三鷹の税理士 平林 達夫 の日記

三鷹にある平林会計事務所の税理士、平林達夫です。税金に関する疑問、不安、不明事項、法人税務や確定申告、相続、新規起業に関する相談など、いつでもお気軽にご連絡ください。当事務所では、初回相談料は無料とさせていただいております。詳しくは、リンクの欄にあるホームページ等をご覧ください。

インボイス制度で注意すべきこと      ~振込手数料

いよいよ始まったインボイス制度。

各種取引の処理において、適格請求書等の受け取りが無くても「仕入税額控除」の対象になる「課税仕入」として取り扱っていい特例等もある為、その判断を間違いなくできるかどうかが問われるところとなっています。

 

そんな中、これについては取扱いがどうなるのだろうかと悩まされることも多いのですが、今回はそのような中の1つ、銀行から買掛等の支払をした際の、振込手数料の扱いについて、説明させていただきます。

なお、売掛金や未収入金等に関し、こちらが負担するものとして請求額から差引かれて入金されることとなった、その差引振込料の処理については、「売上返還」として処理すべきであることを、4月30日のエントリーで書かせていただきましたので、今回はそこについては割愛させていただきます。

 

<1> 振込の3つの形態

このトピックについて説明する場合に、最初に確認しなければならないこととして、振込を行う、その方法に複数の種類があることが挙げられます。

これは振込作業を行う形態というか媒体というか、要するに、どこで、どのように振込をするのかという話であり、具体的には、次の3つに分けることができます。

 

  1. 窓口で振込を行う
  2. ATMで振込を行う
  3. ネットバンクで振込を行う

 

このような分類をしなければならない理由は、この3つがそれぞれ、インボイス制度下においては異なる取扱いを受けることになるからです。

それでは、それぞれのケースについて、順に紹介いたしましょう。

 

<2> 窓口で振込を行った場合

話としては、これが一番単純かもしれません。

実際に銀行の窓口に行って振込をしたことがある人であればご存じでしょうが、この場合は、手続きが完了した時点で、銀行から、振込料の領収証がペーパーで手渡されます。

したがって、支払いをした(振込を依頼した)こちら側としては、それを適切に保管しておくことでインボイス制度の「仕入税額控除」の要件を満たせますので、問題なく、「課税仕入」として処理することができます。

 

店舗などで物品の購入をした場合と同じ、インボイス制度における仕入の、基本中の基本の取扱いと言えるでしょう。

 

<3> ATMで振込を行った場合

従来は、ATMから発行される振込票を保存することで、その支払に関わる振込手数料の証拠書類としていました。

では、インボイス制度下においてもこれまで同様に、それを保存しておけばいいのでしょうか(振込票が適格請求書等の要件を満たす書式になるのでしょうか)。

実は、その必要はありません。

 

というのも、銀行やコンビニその他に設置されているATMは、以下の回の<3>で解説させていただいた、「自販機等からの商品等購入に関わる特例」に規定されている「自販機等」に該当するのです。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

この特例においては、支払額が3万円未満のものについては、適格請求書等の発行が無くとも、必要事項が記載されている適切な帳簿を保存することで、「仕入税額控除」の対象である「課税仕入」として処理することができます。

そして、ATMでの振込手数料が3万円以上になることがあるとは、一般的には想定できません。

つまり、ATMで振込を行った場合の振込手数料については、従来通りに仕訳を起票し、「取引日」「支払先(金融機関名)」「金額」「内容(振込手数料である旨)」の入力をしておけば、適格請求書等の有無は問われないこととなるのです。

 

処理として一番単純で簡単なのは、このパターンですね。

 

<4> ネットバンクで振込を行った場合

3つの分類のうち、インボイス制度に対応する為に会計担当者がしなければならない処理が、一番面倒なのが、これでしょう。

 

当たり前のことをわざわざ書くなと怒られてしまうかもしれませんけれども、前提として確認をさせていただくと、ネットバンクで振込を行った場合は、窓口と異なり、金融機関から、振込料の領収証を紙で受け取ることはできません。

つまり、<2>と同様の取扱いはできないということになります。

 

また、ネットバンク取引に用いたPCやスマホは、「自販機等からの商品等購入に関わる特例」に規定されている「自販機等」に該当しません。

ですから、状況的にはどこからどう見ても課税仕入としか思えないとしても、適格請求書等の受取・保存が無ければ、「仕入税額控除」の対象となる「課税仕入」として処理を行うことはできません。

 

では、どうするのか。

取れるべき方法は1つ、紙で受け取れないのであれば、ネットバンクのサイトから振込手数料に関わる適格請求書等をダウンロードで取得するしかありません。

各金融機関で発行画面には違いがあるでしょうが、一例として、当事務所のメインバンクである三菱UFJ銀行のサイトから、この問題について説明をしているページをご紹介します。

 

www.bk.mufg.jp

 

三菱UFJ銀行の口座であれば、後日一括引落の手続きをしていれば後日郵送ハガキで月間利用料を通知する適格請求書等を受け取るという選択肢も選べるようですが、それ以外の場合は、振込をする都度(あるいは毎月)、適格請求書等をダウンロードして取得することになります。

これは、かなり面倒だと思われるかもしれません。

 

ただ、この話の面倒なのはそこではなく、紙ではなくデータで取得する証憑書であることから、これが改正電子帳簿保存法の適用対象となるところにあります。

同法において、事業者が行わなければいけない対応については、以下のエントリーにて解説をしていますので、まだお読みいただいていない方は、この機会に、是非、ご一読ください。

 

hirabayashikaikei.hatenadiary.jp

 

以上、今回は金融機関から買掛金等を支払う際に発生する振込手数料について、インボイス制度下の取扱いと対応を書かせていただきました。

 

細かいことをいちいち言われても、と思われるかもしれません。

しかし、現状の法制度下においてはこれが事業者に求められている対応であり、これを守らないと、本来は「仕入税額控除」の対象と成り得るものが対象から外れてしまうことで、支払わなくてよかったかももしれない消費税等を余計に納付しなければならなくなってしまう可能性があります。

 

個別事例等については、皆さんが顧問契約をされている税理士、国税庁電話相談センター等にお問い合わせいただければと思いますが、原則的な取り扱いはここに書いたようなものであると、ご承知ください。

 

輸入消費税とインボイス制度

今月より、消費税のインボイス制度が始まりました。

受け取った領収証が制度に即した「適格請求書等」になっているかどうかの確認、そして実際の会計データ入力作業など、各事業者の業務がどのように変わるのか、変わったのか、それを皆さんが実感するのはこれからかもしれません。

これは、軽減税率導入(複数税率の併存)と並ぶ消費税の一大改正であり、各方面が様々にその影響を受けています。

実際は、軽減税率導入とインボイス制度導入はセット、法整備上は2つで1つのようなものであり、2つの大改正というより、段階を踏んで連続して行われた1つの改正というべきかもしれませんけれど(これは、2つの制度が不可分だと言いたいわけではありません)。

なお、その辺りの事情は長くなるのでここでは割愛させていただきます。

 

今回は、顧問先様にインボイス制度について説明していた際に、取扱いがどうなるのか懸念もあるとしばしば例に出していた、輸入消費税関係のことについて、現時点で言えることを書いていきます。

ただ、あくまで今回は基礎的な部分のご理解をしていただきたいという目的から大枠の説明に留め、個別の事例や論点についてはいずれ別の機会に改めて書かせていただくことにしますので、その点はご了承ください。

 

<1> 自社が輸入をしている場合

これは、難しくないと思います。

乙仲さんを使って輸入手続きを行ってもらっているにしろ、自ら輸入手続きを行っているにしろ、税関にて通関処理をし、関税や消費税を納付しているのはその事業者自身なわけです。

 

実際には色々と計算があってそんなにシンプルにはなりませんが、ここでは説明のために簡単な数字を用いるとして、例えば、10,000円の品物を輸入する際に、税関で1,000円の消費税を納付したとします。

その品物を購入した相手は海外の会社であり、日本の消費税の納税義務者にはなっていませんから、当然、インボイス番号(登録番号)は取得していません。

ということは、この仕入に関わる請求書等は、「適格請求書等」の要件を満たさないことになるわけですが、では、ここで税関に対して支払った消費税額 1,000円 は、「仕入税額控除」の対象として使えないのでしょうか。

 

もちろん、そんなことはありません。

 

消費税法第30条は、「仕入税額控除」の対象となるものについて規定している条文ですが、その第1項第3号は、国内事業者からの物品・サービス購入とは別個に、輸入取引に関する取扱いを定めています。

条文を抜粋して引用してみましょう。

 

仕入れに係る消費税額の控除>

 事業者(略)が、国内において行う課税仕入れ(略)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の(中略)課税標準額に対する消費税額(略)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(略)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(略)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(略)につき課された又は課されるべき消費税額(略)の合計額を控除する。

 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
 国内において特定課税仕入れを行つた場合 当該特定課税仕入れを行つた日
 保税地域から引き取る課税貨物につき第四十七条第一項の規定による申告書(略)又は同条第二項の規定による申告書を提出した場合 当該申告に係る課税貨物(略)を引き取つた日
消費税法第30条第1項)

 

ここから何が分かるのかというと、インボイス制度の対象になるのは国内仕入、つまり上記条文の第1号の部分であり、輸入取引は第3号ですから、インボイス制度とは関係が無い、対象外の取引ということが確認できます。

つまり、「適格請求書等」が無くても「仕入れ税額控除」の対象として構わないのです。

ただし、何の証明もなし、というわけにはさすがに行きません。

しっかりと通関手続きを行い、税関で消費税を納付しているからこそ、「仕入税額控除」でその税額を差し引くことができるわけですから、それを証明することができる書類、具体的には、「輸入許可通知書」の保存が必要となります。

 
必ず、保存しておくよう、お願いいたします。
 

<2> 取引先が輸入した場合

問題は、物品等の購入をした相手、取引先(仮にA社とします)が自分でその物品等を日本国内に持ち込んでいるケースです。

この場合は通関費用は先方が負担しているでしょうから、購入した側であるこちらの手元には、「輸入許可通知書」は存在しません。

また、輸入手続き関連費用はA社が負担し、当方の購入価格にその分が上乗せされているとしても、それはあくまでA社へ支払う商品代金であって、こちらが税関に納付したわけではありませんから、消費税法第30条第1項の第3項には該当しません。

 

また、A社の日本子会社等が存在してそこから購入している場合、あるいは、A社の代理店をしている日本企業があってそこから購入している場合は、単純に、日本企業から国内仕入を行った形になりますから、その取引はインボイス制度の対象になります。

 

そうではなく、A社から直接購入している場合に、消費税の処理はどういうことになるか。

これは、その相手先が日本国内に支店や営業所などの常設の拠点(恒久的施設:Permanet Establishment あるいは略称として PE とも言います)を有しているかどうかで変わることになります。

 

1)PEを有している場合

この場合、A社は日本国内で拠点を構えて日常的に営業活動等の事業を行っていることから、通常の国内取引として取り扱われることになります。

子会社等や代理店といった国内法人の場合と異なるのは、海外法人であるA社が直接、国内に拠点を持っているという点ですが、インボイス制度上の扱いは同様です。

 

つまり、この場合にA社からの物品購入に関わる消費税を「仕入税額控除」の対象とするには、次の2点が求められます。

 

  1.  A社が「適格請求書等発行事業者」として国税庁への登録を済ませていること(インボイス番号:登録番号を有していること)
  2.  A社から受け取る請求書・領収証等が「適格請求書等」の要件を満たしていること

 

2)PEを有していない場合

おそらく、面倒なのはこちらです。

A社が国際展示会等に参加する、あるいはA社の担当社員が商品を持参して直接当社に商談に来る、というようなケースが考えられそうです。

この場合は、その商品を持ち込んできたA社の社員が入国時に通関処理を行って、税関に消費税を納付していることが想定されます。

 

問題は、A社が日本の「適格請求書等発行事業者」となっているかどうかです。

もしなっているのであれば、1)と話は同じなので、請求書等が「適格請求書等」の様式を満たしていれば、問題なく「仕入税額控除」の対象にできます。

日本に商品を輸出して販売をしようという事業者が、日本国内での課税売上1,000万円以下等の免税事業者であるケースはあまり無さそうにも思えますが、例えば市場開拓の為のリサーチ等で国際展示会に出品をしているようなケース等では、「適格請求書等発行事業者」ではない、免税事業者に該当することも普通にあるでしょう。

そのような事業者から国内で商品を購入した場合は、こちらがその品物を保税地域から引き取った(輸入した)わけではないので、消費税法第30条第1条第3項の対象にはなりません。

私の確認漏れ、調べが足りなかった等で、実際にはこういう場合でも何らかの特例があったら申し訳ありませんが、条文・規定を見ていった限りでは、この場合は、「仕入税額控除」の対象外となる(ただし、しばらくは経過措置の適用あり)というというのが、正解なようです。

 

その品物の輸入時、通関時に確かに税関に消費税が納税されているのであれば、それを「仕入税額控除」の対象にできないというのは、さすがに理不尽ではないかと思われるかもしれません。

ただ、これも、A社は展示会等では、輸入時に税関で申告した価格(原価)に利益を上乗せして販売をしているだろうとすれば、それは、免税事業者が販売している(メーカーなどから消費税を支払って仕入れた)商品を購入した場合に、消費税の「仕入税額控除」の対象にできないという、インボイス制度の基本ルールと構造的には同じことだと考えれば、何となく納得していただけるのではないでしょうか。

 

 

インボイス番号の店頭掲示

インボイス制度の適用開始も目前ですが、
これまでにこのブログではこの制度について、
そして会計ソフトへの実際の入力について
特例や注意事項を紹介、説明をしてきました。

 

もちろん、これだけ大きな改正項目ですから
10月以降も必要に応じて解説その他を
色々と書かせていただく予定でおります。

 

そんな中で、今回はこれまで触れ忘れていたこと、
つまり、小売りや飲食店など一般消費者を
主に取引先としているような小規模事業者が
インボイス番号を取得していることを
どのようにアピールしていくかを紹介します。

 

これ等の店舗で問題、というか不安材料となるのは、
経理課から消耗品購入や打合せ時の飲食などは
できるだけインボイス番号のある店舗で、
というような指示が出ているような会社員に、
大手チェーン以外は番号が無いかもしれないから
利用しないと考えられてしまうことでしょう。

 

そこで、この店はインボイス番号を取得した
課税事業者だとアピールする必要が生じます。

 

その為には店の入り口等にその旨を記した
表示を貼りだせばいいのではないかということで、
TKCが例として提示したのが下の画像です。

 

 

このようなシール入り口やレジのところに
貼っておくことで、インボイス番号を持つ店だと
アピールするという方法は、他の事例では
例えば免税店(輸出物品販売場)について
観光庁が作ったシンボルマーク等があります。

 

www.mlit.go.jp

 

免税店シンボルマークと違いインボイス番号掲示
特に決まった様式があるわけではありませんから、
TKCからこのシールを購入して使ってもいいし、
自分で独自のデザインを作ってみるのもアリです。

 

重要なのは、「インボイス番号取得済みである」
ということを一般に広くアピールすることなので、
そこが強調されるデザインにするのがいいでしょう。

 

業界として統一デザインを作る動きがあっても
いいのではないかと思うのですけれども、
私のリサーチ不足なのかどうか、今のところ、
それに該当するようなものは見つけられていません。

 

インボイス番号の有無が売上にどれだけ影響するか
の確認も含め、これからの課題かもしれませんね。

 

インボイス制度下の会計ソフト入力 その2

消費税のインボイス制度が始まるまで、あと半月ほどです。

 

前回、8月27日に公開したエントリーでは、当事務所が推奨している2つの会計ソフト、TKCの財務ソフト(FXシリーズ、DAICシリーズなど)と、ソリマチ㈱のソフト(会計王)について、主に前者に重きを置いて、会計データ(仕訳)を入力する際の基本的事項を説明させていただきました。

今回は、その補足というか、おそらく実際に入力を開始した皆様が気にされるであろうことのうち、特に、これは戸惑うかもしれないと思われることを書かせていただきます(今回は、㈱TKCの財務ソフト、FX2 のみを例に使ってご説明いたします)。

 

いざ10月になってから、これはこれで大丈夫なのか、と不安に駆られたりしないよう、今回のこのエントリーをお読みいただいて、「インボイス制度下での入力はそういうことになるんだな」と、事前にご理解いただければと思います。

 

<1> 請求書と入力値との消費税額のズレ

前回にお知らせしたように、インボイス制度が始まると、登録番号(インボイス番号)を持たない者からの仕入は、例えその請求書に消費税額が記載されていようとも、消費税の課税対象外の取引として取り扱います。

例えば、10,000円の物品に対し1,000円の消費税を加算して11,000円という請求書を受け取り、支払った(あるいは支払いに対し領収証を受け取った)というような取引があったとして、その相手方がインボイスの登録番号を有さなかった時は、これを「税込:11,000円」ではなく、「税抜:11,000円」として認識しなければならないのです。

 

つまり、その事業者が納付しなければならない消費税の計算上、その仕入については、税額の控除対象(「仕入税額控除」の対象)として使うことができません。

 

とはいえ、いきなりインボイス番号を有さない相手からの仕入の全てを消費税の「仕入税額控除」の対象として認めないというのでは、諸々の問題が生じることが懸念されるので、経過措置として、3年間は従来は「仕入税額控除」の対象とされていた額の80%を、その後さらに3年間は50%を、「仕入税額控除」の対象として認めることとされています。

この経過措置の入力時の仕訳が、今回の採り上げる論点です。

 

仮に、令和5年10月27日に、当事務所(平林会計事務所)から請求を受けた 11,000円 の顧問料を現金で支払ったとします。

当事務所は登録番号を取得していますので、この場合、FX2の入力画面(1伝票型)は、次のようになります。

 

 

消費税の課税仕入(課税区分「5」)として入力し、以下の仕訳のように、1,000円の仮払消費税等を計上するという、皆さんが見慣れた形ですね。

 

   雑費       10,000  /   現金  11,000

   仮払消費税等  1,000

 

では、当事務所が登録番号を取得しておらず、経過措置の対象となる場合はどうなるのでしょうか。

この場合の課税区分は、前回紹介した、「52:免税事業者等からの課税仕入れ(課税売上げ)」になります。

 

 

同じように仕訳を掲載します。

 

   雑費       10,200  /   現金  11,000

   仮払消費税等     800

 

税込 11,000円(消費税率 10%)の取引なのに、計上される仮払消費税の金額は 800円となっています。

何だか気持ち悪いな、と感じられるかもしれません。

この場合の 800円は、請求書に記載されていた 1,000円 の消費税(本体価格の10%相当額)の80%、つまり、1,000 ✖ 0.8 =800 という式で算出されています。

本来は仮払消費税等は一切計上されないところを、経過措置として認められる割合だけ、計上しているという形ですね。

 

請求書記載の「税額」とは異なりますし、本体価格も、請求書とはズレてしまっており、10%という税率に合っていないと見えるでしょうが、これが、インボイス制度下における正しい仕訳計上であり、会計入力となるのです。

感覚的には座りが悪くて納得し難いでしょうが、「そういうものだ」と呑み込んでいただくしかありません。

 

<2> 売掛金等の入金額から差し引かれたものの処理

4月30日に公開したエントリー、インボイス制度で注意すべきこと その1」へのリンクを貼っておきますので、よろしければここの「<3> 少額な返還インボイスの交付義務免除」をご覧いただきたいのですが……

売掛金等を取引先が振込んでくる時に、振込手数料を差し引いて(こちらの負担として)入金されることがありますよね。

 

 

これを、こちらが支払った経費であるとして課税仕入で処理をする場合には、その取引先から振込料部分の仕入インボイスの発行を受ける必要があります(こちらが小規模事業者の特例対象に該当するのであれば、インボイスの発行を受けずとも通常の課税仕入として処理ができますが……)。

しかし、当方が負担することになった振込料等の全てに仕入インボイスを取り付けるのはかなり面倒ですよね。

そこで、上記、「少額な返還インボイスの交付義務免除」特例を活用する、すなわち、負担することになった振込料部分は、売上等の値引額であるとして、課税区分を「11:課税売上げに対する対価の返還」にして処理すれば、改めて仕入インボイスあるいは売上インボイスを発行する必要は無くなります。

 

使用する勘定科目は、「売上値引」等を使わなくても、課税仕入として処理していた時と同じように、「通信費」や「支払手数料」を用いて構いません。

入力画面は、このような感じになります(当事務所に対して、例えば書架等の備品の売上が発生したところ、代金が振込料相当額である 110円 が差引かれた金額で入金されたと仮定します)。

 

 

仕訳は、こんな感じですね。

 

   通信費       100  /   売掛金  110

   仮受消費税等      10

 

ここで1つ、注意していただかなければならないことがあります。

それは、当事務所に対して売ったのが、軽減税率の適用対象であるもの、例えば事務所打合せ用のペットボトル飲料1ケース等だった場合です。

 

これは理屈で考えていただきたいのですが、軽減税率で売上げたものに対し値引きを行うとしたら、その値引きに関わる消費税率はどうなるでしょうか。

当然、軽減税率が適用されますよね。

つまり、当事務所が支払時に差し引いたのは銀行等に支払った振込料(110円)相当額で、これは通常の税率 10% が適用されていますが、その差引額を売上値引とする場合には、これを軽減税率 8% で処理することになるのです。

 

入力画面で確認してみましょう。

 

 

仕訳は、こうなります。

 

   通信費       102  /   売掛金  110

   仮受消費税等        8

 

明らかに消費税率 10% の取引っぽい 110円という取引額なのに、適用される消費税率は軽減税率の 8% なので違和感を覚えると思いますが、これも、そういうものなのだと割り切ってください。

なお、<1> の事例と違ってこの 「8円」という消費税額は、10円 の 80% 相当額として計算されたものではなく、普通に、税込 110円 を税率 8% で本体価格と借受消費税等とに分解して算出されています。

つまり、次の計算式です。

   110 ✖ 8/108 ≒ 8 円

この点、誤解されないよう、お願いいたします。

 

以上、今回は、インボイス制度が始まる10月以降の実際の会計入力時に、戸惑ってしまう可能性が高い2つの事項についてご説明しました。

 

 

インボイス制度下の会計ソフト入力

今から1ヶ月もすれば、いよいよ消費税等のインボイス制度が開始されます。

これまでこのブログでは、インボイスに関わる取扱いの特例や、具体的項目などを書かせていただいてきましたが、今回はそれについては一旦停止して、会計ソフトに仕訳入力を行う際のことをご説明いたします。

 

といっても、全ての会計ソフトについて書いていくのは無理なので、ここでは、当事務所が推奨しているもの、株式会社TKCの財務ソフト(FXシリーズ、DAICシリーズなど)と、ソリマチ株式会社のソフト(会計王)を、主に前者に重きを置いて、説明していきます。

他社のソフトについても基本的な部分は変わらないのではという想像はできますが、実際にそれ等を操作するなどして確認したわけではないので、10月以降に入力を行う皆様におかれましては、そのソフトの販売元やご契約されている会計事務所に、実際の操作についてはご確認いただきたいと思います。

 

<1> 課税区分の追加

どのような会計ソフトであっても、仕訳入力をする際には、その取引が消費税の課税対象になるのか否かという原則的判断をはじめ、その取引が消費税的にどのような課税区分に属するのかを判断して入力する欄があるかと思います。

そうしなければ、その事業年度の消費税額の正確な計算を行うことができません。

その選択肢の中、または別欄に、この10月以降は新たな区分が増えることになります(実際には現段階で既に入力・選択が可能となっていることでしょう)。

それが、登録番号(インボイス番号)を持たない者からの仕入に対応する区分です。

 

1)㈱TKCの財務ソフトの場合

下の画像は㈱TKCの財務ソフト「FX2」の、仕訳入力時の消費税課税区分選択画面なのですが、このソフトをこれまで使ってきた方は、今年6月のバージョンアップで「52」と「53」という2つの選択肢が増えたことに気付かれたかもしれません。

ここに、登録番号を持たない、インボイス(適格請求書等)の発行を受けていない仕入関係の仕訳が入ることになります。

「52」は消費税の課税対象となる仕入のうちインボイスの交付を伴わないものを行った時、「53」はそれに対して返品・値引きなどがあって対価の返還を受けた時に、それぞれ選択することになります。

 

なお、「52:免税事業者等からの課税仕入れ(課税売上げ)」という項目名ですが、「免税事業者」からの「課税仕入れ」という一見矛盾しているフレーズが目を惹きますので、ここが気になって仕方がないという方もいらっしゃるかもしれません。

これは、相手が免税事業者であっても、消費税の課税対象となる4つの要件(①国内で ②事業者が事業として ③対価を得て行う ④資産の譲渡及び役務の提供)を満たす課税取引を行うことは当然にありますので(取引そのものは消費税の課税対象ですが、その事業者が特例の適用を受けて免税事業者になっているのでその取引からは消費税が発生しない、というのが、消費税法上の位置づけになります)、それを受けてこういう記述になっているのでしょう。

また、「等」が付いているのは、必ずしも相手は免税事業者であるとは限らないということを示しているのですが、これは、消費税の課税事業者であってもインボイスの登録番号を取得していないという事業者も理論上はあり得ること等を反映しているのだと思われます。

 

 

登録番号の無い者からの仕入は消費税の仕入税額控除の対象としない、というのがインボイス制度の内容ですから、ならばそういった仕入は課税対象外の「0:不課税取引(税外取引)」を選べばいいのではないか?という声もあるでしょう。

確かに、制度の概要からいえば、それで問題は無さそうです。

しかし実際には適格請求書等以外の仕入仕入税額控除からの除外には、令和8年10月までは免税事業者等からの仕入であっても80%相当額の、令和11年10月までは50%相当額の仕入税額控除を認めるという、経過措置があります

(この経過措置に関する日本税理士連合HPの表はこちらから)

 

したがって、この経過措置分の仕入を集計する為にも、消費税の課税対象となる4要件を満たさないことから初めから課税対象外となっている取引と、4要件は満たしているものの取引相手が登録番号を持っていないので課税仕入であるとは扱えない取引とでは、明確に処理を分けておく必要が生じるのです。

 

2)ソリマチ㈱の会計王(22以降)の場合

ソリマチ㈱のソフトで、インボイスに対応しているバージョンの「会計王22」だと、ここの選択画面は次のようになります。

 

画像はクリックで拡大されますが、それでも見にくいかもしれないので、選択のプルダウンメニューのところを抜粋してみましょう。

 

80%控除になるのか50%控除になるのか、仕訳の起票日などから自動判定はしてくれなくて、自分で判断して選択しなければならないという点が、㈱TKCのソフトに劣りますが、ともあれ、ここに経過処置の対象or対象外を入力することで、その課税期間の消費税が適切に計算されることになります。

 

<2> 特例の場合の入力

以前、以下の2回のエントリーで説明したように、インボイス制度化においては、適格請求書等の受取が無くとも課税仕入として仕入税額控除の対象とすることが、特例的に認められている取引があります。

 

 

ここで、仕入に関わるインボイスの交付を不要とする特例について、改めて簡単に列記してみましょう。

  1.  3万円未満の公共交通機関(鉄道、バス、船舶)の運賃
  2.  3万円未満の自動販売機での購入
  3.  郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
  4.  従業員等に支給する、通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当
  5.  簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)を満たす入場券等が、その使用の際に回収される取引
  6.  古物営業、質屋、宅地建物取引を営む事業者が適格請求書発行事業者ではない者から、古物、質物または建物を、当該事業者の棚卸資産として取得する取引
  7.  適格請求書発行事業者でない者から、再生資源または再生部品を棚卸資産として購入する取引

更に、これに加えて、もう1つ。

 

  •  基準期間の課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5千万画に家の事業者が行う、税込1万円未満の課税仕入れ(令和11年9月30日までに発生する取引に限る)

 

上記に該当する取引については、インボイスの受取がない、登録番号を持たない者からの仕入であっても、インボイスを受け取ったものとして扱っていいことになっています。

つまり、通常の「課税仕入れ」とみなして構わないとされているのです。

 

では、この場合、<1>で紹介した、財務会計ソフトにおける課税区分の選択は、どのようなものになるでしょうか。

 

結論から書きます。

このような場合は、TKCのソフトであれば課税区分「5」を、ソリマチ㈱のソフトであれば経過措置選択を「適用なし」で入力してください

 

これは、取引先(仕入先、購入先)が、インボイスの登録番号を持っているか否かを問いません

というのも、仕入税額控除の対象外となる(ただし、6年間は経過措置として一定割合の仕入税額控除参入は可能)のは、登録番号その他が記載されたインボイス(適格請求書等)を発行していない相手との取引であって、その判断の為には発行を受けた請求書、領収証、納品書などが(法の規定を満たす)インボイスに該当するか否かを確認する必要があるからです。

最初からインボイスの交付を受けなくてもいいというのは、すなわち、この確認作業もしなくていいということを意味します。

ですから、そういった取引については、会計ソフト等への入力時の課税区分は、消費税法の原則に立ち戻って、消費税課税の4要件を満たすかどうかのみで、課税取引か否かを判定することになります。

そこに、登録番号の有無は関わってきません。

 

 

以上が、インボイス制度下で財務・会計ソフトへ入力を行う際に、課税区分欄で注意すべきことになります。

今回は㈱TKCとソリマチ㈱の製品についてのみ書いていますが、基本的に、他社のソフトについてもこれと同様の対応をすることになるはずです。

 

インボイス制度が開始以降、実際に仕訳を入力する際に、おそらく、当面一番間違いが発生するのはここになるのではないか、と考えられます。

結構手間な話ではありますが、経理担当、入力担当の皆様は、今回ご説明した点に十分ご注意いただいて、日々の入力をしていただければと思っております。