょうか。

今回は、ちょっと基礎に戻って、そこから確認したいと思います。

 

<1> 適格請求書の記載事項と適格簡易請求書等

これは、国税庁の発表しているQ&A等にもわかりやすく箇条書きされています。

www.nta.go.jp

ここでは、それをそのまま引用してみましょう。

  1.  適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2.  課税資産の譲渡等を行った年月日
  3.  課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
  4. 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

ポイントとなる点はいくつかありますが、今回は適格請求書等の書式について述べることが目的ではないので、そこは割愛させていただきます。

過去にこのブログでその点について書いた回もありますし、上記リンク先のQ&Aにも具体例を示した回答が掲載されています。

また、顧問契約を結んでいる税理士がいらっしゃる事業者様は、その先生に確認していただければと思います。

 

原則的には、この6つの項目の記載が無ければ、その仕入等は消費税の計算上、「仕入税額控除」の対象としては使えません。

インボイス制度の趣旨とされていることを考えれば、それはそうなるのだろうな、と呑み込める理屈では、あります。

 

しかし、一方で、例えば小売店舗での物品購入等の際に、逐一、上記の事項が完備された完璧なインボイスを求めていると会計に時間がかかり過ぎるのではないかという疑問も生じますよね。

そこに対する制度の対応が、適格簡易請求書等、いわゆる「簡易インボイス」の制度です。

 

これは、上記の記載項目の一部を、省略または簡便化したものになるのですが、一番大きいのは、6番目の要件である「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」、つまり領収書等の宛名を記載しなくていいことでしょう。

これで、レジ等で自動出力したレシート類(その他の事項は記載されている必要があります)をそのまま、インボイス制度に適合した請求書等として扱うことができるようになります。

 

対象となる事業者は、次の通りです。

 

① 小売業

② 飲食店業

③ 写真業

④ 旅行業

⑤ タクシー業

⑥ 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)

⑦ その他これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの

 

「不特定かつ多数の者が相手の場合に限る」という要件が付されているのは、⑥と⑦になり、①~⑤ にはそのような限定はされていないことに注意してください。

たとえば、コンビニや駅の売店などは、①に該当しますね。

 

<2> パーキング・メーターと簡易インボイス

駐車場業の内「不特定かつ多数の者に対するもの」というのは、例えば、きちんとした賃貸借契約を結んでいる月極駐車場等は、その契約の当事者が双方ともに特定されているので、これに該当しないことになります。

つまり、対象となるのは時間貸し駐車場(コインパーキング)や、商業施設や空港等に併設されている有料駐車場だと思っていただいていいと思います。

 

なお、タイムズ駐車場(タイムズ21㈱) や 三井のリパーク三井不動産リアルティ㈱)等のコインパーキングは、実際に駐車場用の土地が存在し、それを時間貸ししている形になりますので、明確に「駐車場業」と言えるのですが、道端に存在しているパーキング・メーターは、実は厳密に言えば土地の時間貸しには該当しません。

これは、私もインボイス制度の適用関係を調べていて初めて知って驚いたのですが、パーキング・メーターに投入する料金は、正式には「駐車場代」では無いのです。

そのことは、例えば警視庁のこのQ&Aにも明記されています。

www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp

パーキング・メーターに投入する料金は駐車場代ではなく、「パーキング・メーター等の維持管理に必要な費用を、利用される方から『手数料』として納めていただくもの」。

そう言われていれば、確かにパーキング・メーターは公道上に設置されていて、私たち利用者は公道の一角に一定時間、車両を置いてはいるものの、それは別に公道を賃借しているわけでは無いわけです。

 

では、土地の賃貸借に該当しないのであれば、「駐車場業」ではないことになって、簡易インボイスの対象にはならず、つまり、インボイスに求められる6つの記載事項を全て網羅した正式な適格請求書等の交付を受けなければ、「仕入税額控除」の対象とすることはできないのでしょうか。

 

一方で、パーキング・メーターの代金は、4月30日の記事に書いた、小規模事業者に対する1万円未満の仕入に関するインボイスの緩和の対象にはなるでしょうから、「基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者、あるいは特定期間の課税売上高が5千万以下の事業者」であれば、どのような領収証の発行を受けたにせよ、そもそもパーキング・メーター代を「仕入税額控除」に含めるのに、何にも問題はありません。

 

では、この規定の適用を受けられない、一定規模以上の事業やの場合はどうなるのか。

 

なお、インボイス制度では、自動販売機等からの商品等の購入で3万円未満のものについても、インボイスの受取がなくても「仕入税額控除」の対象にすることが、制度上、認められていますが、パーキング・メーターは、代金の受領は精算機で行われますが、サービスの提供や物品の譲渡がその機械で行われるのではないので、この「自販機特例」の対象にはならないとされています。

つまり、こちらの特例も使うことはできません。

 

結論から言えば、ここについては、取引の実態はともあれ、インボイス制度上は「駐車場業」として取り扱っていいことになっています。

おそらく、上記の簡易インボイス対象となる事業者の例示のうち、「⑥ その他これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの」に該当するという判断になるのだと思われます。

 

以上、パーキング・メーターの話は少しマニアックな論点でしたが、今回は、簡易インボイス制度について、概要をご説明しました。

 

 

インボイス制度で注意すべきこと      ~ETCのカード決済

あと数か月後の令和5年10月1日には、消費税に係るインボイス制度が否応なしに開始されます。

今回は、制度的な特例について特例的な取扱いを主に説明してきた第1回第2回に続いて、特に今までは気にしてこなかったけれども、10月以降は注意する必要がある項目のうち、多くの事業者に関係してくるであろうETC利用料について、説明をさせていただきます。

 

<1> ETC利用料のクレジット引落(基本的理解)

様々な点から利便性が高いこと、そして料金が割引になること等から、今や高速道路を走る車両はそのほとんどがETCの機器を設置しています。

 

高速料金の支払時に、都度現金払い又はカード払いをしているのであれば、有人料金所で領収証を受け取れるので、インボイス制度下で仕入税額控除に使える適格請求書等を受け取れるので、そういう意味では特に問題はありません。

しかし、ETC機器を取り付けてクレジットカード決済を選んでいる場合は、そのままゲートを通過して、登録しているカードで後日利用分の高速代が引き落とされることになります。

つまり、領収証を当日に受け取っていないわけですが、この場合はどのようなことになるのでしょうか。

 

高速道路会社は、首都高速道路㈱も東日本高速道路㈱も中日本高速道路㈱も、それ以外の各社も、インボイス番号は当然に取得しています。

ですから、彼らが管理している高速道路を使用した場合の料金は、原則的には仕入税額控除の対象とできるはずです。

ところが、ここがインボイス制度の面倒なところ。

原則的には、たとえ仕入先、経費の支払先がインボイス番号を取得している課税事業者であったとしても、そこから受け取る請求書や領収証が制度に適合している適格請求書等ではなかったのであれば、仕入税額控除の対象とすることはできないのです。

 

ここまでの2回で紹介してきたように、適格請求書等を受け取るのが手間であるような一部の取引については、適格請求書等の取得が免除されていて、帳簿に必要事項さえ記帳されていれば仕入税額控除の対象とすることができることになっています。

しかし、ETC利用料のカード決済については、それ等の特例の対象にはなっていません

つまり、仕入税額控除の対象としたければ、何とかして適格請求書等に該当する領収証などを手に入れなければならないのです。

 

<2> インボイス制度下での対応

では、具体的にどのような対応が必要となるのか。

 

会社契約のETCコーポレートカードであり、毎月「ETCコーポレートカード請求書(通行料金等請求書)」が送付されているのであれば、話は簡単です。

というのも、時期は各社で違いがあるかもしれませんが、こちらは、各社がインボイス制度に対応した適格請求書様式に書式を変更してくることになっているのです。

つまり、ETCカードを利用している側が何かやらなければならないことがあるわけでは、ありません。

新しくなった請求書を、今まで通り、入力原票として利用し、保存をしていれば、それで大丈夫です。

 

問題は「ETCコーポレートカード請求書(通行料金等請求書)」のように請求書が定期的に送付されてこない、普通のETCカード利用のクレジット決済です。

この場合の高速各社の対応は、それぞれのHPで発表されています。

一例として、東日本高速道路㈱ の該当ページのリンクを、以下に貼ります。

 

www.driveplaza.com

 

要は、これに該当するものについては、ETC利用照会サービスから「利用証明書」の発行を受けなければならない、とうことです。

 

www.etc-meisai.jp

 

登録の手間はあるものの、まあそれはいいとして、この「利用証明書」の発行を受けるという方式には、注意点、面倒なところがあります。

 

<まとめ発行では駄目であること>

「利用証明書」は、料金所での「領収証」の代わりに発行されるものです。

一応、「〇月分」という感じでまとめ発行ができるようにはなっているようですが、ここで改正電子帳簿保存法との絡みが出てきてしまいます。

紙で交付を受けたのではなく、ネット経由等で電子的に取得した領収証等は電子帳簿保存義務の対象となり、1枚ごとに「日付」「相手先」「金額」の3つの項目で検索ができるようにしなければなりません。

つまり、まとめ発行で、例えば50枚の領収証が1ファイルになっているような場合には、この要件を満たさないことになります。

面倒でも、領収証1枚ごとに、データのダウンロードを行わなければなりません

また、都内の事業者等で、首都高速道路㈱、東日本道路㈱、中日本道路㈱ の管理区間をまたいで高速道路を頻繁に利用しているような場合は、料金所を通過するごとに「利用証明書」が発行されると思われます。

これ等のことから、ダウンロードしなければならない「利用証明書」の枚数は非常に多量になり、「ETC利用照会サービス」での発行手続きにかなりの手間を擁することが想定されます。

 

<取得した「利用証明書」の保管>

上記項目にも書きましたが、「ETC利用照会サービス」からの「利用証明書」取得は、電子発行によるものであり、紙の証明書を受け取るわけではありません。

つまり、取得した「利用証明書」は、改正電子帳簿保存法の適用対象となり、保存要件を満たす形でファイル名などを付け、社内のサーバーや社外のデータストレージサービス等に、適切に保存する必要があります

 

取得した「利用証明書」を印刷して、紙ベースで保存していれば大丈夫という話にはなりませんので、ご注意ください。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

以上、今回はETC利用料とインボイス制度について書かせていただきました。

 

 

インボイス制度で注意すべきこと その2

いよいよインボイス制度の実施まで半年を切った現在。

 

この制度については未だに様々な議論が紛糾している中、それでも10月には待ったなしで法が施行されます。

制度の可否、ご自身の意見や主張は横に置いて、インボイス制度が実際に始まる日付が動かない以上は、その日が来た時点で、私たちはそれに対応をしていかなければなりません。

そこで、まずは目先の課題として、インボイス制度が実施された時に私達が実務・会計入力等においてどのようなことに注意しなければならないか、ということを確認しておく必要があると考えます。

 

今回は前回に続いて、ひとまず押さえておくべき事項を、箇条書き的に簡単に説明していきます。

 

<1> 公共交通機関による旅客の運送のうち少額のもの

SuicaPasmo 等の交通系ICカードを利用して電車やバスに乗る。

駅の券売機を使って現金等で電車の切符を買う。

バスを利用して運転席横の運賃箱に現金を投入して料金を支払う。

これ等の経費支出があった際に、それぞれその都度に領収証をもらうというのは、現実的な話とは言えません。

 

Suica の利用履歴や切符購入時の領収証は券売機で取得することができたりしますけれども、路線バスで領収証というのは、さすがに無理があるでしょう

単純に考えて、いちいち運転手に適格請求書(インボイス)に該当するような領収証等の発行を要求していたら、バスの運行に看過できない遅延をもたらしてしまうでしょう。

 

そもそも、バスの運転手から領収証はもらうことができるのか。

これは、バスの運行会社によって異なるようなのですけれども、会社によっては運転手もしくは営業所で発行を受けることは、不可能ではないようです。

とはいえ、運転手の手元に領収証の用紙があったとしても、通常運行の途中で求めるのはNGで、せいぜいが始発の発車前か、終点に着いて乗客の降車が終わった段階でお願いするかのどちらかができるかどうか、というところでしょう。

つまり、実質的には無理ということですね。

 

そこでインボイス制度化においては、「金額が3万円未満である旅客の運送」「適格請求書の記載事項(取引年月日以外)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引」については、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。

つまり、インボイスの発行が無くても課税仕入れとして扱っていいとされているわけです。

電車代等が3万円以上となる場合には、この特例の適用はありませんけれども、そういう場合は領収証の発行を普通に受けているだろうと思われますので、特に問題にはならないでしょう。

 

<2> 従業員等に支給する通勤手当・出張旅費等

従業員等が出勤する際にかかる通勤手当について、実際に定期券を買った領収証の提出を求めて、それを確認して都度の支払をしている事業者もいらっしゃるでしょうが、通勤経路と定期代の申告を受け、毎月その金額を給与に加算して支給しているという事業者の方が多いでしょう。

後者の場合にも、毎回定期券購入の領収証を求めることになるのでしょうか。

また、アルバイトの場合には、定期代ではなく、自宅と職場の往復にかかる通常の電車代を、出勤日数分支払っているケースがほとんどでしょうが、その場合も、毎日切符等の領収証を提出させるのでしょうか。

 

通勤ではなく、出張の場合はどうでしょう。

旅費・宿泊費について、実費精算でも申請書の提出だけで済ませているケース、社内規定で日当を決めて宿泊日数等に応じて支給しているケースがあるでしょうが、特に後者ではインボイスに該当する領収証等は用意のしようもありません。

ではこの場合は、仕入税額控除を一切行えないことになるのでしょうか。

 

さすがにこれ等について課税仕入と認めないのは無理があるので、その支給額・精算額通常必要と認められる範囲内の金額である限り従業員等に対する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当については、インボイスに該当する請求書・領収証等の発行が伴っていなくても、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないとされました。

 

<3> 自販機等からの商品等購入のうち少額のもの

駅での券売機からの切符購入と似たものとして、例えば、街中の自動販売機で飲み物を買うようなケースも考えられます。

 

例えば、ペットボトルのお茶を買うごとに自販機からインボイスの発行を受ける。

そこに技術的な問題は無く、現在設置されている自販機を、それに対応したものに入れ替えればそれで済む話かもしれませんけれども、それはあくまでも「技術的」にはという話。

そこにかかるコストを考えれば、実際にはあり得ない選択肢です。

 

では、今後、自販機等でものを買った場合には仕入れ税額控除の対象外として扱わなければならないのでしょうか。

さすがに、そんなことはありません。

実際には、自動販売機や自動サービス機から購入する3万円未満の商品等については、公共交通機関への支払同様、こちらも、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。

 

<4> 郵便切手を対価とする郵便・貨物サービス

郵便局で切手等を購入した際に、レシートに消費税が「非課税」と記載されていることに気が付いている人もいらっしゃると思います。

勘違いをしてしまいそうになりますが、これは、郵便サービスの利用に消費税がかかっていないということではありません。

詳細な説明はここでは省略しますが、切手はあくまで「郵便サービスを受けるための証票」に過ぎず、郵便に関わる役務の提供が行われ消費税が発生するのは、実際にその切手等を貼付した郵便物をポストに投函した時とされています。

つまり、切手に関して消費税が発生するのは、その切手を購入した時ではなく、切手を使用して郵便を出した時というわけです。

 

インボイス制度化においても、この取り扱いは変わらないのですが、では、日本全国に存在するポストを全て入れ替えて、郵便物を投函した際に、ポストがその郵送料を自動判定してインボイスに該当する領収証等を受取口からプリントアウトしてくれるというような機能を実装させたりするでしょうか。

予算がどれくらいかかるかわかりませんし、メンテナンスの必要性等も考えれば、そんなわけはありませんよね。

 

そこで、郵便ポストに差し出されたものに限るという要件付きで、「適格請求書等の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス」については、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないこととされました。

実務的には、購入時にまとめて課税仕入として処理してしまうことが多いでしょう。

 

<5> 古物等の仕入

これは、該当する事業を営んでいる事業者のみが対象になるのですが……

  1.  古物営業を営む者が行う、適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
  2.  質屋を営む者が行う、適格請求書等発行事業者でない者からの質物の取得
  3.  宅地建物取引業を営む者が行う、適格請求書等発行事業者ではない者からの建物の購入

に該当する取引について、その購入・取得した古物、質物、建物がその事業者の棚卸資産に該当する場合(販売・賃貸等の目的で購入・取得している場合)は、必要事項を記載した帳簿があれば、仕入税額控除の対象として構わないことになっています。

 

これ等の事業者に対し、インボイス番号を取得していない一般の人たちから買った商品に関する仕入税額控除を認めないとしてしまうと、消費税の納税額が著しく多額になってしまい、経営状況を悪化させ、倒産を招きかねないという判断が、この取扱いの背景にあるようです。

 

 

以上、5つの取扱いについて簡単な説明を行いました。

次回は、実際の会計処理上で気を付けるべき事項について書ければと思っています。

 

インボイス制度で注意すべきこと その1

いよいよインボイス制度の実施まで半年を切りました。

 

この制度については様々な議論が紛糾しているのが現状です。

中には「そもそも消費税とはどういう税金か」ということについての基本的な話もあったりして、今更ながらのタイミングになって、様々な意見・主張が飛び交っているようです。

これはちょっと認識にバイアスがかかっているのではないかと懸念されるような主張も見受けられたりしていて、それは危ういなとも思うので、そういうことも含め、「消費税」という税目については、改めてこのブログでも、どこかで書かなければならないかなと私としても考えているのですが……

 

ともあれ、まずは目先の課題として、インボイス制度が実施された時に私達が実務・会計入力等においてどのようなことに注意しなければならないか、ということを確認しておかなければならないと考えます。

そこで、今回は、そのいくつかを箇条書き的に採り上げ、簡単な解説を加えてみることにしました。

以前にアップした記事と被る部分も多いのですが、重要な改正についての解説ですので、そこはご容赦ください。

 

他にも現時点でお知らせしておくべきことがいくつかありますので、なるべく早く「その2」を、そこで書ききれなかった場合には「その3」を、公開していく予定となっております。
今年10月以降の会計処理を行っていくうえで非常に大事なことを書かせていただきますので、どうぞ、お付き合いいただけましたら、幸いです。

 

<1> 仕入れに係るインボイス番号確認の緩和

インボイス制度が導入される令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間の取引について、という期間の定めはありますが、基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者、あるいは特定期間の課税売上高が5千万以下の事業者は、支払額が1万円未満仕入については、インボイス番号を確認することなく一定の帳簿を記帳し保存することで仕入税額控除が認められます。

つまり、これまでにやってきた処理と同様、簡単な領収証や、出金伝票等を入力原票として会計処理を行っても問題がなく、その相手先がインボイス番号を取得しているか否かにかかわらず、通常の仕入れ税額控除の対象として構いません。

 

<2> いわゆる「2割特例」

そのままであれば免税事業者に該当していた事業者が、敢えてインボイス番号を取得することで(免税事業者でいることもできた課税期間を)課税事業者となった場合に、令和8年9月30日の属する課税期間までの期間、適用できる特例です。


この特例の適用を受ける場合は、売上等により預かった消費税から差し引ける「仕入税額控除」の額を、預かった消費税の8割とすることができます。

実際の計算では差異が出ることもありますが、分かりやすく敢えて簡単に(簡潔化した形で)言えば、税抜売上高の2%が、その事業年度で税務署に納めるべき消費税等の額となるわけです(売上に関わる税率が全て10%の場合)。

 

原則的な税額計算(本則課税、簡易課税)との有利適用が認められていますので、両方のパターンで税額を計算し、納付税額が少ない方で申告を行うことになります。

 

相続で事業を承継した場合、課税事業者選択届出書を提出していた場合、一定額以上の特定の資産を購入していて本則課税適用の3年縛りを受けている場合など、2割特例が選べないケースもありますので、実際の申告書作成時などには、不安があれば、税務署や税理士等、専門家にお問い合わせいただくことをお勧めいたします。

 

<3> 少額な返還インボイスの交付義務免除

インボイスを発行した事業者が国内で行った課税資産の譲渡等に対して、返品や値引き、割戻しなどの売上げに係る対価の返還等を行った場合の話です。

もともとの規定では、こういう時には譲渡を行った事業者が、相手先に対して返還インボイスを交付する義務があったのですけれども、さすがにそれは煩雑なので、金額が税込1万円未満であれば、返還インボイスの交付義務を免除するというものです。

 

具体的にイメージしやすいのは、売掛金の入金時に差し引かれた振込手数料(販売元が負担することになるもの)でしょう。

原理原則で言えば、例えば売上先が 330円の振込手数料を差し引いた入金をしてきた場合に、その 330円について売上返還・値引きであるとしてインボイスを発行する必要があったのですが、それは実務的にわずらわしすぎるということで免除する、という規定ができたのです。

 

なお、この際の販売元の経理処理における、当該振込料の処理で気を付けなければならないことがあります。

それは、これを例えば「支払手数料」や「通信費」等の自社負担の振込手数料を計上している勘定科目に「課税仕入」として計上してしまうと、販売先から、当該振込料に関わるインボイスを発行してもらわなければならなくなる、ということです。

 

ですので、勘定科目として「売上値引き」等を使えとは言いませんが、消費税の区分としては、この差し引かれた振込料相当額 330円については、「課税仕入」ではなく、「売上返還」として入力をすることが求められます。

細かい話で恐縮ですが、ここは間違えやすい項目だと思いますので、経理担当の皆様は十分お気を付けの上、慎重な入力をお願いいたします。

 

<4> 家賃等、契約に基づき支払っている定額の経費

例えば契約書に基づいて毎月定額で支払っている事務所の家賃、駐車場の家賃について、毎回請求書を受け取っているという事業者様は、どれくらいいらっしゃるでしょうか。

実際には金融機関の定額送金サービスを利用していたり、そもそも口座引落で毎月勝手に引き落されていて、都度の請求書などもらっていない、ということも多いのではないかと思います。

 

こういうケースでも、原理原則の話をすれば、毎月の家賃等について支払先からその都度インボイスの発行を受けなければいけないことになります。

しかし、これはあまり現実味のない話ですよね。

 

そこで、こういった取引については、以下の方法であっても、仕入税額控除の要件を満たすこととされています。

 

  1.  インボイス(適格請求書等)に求められる記載事項のうち、「取引日」以外のことを記載している契約書(賃貸借契約書、顧問契約書 etc.)を交わしていれば、取引日の確認資料として、① 引落しをされた口座の通帳・入出金明細等、② 振込をした際の振込票(振込金受取書)を保存することで、都度のインボイスの発行に代えることができます。
  2.  事業年度に合わせ、1年分の賃借料、顧問料等のインボイスの交付を受けることで、都度のインボイスの発行に代えることができます

 

新規の取引に関しては、新たにかわす契約書を「1.」の要件を満たすものにすればいいでしょうし、既存のものについては、契約書を再作成・再締結できそうであればそれでもいいですが、実際には「2.」の形で、年間の合計インボイスの交付を依頼するというのが現実的な対応である気がします。

 

<R05.08. 追記>

既存の契約書では不足している記載項目について、それ等を記載した「ご案内」等の覚書を別途作成し、双方が保管することで(印刷物ではなく、メールなどの電子的方法による通知でも可です)、要件を満たす契約書として取り扱うことができる旨が国税庁により公表されています。

インボイス制度への対応としては、契約書を再度かわしなおすのが困難な場合は、この方法を選ぶのが、一番現実的かもしれません。

 

<5> 会社カードを利用した決済

売上原価、経費等に相当する全ての取引について、取引の都度のインボイス交付が必要というのが大原則ですが、では、会社名義のクレジットカードを利用した場合はどうでしょうか。

 

旧来より、クレジットカード決済の場合も、会計処理上も税法上も、1つ1つの取引についてそれぞれ領収証・レシート類の添付が必要でした。

しかし、実際にはそういった書類が無いまま、クレジットカードの利用明細書から直接会計データを入力するということも、行われていたかと思います。

インボイス制度下においては、クレジットカードを利用した取引についても、全て、その料金の支払先が作成したインボイスが存在することが、仕入税額控除の対象となる前提です。

ですので、クレジットカード決済をした場合でも必ず、領収証等(「クレジットカード売上票」では、その取引の内容が確認できないので駄目です)の発行を受けて、それをクレジットカード利用明細に添付するなどして、いつでも確認ができるようにしなければなりません。

 

また、インボイス制度が始まれば、1つの1つのインボイスごとに消費税額を計算し端数処理がされるので、入力もそれに合わせてインボイスごとに入力をする必要が出てきます。

これまで、クレジットカード利用明細の、例えば駐車場代などについて、1か月分の合計額を出して「タイムズ駐車場 〇月分〇〇件 △△△△円」というような、まとめての入力をしていたとしても、10月以降は個別の明細ごとに1つ1つ仕訳を起こすのが原則です。

 

以上、今年10月のインボイス制度導入に向けて、主に会計処理の点で注意しなければならないと考えられることを、まず5点、書いてみました。

伝票・レシート類の管理ルールを変更しなければならない事業者様もいらっしゃることが想定されます。

制度開始まであと5ヶ月、今からしっかりと準備をしていきましょう。

 

株式会社の解散について

<1> 会社解散の事由

 

会社を解散しようと思う理由はその会社によってケース・バイ・ケース、一概に「これ」と言えるものでは無いでしょう。
ただし、法律の観点からは、会社を解散できる理由は「会社法」で明確に定められています会社法第471条~第474条)


以下に列記してみましょう。

 

① 定款に定めた存続期間の満了
② 定款に定めた解散の事由の発生
株主総会の決議
④ 合併による会社の消滅
⑤ 破産手続き開始の決定
⑥ 裁判所からの解散命令
休眠会社のみなし解散

 

これ以外の理由の解散は、法的に認められていません。

 

このうち、特定の条件を満たせば、あるいは特定の目的を達成すれば会社を解散することを初めから決めているような は、かなり特殊な事例と言えるでしょう。


は吸収合併や新設合併が行われる場合ですが、このような時に被合併法人が解散するというのは良くある話ですので、特に説明は不要でしょう。


は、会社の設立が不法なものだった場合、役員・社員が違法行為を繰り返し行っていた時などに裁判所の判断で会社の解散が命じられる場合。

は既に経営の実態のない事業活動を停止した休眠会社が、最後に登記を行ってから12年間経過しても次の役員変更登記等を行っていないことから、法務局によって解散したものとみなされて「みなし解散」の登記が行われる場合(なお、これに該当する場合には3年以内に所定の手続きを行うことで会社を復活させ、継続することが可能です)。

つまり、も、一般的な理由とは言いにくいものです。

 

会社が解散する場合に良くみられる理由は、③ の「株主総会の決議」⑤ の「破産手続き開始の決定」でしょう。

 

会社の解散は、事業の業績悪化や、事業継続のメリットが減少した際に検討されるものですが、現時点では経営上・財務上に特に問題の無いような会社が後継者不在や先行きの不透明さ等から解散の道を選ぶ場合には、③ の株主総会において解散決議を行ったことによる解散をすることになるでしょう。
解散は特別決議により決定しますので、総議決権の過半数保有する株主が出席した上で、その議決権の3分の2以上が賛成することが必要となります。

 

一方、会社が債務超過に陥るなど、経営状況・財務状況が著しく悪化し、会社経営を継続することが困難となったことから、裁判所に対して破産手続きの申し立てを行い、それが受理されて破産手続きが開始されるのが ⑥ です。
この場合、裁判所が選任した破産管財人が会社解散の手続きを進めていくことになります。

 

以下、ここでは、会社が自ら主体となって解散の為の手続きを進めていくことになる、③ のケースを前提に説明をしていくことにいたします。


<2> 会社解散の流れ

 

会社を法的に消滅させるには、厳密には「解散」だけではなく、その後に「清算」という手続きを行う必要があります。
この清算手続きでは、解散時に会社が有していた売掛金や貸付金といった資産や買掛金や借入金などの債務を整理し、財産を保有している場合には、それを現金化します。

 

そこで、ここでは、解散決議から会社の消滅までの流れを簡単に説明していきます。

 

1) 解散登記と清算人の選任

前述したように、株主総会を開催して解散の可否を諮ります(特別決議事項)。


この時に、解散や清算の手続きを行うことになる「清算人」の選任を同時に行うことが一般的です(定款に誰を選任するかという定めがある場合を除く)。
顧問弁護士がいるような大企業であれば、その顧問弁護士が就任することもありますが、中小企業等では代表取締役清算人に就任することがほとんどでしょう。

 

株主総会で解散決議を行い、清算人を選任したら、それから2週間以内に、解散登記と清算人選任登記を法務局に行います。
この時、解散登記に3万円、清算人選任登記に9千円の登録免許税を支払います。

 

解散登記が終了したら、税務署や都道府県民税事務所、社会保険事務所等に会社解散の届出(異動届出書)を提出します。
添付書類として登記事項証明書(履歴事項全部証明書)が必要となるので、法務局で必要な部数の交付を受けます。

 

2)清算手続きの開始

清算人は、解散の時点における、その会社の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会で承認を受けます。

 

また、2ヶ月以上の債権申出期間を設定して、会社債権者の保護手続きを行います。
具体的には、債権者に向けて会社が清算手続きに入ったので設定された期間内に保有する債権を申し出るよう、官報への公告(掲載料は文字数によって異なります)を行うと同時に、会社が把握している債権者に対しては個別に通知・催告を送ります。

 

3)解散確定申告書の提出

会社が解散をするということは、会社の事業活動を解散日の時点を一区切りとして停止するということと同義です。


そこで、解散日の属する事業年度開始の日から解散日までの間の期間(解散事業年度)については、通常の事業年度と同様の確定申告書を作成し、税務署等に提出しなければなりません。
この解散確定申告書の提出期限は、解散日から2ヶ月以内となっています。

 

4)残余財産の確定と分配

社債権者の保護手続きが終わったら、清算人は次の様な手続きを行います。

 

① 現務の結了


解散時にまだ終わっていない残務を終了させます。
具体的には、在庫の売却、締結済の契約の履行などです。
取引先との契約の解除、従業員との雇用契約の解消などもここに含まれます。

 

② 債権の回収、債務の弁済、財産の換価処分


会社が消滅する為には、その資産と負債、純資産が0円になっている必要があります。

つまり、貸借対照表(B/S)が貸借共に0円になっていなければなりません。


その為、売掛金や貸付金などの債権については回収できるものを全て回収し、買掛金や借入金等の債務は全て支払・返済しなければなりません。
また、会社の有する財産について、現金に換価できるものは全て現金化します。

 

この過程で、例えば債務免除益や財産の売買益などの利益が出た場合には、そこに法人税が課税され、納税の義務が発生します。
清算手続きが長引いて1年以上になる場合には、解散日から1年ごとを事業年度とみなして、2ヶ月以内に申告を行わなければなりません。

 

③ 残余財産の分配


債権の回収と財産の換価が修了し、債務を全て弁済してもなお、手元に現金が残る場合には、これを株主に分配します。


分配の割合は、基本的に持ち株比率によります。
なお、② の段階で発生した納税額について、まだ納付が完了してない時には、その納付税額まで分配してしまわないようにしなければなりません。

 

5)清算の結了

 

残余財産が確定したら、それから1ヶ月以内に清算人は税務署に対して清算確定申告を行います。


上記のように、清算中に何らかの利益(所得)が発生した場合には、ここでそれに対応する税額の納付も行います。
清算確定申告においては通常の繰越欠損金控除の他に、期限切れとなっている欠損金の損金算入が認められることがあります。

ここは少し専門的な話になるのでここでは具体的な説明は割愛します。
実際に解散を行うこととなった時に、税務署や顧問税理士にご相談、確認をしてください。

 

残余財産の分配が完了したら、清算人は遅滞なく決算報告書を作成して、株主総会を開催して清算事務報告について承認を受けます。
この承認により、会社の法人格が正式に消滅することになります。

 

最後に、清算人は、精算に関する決算報告書の承認を受けた日から2週間以内に、法務局で清算結了登記を行います。
この時に、登録免許税2千円を支払う必要があります。

 

清算結了登記が完了したら、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に生産結了の届出(異動届出書)の提出を行います。
添付書類として登記事項証明書(閉鎖事項全部証明書)が必要となります。

この提出を以って、会社の解散、消滅に関する全手続きが完了します。


<3> その他の事項

 

ここまでご説明してきたのは、株主総会を開催しての解散(「通常清算」)のケースでしたが、これは基本的に清算をした結果、プラスか、少なくともプラスマイナスゼロの残余財産が残ることが前提となった手続きになります。

 

つまり、残余財産がマイナスになりそうな時には「通常清算」手続きは選択できません。

そのような場合には、会社法第510条に規定される、「清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること」又は「債務超過の疑いがあること」という要件を満たす時に選ぶことのできる「特別清算」手続きというものもあります。
しかし、これは債権者による債権放棄があることを前提としており、債権者側の同意を得る必要もあります。
その為、中小企業にとっては、選択肢として現実味の薄いものだと言えるでしょう。

 

また、<1>で書いたように、債務超過の時には裁判所に破産手続きの開始を申し立てることもできますが、これも手間もかかれば費用もかかるという点から、中小企業が選択することはほとんど無いでしょう。

 

結局、財務状況等が悪くて通常清算の道を選べない中小企業は、特に手続きを行わずに休眠状態に入ることが多いのが実情となっています。
そのような会社は役員重任登記なども行わないでしょうから、最終的に、法務局によるみなし解散の登記によって、消滅することになります。


以上、株主会社を消滅させる時の一般的な流れ、手続きについての簡単な解説でした。
実際に会社の解散を行う際は、解散時、精算時の確定申告もありますので、できれば、税理士などの専門家にご相談されることをお勧めさせていただきます。